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IT化で激変「渋谷区役所」がスゴい。ビジネスチャットで「言った言わないをなくす」

渋谷区のIT化

データ分析に使う「BIのツール」を導入したスマートフォンを掲げる渋谷区副区長の澤田伸氏は民間出身。ちなみに渋谷区の長谷部健区長は、東京23区長のなかで47歳と最も若い。

撮影:笠原一輝

「お役所仕事」と言えば、政府や地方公共団体の「非効率な仕事やり方」を象徴する言葉。どちらかと言うと、悪い意味の比喩として使われている。だが、近い将来、それが大きく変わるかもしれない。

渋谷区

渋谷区の概要。

撮影:笠原一輝

東京23区の1つ渋谷区はそうした「お役所仕事」のあり方を根本から変える取り組みを進めている。民間に敷地の一部を定期借地として提供することで、「建設費ゼロ」が話題となった新区庁舎では、職員一人一人にモバイルタブレットを配布して地方公共団体としては珍しいフリーデスク、フリーアドレスを実現しているという。

澤田伸副区長は、手書きできるペンタブレットの分野で世界トップシェアのワコムが開催した「ConnectedInk 2019」の基調講演に登壇し、同区のITを活用した取り組みについて説明した。澤田氏は広告会社出身。民間では当たり前の考え方を区政に取り入れている。

「お役所仕事」の文書管理もデジタル化へ

渋谷区のIT化

渋谷区の業務改善の取り組み、AIやRPAなどを積極的に利用して区民サービスのあり方を変えていく。

撮影:笠原一輝

ConnectedInk 2019の講演では、とてもお役所のナンバーツーとは思えない、刺激的なメッセージを打ち出していた。

そもそもこの講演は、渋谷区で書類などを申請するデバイスにワコムのペンが利用されているという縁で決まったそうだが、ステージではワコムにちょっと触れただけ。当初の予定を遙かにオーバーする25分間、ほとんどノンストップで渋谷区の「ビジョン」を熱弁した。

渋谷区のIT化

渋谷区の庁舎は、区有地に70年の定期借地権を設定、大手デベロッパーにマンションを建ててもらい、その権利金で建築費をまかなった「財政負担ゼロ」建設でも知られる。

撮影:笠原一輝

筆者が最も感心したのは「渋谷区では区庁舎には誰も来ない、来庁者ゼロを目指している。誰も来ないことがハッピー」だという考え方。区庁舎に区民が足を運ばなくても区のサービスを享受できる仕組みを目指すという意味だ。

例えば、冒頭の「お役所仕事」の最たる例としては、公的書類の交付がある。書類の交付をしてもらいに行ったら、「判子が押してない」だの、記入箇所が誤っているだの、民間にいる側からすると「この場でなんとかならないのか」という不満を感じながら申請書を突き返された経験をした人もいるだろう。

もちろん行政の側にとっては必要な手続きだということも理解するが、そういう経験が結局「お役所仕事」という言葉を生んでいる側面があることは否定できないだろう。

渋谷区のIT化

ペーパーレス化の実現、渋谷区の長谷部健区長の強い後押しがあると澤田氏。

撮影:笠原一輝

「渋谷区では人が本来やるべき事に専念できる仕事場を目指している。そのため、文書のデジタル化を進めている。将来的には区役所に来なくても文書が交付できる仕組みを作っていきたい」(澤田氏)

区民が望んでいる業務課題を可視化するために、渋谷区ではBI(Business Intelligence)ツールを活用している。BIツールをスマートフォンにインストールして、職員がいつでも業務課題を見つけて対処方法を考えていく仕組みを整えているという。

文書の電子化はその一環だ。すでに公文書の決裁は100%電子化しており、今後も公文書の電子化を進めていく、と澤田氏は説明した。

職員はフリーアドレス、会議はTeams上で

渋谷区のIT化

新庁舎で導入した新しい取り組み、モバイルワーク、BYODの導入など、どこの先端IT企業なのかという取り組み。

撮影:笠原一輝

澤田氏によると、渋谷区ではこうした新しい形のIT行政の実現に向けて、この数年投資してきた。その取り組みは「顧客サービスを実現するための投資と構造改革、さらにはKPI主導のワークスタイル変革」だという。平たく言えば、ITを利用して区民に優れたユーザー体験を提供していき、職員のレベルではKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)、つまり目標設定とそれを達成したかのデータを、職員が常に意識しながら働き方を変えていくということだ。

渋谷区のIT化

渋谷区の窓口の取り組み。

撮影:笠原一輝

KPI達成のために職員へはモバイルPC+Office 365+クラウドという業務システムを導入した。単にモバイルPCを配布しているだけでなく、BYOD(従業員が自分のPCなどを使って業務を行うこと)も認めており、いつでもどこでも職員が仕事をできる環境を整えているという。

渋谷区のIT化

現在の実現状況、既にTeamsによる会議などは実現しているという。

また、民間でも頭が痛い非効率な企業に特徴的な「会議」も、既に渋谷区ではOffice 365にバンドルされているTeamsを利用しているという。「すべてはTeamsに記録が残る。言った、言わないなどはあり得ない」(澤田氏)。この言葉が突き刺さる民間企業もいるのではないか。

民間企業の「IT刷新」、渋谷区に負けてないか?

渋谷区のIT化

変わらなければ生き残ることはできないと澤田氏。

渋谷区のケースは、まさに「老朽化した“レガシーIT”を保持し続けている企業が、ITシステムをどう刷新するか」という問題を、民間のIT担当者にも突きつける事例ではないだろうか。

澤田氏は、

「少子高齢化、AIの普及など社会が変わりつつある。そうした中で将来ではなく今変わらなければならない。公務員は徴収された税金の仕組みの上に存在しており、高品質、高効率なサービスを提供していかなければならない」

とこうしたシステムを導入した理由を説明している。

例えば、現在多くの大企業で使われているメールのシステムは、30年前のシステムの仕組みをちょっとずつ変えながら延命してきたものだ。一方で、SlackやTeamsといった新しいビジネスコミュニケーションのツールも登場している。

そうした新しいツールを導入しようとすると、利用者(従業員)から「メールで十分だ」とか「新しいモノが怖い」という反応が帰って来て、導入が進まないということはままある。

渋谷区役所の中で新たなITがどこまで浸透するかは今後も見ていく必要があるが、それでも、渋谷区ですらIT刷新はここまで進めた。

働く現場の非効率をどう解消して、前に進むのか。民間企業の経営層にとっても真剣に考えるべき問題だ。

(文、写真・笠原一輝)

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