加速する「日本版アリーナビジネス」に盲点。ドル箱“eスポーツ”の必須設備がない?

さいたまスーパーアリーナ

日本で、アリーナが続々と建設されている。写真は、さいたまスーパーアリーナ。

撮影:大塚淳史

日本全国で「アリーナ」の建設が続々と進んでいる。

アリーナとは、自治体が所有する総合体育館とは違い、バスケットボール、格闘技といったスポーツの試合だけでなく、歌手のコンサートなど多目的用途で使用される施設。首都圏では、さいたまスーパーアリーナや横浜アリーナが代表的だ。

もともと日本にはアリーナ自体が少なかった。しかし、ここ数年、続々とアリーナ建設が進み、また建設計画も各地で表明される例が増えている。

12月9日には、東京オリンピック・パラリンピックの会場としても使用される、「有明アリーナ」が完成する。今後も、沖縄県沖縄市に1万人規模の「沖縄アリーナ」が2020年10月にオープン予定、さらには男子バスケットボールBリーグの千葉ジェッツふなばしが、千葉県内に1万人規模のアリーナ建設を発表している。2017年〜2020年の間に、完成した施設や建設中の施設を含めると、少なくとも10カ所の「アリーナ」が作られることが確認できる。

アリーナの建設ラッシュの背景には、政府が官民戦略プロジェクトとして「スポーツ産業の活性化」を後押ししていることに加えて、男子バスケットボール「Bリーグ」の人気が年々高まっていることも背景にある。一部の人気チームが、使用する体育館での集客に限界が生じており、そこで、チーム側が主体、あるいは自治体側が主体となって新しくアリーナを作る動きが出ているのだ。

海外ではアリーナの用途に「eスポーツ大会」

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11月19日にさいたまスーパーアリーナで行われた、カンファレンス「スポーツビジネスジャパン」の中のセッション「スタジアムの設計運営におけるトレンドの変化とは?」。

撮影:大塚淳史

ただし、アリーナを新設できても、施設自体の健全運営はそう簡単ではない。1年365日のうち、いかにスケジュールを埋めるかが重要となる。

11月19、20日にさいたまスーパーアリーナで開催されたカンファレンス「スポーツビジネスジャパン」で、「スタジアムの設計運営におけるトレンドの変化とは?」というテーマのシンポジウムがあった。海外から招待された登壇者たちが、アリーナの使用用途について、海外のトレンドとして紹介していたのが「eスポーツ」だった。

eスポーツとは:エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)の略称。コンピューターゲームやビデオゲームを使ったスポーツ競技のこと。元々はテクノロジーを使った娯楽や競技全般を指す。

主に中国で20年にわたって、アリーナの建設に携わっている、コンサルタントのGreg Turner(グレッグ・ターナー) 氏は「3年先、5年先、10年先を見越した時、アリーナはeスポーツの大会を開くことができるかが大切」と話していた。

既にeスポーツの大会は、若者層を中心に世界中で多くの注目を集めている。人気ゲームの世界大会の決勝では、試合の模様をインターネットで生配信すれば、約数千万の視聴数になる。また、日本でも11月23日に千葉・幕張メッセで行われたeスポーツ大会では、約1万人の観衆が集まった。

「ドル箱」eスポーツ大会の準備は整っているのか?

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スタジアムやアリーナのコンサルタントのグレッグ・ターナー氏。

撮影:大塚淳史

では、アリーナの健全運営のためにも、スポーツや音楽コンサートだけでなく、eスポーツの大会も今後開催していけば良い……とは簡単にはならない。eスポーツ大会を開催するにあたって、重要な「設備」の問題がある。

グレッグ・ターナー氏は「eスポーツの収益の大部分はストリーミングビデオ(配信映像)や会場の外側にもいる観衆。アリーナを建設計画の段階で、(中継する)映像に対応するために必要なケーブルを敷設することを考えないといけない。既存のケーブルで対応させることは非常に難しい」と指摘する。

つまり、eスポーツの大会を開催するには、スポーツの試合や音楽コンサートで必要とされていなかった設備が求められる。

ターナー氏によると、既に海外ではeスポーツ対応のアリーナは続々と建設されている。

日本のアリーナをeスポーツ対応するには?

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11月10日にフランス・パリで行われた「リーグ・オブ・レジェンド」世界大会決勝。会場は多くの観衆で埋め尽くされた。

Johanna Geron/Reuters

日本のアリーナはそういった点を既に考慮しているのか。アリーナビジネス現場を取材する筆者の肌感としては、ここが抜け落ちている懸念が拭えない。

アリーナ建設で複数の受注を手がける大手ゼネコンは「eスポーツ人気は知っているがそこへの設備的な対応は現時点で、想定していない」。関東圏のアリーナの建設計画に携わる関係者も「日本の既存、新規のアリーナでeスポーツの大会を想定した設計になっているところはないと思う」と話す。

さらに、アリーナのeスポーツ対応で重要な点として、“遅延がないこと”を上げた。

「eスポーツの大会では、0コンマ何秒のわずかな遅延も問題になる(※)。日本とアメリカを海底ケーブルで結んでいますが、日本側の中継点から、国内のアリーナにいかに遅延無く、データを送受信できるかが重要です。関東圏のアリーナであれば問題ないと思います」

(※eスポーツの大会では、インターネットを通じた試合もある。勝敗を左右するデータ送受信の遅延を減らすことは必須の課題)

ではアリーナの運営主体者が、アリーナまで遅延を発生させないためにも専用回線を敷設できるかというと、工事費用を考えても難しいのが現実用のようだ。

ただ、可能性はある。現状の動きをうまく活用すればよいと、前出の関係者は明かす。

「現在、国や(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクら)キャリアが進めている5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの普及をうまく利用したら良いと思います。特に商業施設、そしてアリーナのような人が集まる場所に、5Gは必要とされます。キャリア側もそういった場所に敷設したいので、アリーナを作る側がキャリアに打診すれば、優先的に5G設備を置いてくれるのではないでしょうか」

日本で今後、続々と作られていくアリーナだが、eスポーツ対応は世界的なトレンドをつかむ意味でも、そのマネタイズ面からも、重要なポイントとなるだろう。

(文、大塚淳史)

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