ユニクロを運営するファーストリテイリングは、物流の完全自動化へ向けて加速する。
撮影:今村拓馬
11月に突如発表された「ユニクロの倉庫自動化計画」の全貌 —— その背景には、ファッション業界全体に広がる「物流自動化」という大きな課題がある。
自動化計画の一翼を担うロボットベンチャー、MUJINの滝野一征CEOに話を聞いた。
ユニクロ柳井会長は「危機感」を繰り返した
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(ファストリ)は11月、ロボットベンチャーのMUJINと提携し、物流倉庫の自動化を加速していくと発表した。
以前から提携していた物流機器大手ダイフクが、まとまって入荷した商品の検品、保管、出庫までを担い、個々の商品をそれぞれの店舗などの要望に合わせて箱詰めする“ピッキング”と呼ばれる最終工程をMUJINが請け負う。
倉庫の自動化に「王手」をかけた格好だ。
出典:MUJIN
MUJINは、2011年に創業した日本発のロボットコントローラーメーカーだ。通常、ロボットはあらかじめプログラムを教え込み、それに基づく動作しかすることができないが、MUJINが開発したコントローラーは人工知能を使ってロボットに動きを“考えさせる”。
取り扱うモノを画像認識し、最適な動作方法を瞬時に計算して命令することで、あらゆる種類のモノを正確に拾い上げ、箱詰めすることができるという。2019年4月には累計75億円の資金調達を実施したことでも話題になった。
「柳井さんは、竹を割ったような性格の方。70歳だが(感覚が)めちゃめちゃ若くて、(話が決まったら)3週間後くらいには実現できますよね?みたいなスピード感覚で仕事をしている。とにかく危機感、危機感と繰り返していた」
MUJINの滝野CEOは、2018年10月に行われたというファストリ柳井正会長兼社長との“運命の会合”をそう振り返る。
一度崩壊した「有明プロジェクト」
ファストリの物流改革への“焦り”が報じられるようになったのは、ここ最近の話ではない。同社は2014年からサプライチェーンの大改革を掲げ、全社をあげて「有明プロジェクト」を始動していた。
しかし、物流パートナー企業にセンターの運営を“丸投げ”したことから仕組みが崩壊。
「実際に現場で何が起こっているのかを把握できていなかった」(神保拓也ファストリ執行役員)と過去のインタビュー(下記リンク参照)で語っているように、2016年に仕組みを一から整え直した経緯がある。
手痛い失敗を経てもなお、ファストリが物流に喰らいつく理由は何か。柳井会長は滝野CEOにこう語ったという。
「日本では物流倉庫の生産年齢人口が減っていく。従来通りの人海戦術は経営上のリスクになる。コストはかかるかもしれないが、今(改革を)やるべきだ」
ビームスにアローズ……揺れる「物流改革」
自社物流に力を入れるビームス。
撮影:今村拓馬
サプライチェーン全体のデジタル化を進めることで競争力をつける —— こうした課題意識を持つのはファストリだけではない、とファッションジャーナリストの松下久美氏は指摘する。
松下氏は「国内ファッション企業の中でも、早期からビームスや、『ローリーズファーム』などを手がけるアダストリアは自社物流を行ってきた」と指摘。
「とくにビームスは、ICタグを導入したり、段ボールパッケージの製造・販売を担う新光と連携し、積載効率の向上や無駄な緩衝材の削減などにも取り組んできた」と解説する。
オンワード、アーバンリサーチといった大手や中堅も自社ECサイトを強化する一方で、物流インフラ整備に力を入れている。
一方、物流費が高騰する中で、ユナイテッドアローズは売上高の成長と比例したコスト増を懸念。試行錯誤の末、ZOZOの子会社に運営を再委託し、2カ月半ぶりの11月27日にECサイトを再オープンしたところだ。
ZOZOの強さの秘けつは「物流力」
ZOZOが新たに拡大する物流拠点「プロロジスパークつくば2」。2020年秋の本格稼働を目指すという。
出典:ZOZO
さらに松下氏は、ファッション通販サイトを運営するZOZOの強さは頭一つ抜けているとみる。「国内アパレル企業が自社ECを強化しているが、買い物をしてから最短でモノが届くのは、やはりZOZO。強さの秘けつは、その物流力にある」と分析。
同社はこれまでも千葉・習志野や茨城・つくばに物流拠点「ZOZOBASE」を構えてきた。現在も新たな物流拠点「プロロジスパークつくば2」を開発中で、年間約6000億~7000億円の商品取扱高まで対応可能になる(2019年3月期の実績は3231億円)としている。
物流には多額の資本が必要とされることから、「共同物流」という選択肢も浮上する。
「共同物流には、JANコード(国際標準の商品識別コード)の活用や、帳票類やダンボール箱などの規格の統一なども課題になる。だが、競争力を高めるには、業界の中でいかに連携できるかを模索していくべき。しかし現状、業界団体などではまとめきれず、イニシアチブを取る企業やリーダーの存在が必要とされている」 (松下氏)
自社物流か、委託すべきか、共同物流か —— その経営判断は企業ごとに分かれると松下氏はいう。
そんな中でのファストリの強みは、 SPA(製造小売り)というビジネスモデルから、製造から物流までを自社で一貫して手がけられるところ、さらに好調な業績をバックにサプライチェーンの変革に大きな投資ができることだと、松下氏は分析する。
僕らは「ドロドロベンチャー」
MUJINの滝野一征CEO。
撮影:西山里緒
ファストリ柳井会長が、創業わずか8年のベンチャーであるMUJINを、有明プロジェクトという一大物流改革のパートナーに抜擢した理由について、滝野CEOはこう説明してくれた。
「まず、技術と実績があること。そして、人工知能と銘打っているだけのキラキラベンチャーじゃなくて、リアルな現場感覚を持った“ドロドロベンチャー”なこと。そこが信用されたんじゃないかな」
立ち向かうべき課題は山積みだ。サプライチェーン改革とはそもそも、倉庫の自動化に止まらず、商品パッケージの統一化、販売状況のデータ化、店舗の陳列に至るまで、すべての工程に関わる大きな取り組み。
今後MUJINは、これら工程のデジタル化をファストリと共同で進めていく。「ユニクロとやる、と決めた時点でリスクは取った。覚悟は決めた」(滝野CEO)。そう、微笑んだ。
(文・写真、西山里緒)