#KuTooの署名を立ち上げた、グラビア女優・ライターの石川優実さんが12月3日、厚生労働省に要望書を提出し、改めてこの問題への対応を求めた。
同日開いた記者会見には、ヒールやメイクを強制された女性たちも同席。途中、石川さんが就活でヒールつきパンプスを履かなければならないという社会規範に苦しみ、就職そのものを断念した女性の手紙を読み上げ、涙した。
パワハラ、でも国の対策は不十分
#KuTooの記者会見をする石川優実さん。
撮影:竹下郁子
職場でのヒールやパンプスの義務づけに異議を唱える「#KuToo」は、ユーキャンの2019年新語・流行語大賞トップ10に選ばれたばかり。しかし、先日厚労省が発表した、職場でのパワハラやセクハラを防ぐための指針案には、#KuTooのことが盛り込まれなかった。
男女が同じ仕事をしている場合、女性にのみメガネの着用を禁止することなどは男女雇用機会均等法(均等法)の趣旨に反し、ヒールやパンプスの強制はパワハラにあたり得るなどの厚労相答弁もあった。
また12月3日、参議院・厚生労働委員会で厚労省は、パンプス強制はパワハラにあたり得るため、パンフレットでの周知を考えていきたいと答弁。初めて具体的な周知の方法を明らかにした。
会見で石川さんは、パンフレットによる周知・啓発では不十分だとし、
「この間、報道などによりさまざまな服装の指定があることが明らかになりましたが、特にヒールやパンプスの指定に関しては怪我人も出ていて緊急性が高いです。早急に国に対策を取って欲しいと思います」(石川さん)
と訴えた。要望書では、業務上必要のないヒール付きの靴といった特定の外見・服装などを、事業主が一方の性別のみに指示することは性別に関するハラスメントに該当し得ると、指針に明記することなどを求めている。
女らしさの規範で就活断念、親に申し訳ない
#KuTooへの賛同署名は3万1000通を超えている。
撮影:竹下郁子
就職活動中のヒールやパンプスによって大きく人生を変えられた女性からは、メッセージが寄せられた。女性は現在30歳。通訳の仕事をしているという。石川さんが涙を流しながら読み上げた女性の手紙からは、身体的ダメージに止まらない、深刻な事態が起きていることが分かる。
以下に全文を紹介する。
「皆さん就活での服装というと、黒いスーツを思い浮かべると思います。同時に女性は黒いヒールつきパンプスを履いてるのを思い浮かべると思いますが、実はあれはみんながみんな望んで履いているわけではありません。『就活』『靴』『女』と検索をかけてみてください。出てくるのは『女性はヒールつきのパンプスを履きましょう』ということばかり。この靴を履かなければ面接に落ちてしまうと、就活生が考えるのは当然です。
女性はヒールつきのパンプスを着用するのがマナーだという規範は、女性らしさ、女性は美しくあれという価値観の押しつけであり、大いに問題があります。
それにヒールつきの靴はヒールのない靴に比べて動きにくく、負担が大きいことは明確です。ヒールつきパンプスの着用による足や身体への悪影響が多く指摘されていますが、精神的な悪影響に焦点をあててお話しします。
私はこの働きにくく身体に悪いものを女性らしさとして押しつける規範を、直感的に気持ち悪いと感じました。
本来美しく装うための靴を、好む好まざるに関わらず一律に女性に課す規範は、侮辱的であるとさえ思いました。
でも就活生は日々、数々の就活関連メディアからこれがマナーだと宣伝され、学校でも就活マナー講座と称したセミナーでこの規範を刷り込まれます。いくら自分が受け入れられないものでも、履かなければ面接には通らない。しかも新卒カードを失えば就職は困難。そんなふうに思わされる構造があります。
女性らしく化粧をしなさい、ヒールつきパンプスとストッキングを履きなさい、さもなければ仕事が得られません。こんなメッセージにさらされるうちに、次第に私は精神に支障をきたし、就活を断念せざるを得ませんでした。もともとは多種多様なジェンダー表現をしていた大学の同期が、有無を言わさず一律にこの女らしさに回収されていく恐怖と、ヒールつきのパンプスが履けない自分が出来損ないであるという思い、親への申し訳なさから、私は外に出ることができなくなり、布団をかぶって毎日死ぬことばかり考えていたのです。
ジェンダーを問わずヒールつきパンプスを履きたい人、履きたくない人、使い分けたい人などさまざまです。言うまでもなく化粧やストッキングなど、本来美しく装うためのものに関しても同様です。ヒールの有無は就活の選考基準にも関係ないはずです。採用側のほとんどは就活生のヒールの有無は気にしていないという調査結果も出ています。
学生は立場が弱く、リスクを負ってまで自分から規範を出るような行動を取ることは困難です。個人個人の多様性を尊重することの重要性がようやく意識され始めた今、一律でヒールつきのパンプスを履きなさいという就活関連企業や教育機関の呼びかけは、どう考えても問題があります。
どうかお願いです、就活関連企業や教育機関から学生に対して偏った情報発信がなされることがないよう、政府からも働きかけをしてください」
人生の選択肢を狭められているのは、みな女性
女性からのメッセージを読み上げながら、涙する石川さん。
撮影:竹下郁子
石川さんたちは今後、就活生へのヒールやパンプスの指定について、大学へも柔軟な対応を呼びかけていくという。具体的には、就活関連事業者や大学、専門学校等の教育機関に対し、就活時の外見・服装のあり方については性表現の多様性に配慮した情報発信をすることなどを注意喚起して欲しいと、求めている。
「本当にこれで人生が変わってしまう人がいるのだと分かって欲しいです。就活セクハラも問題になっていますが、就活生はとても立場が弱い人たちです。『私は関係ない』と言って履かないことを選ぶことができる状況ではないんだと思います。
実際にヒールつきのパンプスで足を痛めて辞めた方や、最初から仕事を選ばないという職業の選択が狭まっている方、履くのをやめた後も足の痛みに苦しんでいる方はたくさんいます。そういう方たちはみんな女性なんです。これは女性の差別の問題だと認識して欲しいです」(石川さん)
(文・竹下郁子)
※「職場のハイヒール・パンプス着用、緊急アンケート」には、これまで3070人以上から回答をいただきました。ありがとうございます。靴以外についてもおたずねしていますので、引き続きご協力をお願いします。