就活セクハラに実効性のある対策を ——。女子大学生らの団体が記者会見を開き、国、企業、大学全てが無責任だと訴えた。
「うちは社内結婚が多いから安心だね。早めに彼氏つくらなきゃ売れ残っちゃうよ」「メガネをはずした方が可愛いのに」「女は20歳まで」
面接やOB訪問で上記のようなセクハラ被害が後を絶たない中、大学に対策を求めた学生は「前例がない」と断られたという。
「社内結婚が多いから安心。売れ残らないように」
就活セクハラ対策を求める学生ら(2019年12月2日)。
撮影:竹下郁子
12月2日、東京都内で記者会見を開いたのは、東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学・上智大学・創価大学・国際基督教大学の学生らによる団体「SAY (Safe Campus Youth Network)」のメンバーだ。
大学の枠を超えて性暴力についての勉強会を開く中で、就活中のハラスメントが深刻だと認識。先日、職場でのパワハラやセクハラを防ぐため、国が企業に求める指針案が大筋でまとまったが、SAYでは就活セクハラの実態を反映しておらず実効性がないとして、緊急声明を出していた。
2019年6月まで約1年間就職活動をしていたという学生は、OB訪問やインターンシップ後の社員との食事の席などで、繰り返し「彼氏いるの?」「結婚はどう考える?」と聞かれたという。
「『うちは社内結婚が多いから安心だね。早めに彼氏つくらなきゃ売れ残っちゃうよ』と言われたこともあります。私を採用するのにこれらの情報は本当に必要なのでしょうか。女性である私に対する軽視や性的なからかいが、『冗談だから』という“前ふり”だけで全て許されてしまう現状に、怒りや悲しみを感じました。
でも私は就活生で、相手は志望する企業の人。笑ってごかまして、反論できませんでした。『空気が読めないやつ』と思われたら次の選考に進めないからです。こんなつらい就活を、後輩にして欲しくはありません」
またある学生は、
「女性にだけ化粧、ストッキング、ハイヒールやパンプスがマナーとして定められていることが多いんです。就活マナーが性別によって分けられていることに、すごく疑問を感じます」
と訴えた。
体を触られた学生も多い
撮影:今村拓馬
これまで就活セクハラについてアンケート調査などを行ってきた学生らの団体「Voice Up Japan」の学生Aさんはこう語った。
「OB・OG訪問で体を触られた学生の数が本当に多くて、びっくりしました」(Aさん)
また、OB訪問マッチングアプリで出会った企業の人から「就活を手伝うよ」と言われ性的な関係を求められた人もいたそうだ。さらに、友人にも同様の発言をしていることが後日発覚するなど、アプリを通じて同一人物が複数の学生に性的な関係を求めている実態もあるという。
他にも、
「美人ではないけど、面接で受かるくらいのかわいさはあるよね。恋愛すればもっと変わるのに」
「うちの会社には独身の男はいっぱいいるからなぁ。よりどりみどりだぞ」
「女は仕事を結婚への腰掛けにしようとするんでしょ」
「メガネを外した方が可愛い」
「女は20歳まで」
など、容姿への言及やセクハラ発言も多かったそうだ。
大学に対策求めても「前例がない」
会見する学生ら。撮影不可の学生も「就活への影響を考慮して実名顔出しできないが、それでも声があげたくてここに来ました」と話した。
撮影:竹下郁子
Aさんは「企業に相談窓口があっても、相談することはできません。なぜなら、相談することすら採用に影響するのではないかという恐怖に、学生は怯えているからです」と言い、大学に責任ある行動を求めたいと話す。
自身も大学に「もし私が就活セクハラにあったらどんなことをしてくれるのか」と尋ねたが、「前例がないのでわからない」という回答だったという。
就活が終わった学生を対象にしたアンケートには、困ったことなどをたずねる欄もあるそうだが、そこにこれまでハラスメント被害の声が上がっていないと言われたそうだ。
「『私たちの大学に被害を受けた人はいない』『OB・OG訪問時などのハラスメントも他の大学より少ないと思いますよ』とも言われました。調査をしていないのに、無責任だと感じました」
「Voice Up Japan」は、Aさんの大学にも就活セクハラの被害者がいることを把握しているという。
会見に出席した別の学生は、
「学生自身がどんな発言や行為がハラスメントに該当するのか理解していないことも、就活セクハラの背景にある」
と考えているという。学生全員を対象にしたハラスメントのガイダンスをして欲しいと大学に申し入れたが、良い返事は返ってこなかったそうだ。
「学生が声上げるの無駄だと思わない環境作りを」
「圧倒的に弱い立場にいる学生が、それにもかかわらず前に出て声をあげる意味を考えて欲しい」と訴える林教授(左)と上智大学法学部の三浦まり教授(右)。
撮影:竹下郁子
「現在、多くの大学が学生から被害報告を受けていないことを理由に、アクションを起こしていないのではないでしょうか。学生が安全に全力で学問に取り組む環境を守るのは、大学の責任の1つです。大学は受け身の姿勢で学生からの被害報告を待つのではなく、これ以上被害が1件も出ないように対策を練って欲しい」(Aさん)
実態調査、キャリアセンターなどによる就活セクハラの危険周知、相談窓口の設置など、「学生が声をあげても無駄だと思わないような環境作りをして下さい」と訴えた。
Business Insider Japanの「就活セクハラ緊急アンケート」によると、723人の回答者のうち、約半数にあたる359人が就活セクハラの被害にあっている(2019年11月24日時点)。そのうち75%が当該企業や大学などの関連機関、また身近な人にも相談できていない。
アンケートでは就活セクハラをなくすための対策についても聞いているが、大学に期待する声は少なく、「就職内定率ばかり気にしている大学が味方になってくれるとは思えない」「大学に相談したが、たらい回しにされて解決しなかった」などの声も寄せられている。
就活セクハラへの大学の取り組みに関しては、文部科学省も以前から調査してきた。2018年度の調査で就活セクハラを学生から相談されたことがあると回答したのは、1091校中55校と全体の5%で、40校は無回答だ。
会見に同席したSAYメンバーの東京大学大学院・情報学環の林香里教授は、圧倒的に男子学生が多い学内の状況なども影響し、就活セクハラへの問題意識が十分に育っていないと分析している。
「具体的な対策をとるステップにいたっていない事実は、真摯に受け止めている。海外の事例などを学生とともに学び、今後の対策として提案していくためにSAYを結成した。これからも声を上げていきたい」(林さん)
(文・竹下郁子)
就活セクハラのアンケート調査にはこれまで730人を超える方にご協力いただきました(2019年12月2日時点)。引き続き就活セクハラの実態をお聞かせください。ご協力をお願いします。