「@cosmeベストコスメアワード」の受賞商品。このうちの一部が天猫でも表彰される。
撮影:西山里緒
月間ユニークユーザー数が1300万人を誇るコスメの口コミサイト「アットコスメ(@コスメ)」は、アリババグループが運営する中国最大のECサイト「天猫(Tmall)」と提携し、毎年発表している「@cosmeベストコスメアワード」の中国版「@cosme ベストコスメアワード with Tmall 2019」を新設する。
創業から20年、国内で不動の地位を築き上げた口コミサイトが今、中国市場に力を入れる理由は何か。アットコスメを運営するアイスタイル代表取締役社長兼CEOの吉松徹郎氏に聞いた。
2007年からリアル店舗手がける
実はECを経由した売り上げよりも店舗での売り上げの方が高い「アットコスメ」。
出典:アイスタイル2019年6月期通期決算資料
「20〜30代女性の過半数が毎月使う」といわれるコスメの口コミサイト「アットコスメ」。アットコスメを運営するアイスタイルは1999年に創業し、設立以来の連続増収を記録している。2019年通期決算資料によると、売上高は約321億9300万だ。
同社の特徴は、口コミを生かした多角的な販売戦略だ。2002年からはECサイトを、2007年からはリアル店舗を手がけ、現在では国内23店舗を展開している。現在、国内では小売としての売り上げはリアル店舗がECを大きく上回る状況だが、吉松氏はこう分析する。
「メーカーが在庫を残さないために販促費をつけて小売店に卸す、という“誰も消費者のことを見ていない”コスメの売られ方に当初から疑問を持っていた。口コミデータを店舗で活用して『ユーザーの声が届いている物を店頭に置く』。こうしたサプライチェーンの最適化が売り上げにつながった」(吉松氏)
EC事業では、自社ECでの販売と同時に、楽天やアマゾンといった大手プラットフォームを経由した卸業も手がける。
海外進出も積極的だ。2013年頃から本格的に力を入れ始め、現在は台湾・香港・タイに計11店舗を展開している。直近の決算では香港デモの影響などにより売り上げは大きく落ち込んだが「体力が続く限りは続けていく」と吉松氏は揺るがない。
ただし、2020年はアイスタイルにとって正念場だ。2019年6月期決算は、5億円の最終赤字。システムや人件費の先行投資や一部店舗の減損損失計上が効いており、営業利益も前年比77%の大幅減。コスメ以外の美容事業の開拓や海外への本格進出を目指す、中期経営計画(2020年)の進捗が大幅に遅れ、達成時期を先延ばししたばかりだ。
アリババ運営のECサイトとも連携
日本コスメの、輸出先国ごとの輸出額の推移。ここ数年で中国・香港への輸出が急増している。
出典:日本化粧品工業連合会
そんな中、アイスタイルが今後の成長を賭けるのは海外市場、中でもアジアだ。
経済産業省のデータによると、2018年の日本の化粧品出荷額は約1兆7000億円で、3年連続で過去最高を更新した。日本化粧品工業連合会がまとめているデータによると、その成長を支えるのがアジア各国への輸出の伸びだ。
成長著しいアジア諸国のなかでも、すでに日本の2.5倍となる約4兆2600億円規模(ジェトロ発表)の市場を持つ中国は、日本のコスメ業界にとって“本家本丸”の輸出先だ。
ジェトロによると、中国におけるコスメの輸入額では2018年は1位が韓国(前年比70%増)、2位は日本(同91.4%増)だったが、2019年1~5月期では日本がトップに。
とはいえ、日本のコスメは中国の消費者から高い支持を誇るものの「市場の成長と同時に、競争も激しくなっている」(吉松氏)と語るように、その攻略は簡単ではない。
アリババが運営する、中国最大のBtoCのECサイト「天猫(Tmall)。」
出典:Tmall
こうした状況を踏まえて12月3日、アットコスメはアリババが運営する中国最大のECストア「天猫(T-mall)」との提携を発表。アットコスメが毎年発表している「@cosmeベストコスメアワード」のうち、天猫で販売されているものに受賞ロゴをつけ、受賞商品の確認・購入ができるようになった。
まずは73アイテムの発表のみだが、今後は「カテゴリ分けにしていくのか、プッシュをかけていくのか」といったより緊密な連携の可能性も模索したい、と吉松氏はいう。
アリババの天猫ビューティディレクター、楊瑩(ヨウ・エイ)氏はアットコスメとの提携を決めた理由について記者会見でこう語った。
「(アットコスメが発表した)口コミランキングは中国消費者にとって非常に信頼できるランキング。クライアント側にとっても、コンテンツマーケティングの非常に有力なツールになり得る」
2020年に原宿に旗艦店オープン
海外でも日本と同じように、メディア(口コミ)、EC、店舗と、国の状況に合わせた幅広い展開を進める。
出典:2019年6月期通期決算資料
口コミプラットフォームを主軸に、EC、リアル店舗、マーケティング支援、海外進出支援……。「非常に珍しい形態だとは思うけれど(どんなブランドも)アイスタイルと仕事しないという判断にはならないポジションを取りたい」(吉松氏)
2020年1月にはJR原宿駅前にフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」のオープンも予定する。
アイスタイル 代表取締役社長兼CEOの吉松徹郎氏。
撮影:西山里緒
アメリカ発のアパレルブランド、Gapのかつてのフラッグシップショップの跡地で「イベントスペースも、撮影スタジオも備えた」過去最大の広さの店舗。外国人旅行者によるインバウンド需要に期待を寄せる。
「J-ビューティ」とも呼ばれる日本コスメ業界に未来はあるのか。吉松氏は今後は、「日本だから良い」という打ち出し方以上に、個々のブランドがより国境に捉われずに支持されるようになる、と予想している。
「日本の化粧品を韓国のYouTuberやインフルエンサーが紹介したり、逆も然り。消費者に求められる商品がボーダレス化していくのは、目に見えている」
成長著しいアジアから、世界へ ——。東京オリンピックも見据えた2020年はその試金石となりそうだ。
(文・写真、西山里緒)