#助けて多胎育児 にこれまでにない注目、双子姉妹の筆者も考えた

双子

一度に2人分の育児が済んで”ラッキー”だと思われがちな多胎育児だが、今その負担の重さに注目が向けられている。

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「一度に2人分の子育てが終わってラッキーね」

双子を育てる両親に、悪気なくかけられていた言葉だ。

私は25年前に双子姉妹の次女として、姉より5分(だけ)遅れて生まれてきた。そして、同じタイミングで小学校・中学・高校・大学へと進学し、ほぼ同時に私たち姉妹は社会人になった。

年の差のある兄弟であれば、兄の受験が終わったら次は弟という風に、次から次へとライフイベントがやってくるだろう。私たちは同じ年に大学受験をしたので、ハラハラする時期は1年分だけ。「全部1回で済んでラッキーね」と声をかけたくなる気持ちも理解できる。

しかし、多胎児の子育ては、時に“ラッキー”とは言えない重い負担を抱えることにもなりうる。2018年1月、愛知県豊田市で、三つ子の母親が生後11カ月の第3子を床にたたきつけて死なせてしまう事件が発生した。

また、2019年10月には名古屋市営バスを利用した母親が双子用のベビーカーを持ち込むことができなかったことが報じられ、話題になった。

これらの事件や問題・出来事をきっかけに、多胎児の子育て負担の重さに注目が集まってきている。

多胎児を育てるということは、全てが一度に済むというだけではなく、数人分の子育てにかかる全ての負担が同時に降ってくるという、想像を絶する世界でもあるのだ。双子に生まれた当事者として、家族にまつわる事業を営む会社manmaの経営者として、多胎児の子育て支援について考えたい。

少子化社会で増える双子の割合

哺乳瓶

少子化社会の中で、双子の出生数は減っていない。双子を街中で見かけても、珍しく感じなくなっている。

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多胎児支援について考える上で、生まれてくる子どもの数に占める占める双子の割合が増加しているという事実を、私たちは直視しなければいけないだろう。

少子化が進行を続ける日本において、出生数は過去最低の91万8397人にまで減少した(2019年厚生労働省人口動態統計)。一方で、双子の数は1975年から2009年にかけて、ほとんど減少がみられない。医療技術の向上、不妊治療の進化などにより、出生数に占める双子の割合が増加し、50年前と比べて約2倍になったともいわれている。

双子、多胎児の割合

厚生労働省

私が子どもの頃は、双子がとても珍しがられ、双子であるだけで恥ずかしいぐらいに目立っていた。しかし、以前に比べて双子は珍しくない存在になってきている。

知られていない多胎育児の大変さ

子どもの数に占める双子の割合が増えるにつれ、単産とは異なる多くの困難があると指摘される多胎児出産・育児に向き合う親も増加している。

体重が2500グラム未満の新生児は低出生体重児とされる。多胎児の場合、2500グラム以下の子どもの割合は71.7%にのぼり、大多数が低出生体重児だ(「小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査」厚生労働省)。

私たち双子の場合も例外ではなかった。私自身は3000グラム近くで生まれてきたが、双子の姉は2500グラムに満たない低出生体重児だった。

また早産の可能性も高く、単胎の場合はほとんどが37週以上に生まれるが、多胎の場合は32〜36週で生まれる割合が40%以上にのぼっている。

低出生体重児の占める割合

厚生労働省

単児・多児の分娩週数の分布

厚生労働省

9割の親「気持ちがふさぎ込んだ経験がある」

つらそうな母親

多胎育児をするにあたって、育児を負担に感じる人は少なくない。

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母親が三つ子の次男を死なせた愛知の事件をきっかけに報道も増え、壮絶な多胎児育児の現実に目を向け、サポートしようという声が高まった。

民間団体の「多胎育児のサポートを考える会」は2019年秋、多胎児を育てる1591世帯を調査、「気持ちがふさぎ込んだり子どもにネガテイブな感情を持ったりしたことがある」人が9割超にのぼることを明らかにした。同会は「#助けて多胎育児」を掲げ、多胎育児には社会的なサポートが切実に必要だと訴えている。メディアでも相次ぎ報じられた。

若者の就労支援などを担うNPO法人「育て上げネット」理事長、工藤啓さんが双子の父親になったことをきっかけに、「双子妊娠がわかったときに読む最初の1冊を作りたい!」とクラウドファンディングを行い、300人以上から250万円にのぼる寄付を集めたことも注目を集めている。

ワンオペで双子育児の母がしていた苦労

ベビーカー

多胎児を育てているからといって、特別扱いされる社会ではない。ワンオペで多胎育児をする上でのリスクは計り知れない。

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多胎育児への関心がこれまでになく高まる今こそ、多胎育児をめぐる課題を社会がどう支援していくか、真剣に考えなければいけない時がきている。

自分自身の幼い頃を思い返してみても、双子だからといって、特別な支援を受けた記憶もない。幼い頃、私たちはエレベーターのないアパートの3階に住んでいた。ワンオペ育児をしていた母親は、2人同時に3階まで歩いて運ぶのが困難で、1人は1階に置いていかざるをえなかったという話も聞いた。誘拐されるリスクを考えるとハラハラするが、そうせざるをえなかったのだ。

祖母の強力なサポートがあったとはいえ、四六時中一緒にいてくれるわけではない。母親が1人で2人の子どもたちと向き合っていた時間も多かった。

多胎児家庭は単胎家庭に比べて、より物理的に人手が必要になる。共働き家庭も増える中、これまでの「母親を中心に家族で子どもの面倒を見る」という“孤育て”では、乗り切れない人が多くなるのは間違いない。

多様な世代が関わるという一つの希望

私自身は19歳の頃から、若い世代が多様な子育て家庭に体験訪問する「家族留学」というプログラムを、自分の経営するmanmaで運営してきた。若い世代が子育てに触れることで、彼ら自身が未来を描く力にもなる。

受け入れる家庭にとっても、子どもたちと社会との新しい接点を作り、家族を社会に開くきっかけとなっている。このように、子育てに多様な世代が関わることの意義は間違いなくあるだろう。

多胎児が増えている今、多胎児の特別な支援について考えることはもちろん重要だ。それだけではなく、そもそも社会全体として子育てに関わるような仕組みに転換していくことで、多胎児の親も、単胎の親も、みんながより安心して子育てができる環境を形作っていきたいと思う。


新居日南恵:株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。“家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学。

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