あのApple CardもAWSで動いていた。武器は「AI」。アマゾンが5G時代の新戦略を公開【re:Invent 2019】

Sans Expo

会場のひとつとなった米ラスベガスのSans Expo。この他にも数軒のホテルがほぼ貸し切られ、6万5000人を超える来場者を迎えた。

撮影:西田 宗千佳

12月2日(現地時間)から6日まで、米ラスベガスでは、アマゾンウェブサービス(AWS)の年次開発者会議「re:Invent 2019」が開催中だ。3日午前(現地時間)には、AWSのアンディ・ジャシーCEOによる基調講演が行われた。

アンディー・ジャシーCEO

アマゾン ウェブ サービスのアンディ・ジャシーCEO。

撮影:西田 宗千佳

AWSは技術インフラの会社なので、その発表はどうしてもかなり専門的なものが多い。

しかし、それらは結果的にサービスやビジネスのインフラになり、我々の生活に大きな影響を与える。

ジャシーCEOが今年選んだテーマは「トランスフォーメーション」。日本ではデジタル・トランスフォーメーションと呼ばれることの多い、新しい技術基盤による企業体質・ビジネス手法の変化についてだ。

そして、その基盤になるのがAI(マシンラーニング)とエッジコンピューティングだった。

アップルのクレカ「Apple Card」の秘密は「AWS」にあった

AWSは毎年、自社の顧客を壇上に招き、彼らの変化を事例として使うことが多い。2019年の基調講演の中でも注目だったのは、ゴールドマン・サックスの登壇だ。ゴールドマン・サックスのデビット・ソロモンCEOが壇上に現れたのだが、実は、プレゼンの前からそっと登場していた。

re:Inventでは、基調講演の前にずっとDJが音楽を流す。今年はまず女性のDJがプレイし、その後に男性のDJに変わった。

会場前の風景

会場前の風景。一見普通のDJプレイに見えるが、実はDJの正体はゴールドマン・サックスのデビット・ソロモンCEO。Business Insider JapanでもDJ好きであることは過去にも記事にしている。

撮影:西田 宗千佳

実はこの男性DJこそ、デビット・ソロモンCEOだった。彼は「DJ D-Sol」としても活躍しており、その縁で、そっと先に登場していた……という経緯だ。

デビッド・ソロモン氏

正式にゴールドマン・サックスのCEOとして登壇したデビット・ソロモン氏。

撮影:西田 宗千佳

DJをたしなむゴールドマン・サックスのCEO、という意外さもあるが、実は彼は、同社のトランスフォーメーションを強力に推し進める人物でもある。12年ぶりの「非トレーディング畑」から生まれたCEOであり、個人向け事業にも力を入れている。その一つが、今年アップルおよびマスターカードと提携して発行している「Apple Card」だ。

ソロモンCEOは、「我々は6年をかけて、AWSを使って新しいビジネス基盤を作った。その結果として、新しいビジネスを提供できるようになったが、それこそがApple Cardだ」と話した。

Apple Card1

Apple Cardの3つの特徴。

撮影:西田 宗千佳

Apple Card2

素早く・快適なサービスが特徴のApple Card。実はそれを支えているのがAWSだ。

撮影:西田 宗千佳

Apple Cardは、アプリベースでわかりやすく、発行も素早い。(11月には与信システムの不備が報道されたが)機能そのものも豊富だ。そうした部分は、既存のクレジットカードシステムとは違う形で構築されたAWS上のインフラで動いている。そして、2020年にゴールドマン・サックスはトランザクション・バンキング市場に参入するが、ここでもAWSを活用する。

独自LSI開発やマシンラーニング・AIの進歩で「クラウド化」をさらに加速

AWSの顧客は多い。同社のシェアは48%弱と、クラウドベンダーとしては圧倒的に大きい。re:Inventへの参加者は6万5000人を超え、2018年開催時よりもさらに拡大した。

だが、ジャシーCEOは、「全IT投資の中で見ると、クラウドは3%に過ぎない。まだまだ初期段階だ」と、トランスフォーメーションの必要性を協調する。

スライド2

AWSはクラウド同士だと48%弱のシェアを持つ強者だが、まだまだ「自前の業務用機器」の方が多い。

撮影:西田 宗千佳

一層のビジネスの拡大には、多数の要素が必要になってくる。

過去から存在するコンピューティング基盤をそのまま使うのではなく、新しいクラウド基盤の持つ、スピードやコスト面での柔軟性を活かすことこそ、AWSが推進する「トランスフォーメーション」だ。

過去の自社サーバー環境からの移行技術や巨大データの活用技術なども用意し、パフォーマンスを上げるために、サーバー向けのarmコアプロセッサ「Graviton」の第2世代チップを作ったり、FPGA(プログラム可能な半導体)を使った処理系を高速ストレージであるSSDに搭載して、ビッグデータの処理を高速化する「AQUA for Amazon Redshift」という技術を作ったりもしている。

中でも、やはり長い時間を割いたのが「マシンラーニングとAI」についてだ。

AWSにおいては、マシンラーニングとAIははっきり区別されている。マシンラーニングは「使う側がデータを用意し、機械に学習させて結果を得るもの」であるのに対し、AIはAWS側があらかじめ学習を行い、サービスとして結果を提供するものだ。例えば、自分で自動運転車を作るのはマシンラーニングであり、音声データからテキストを自動書き起こしするのは後者だ。AWSはもちろん、両者にアプローチしている。

前者向けの技術として重要なのが、「SageMaker Studio」と呼ばれる統合環境。ここに同社のマシンラーニング系技術が集約されており、データ収集しての学習からデバッグまで、一気通貫に同じ開発環境から行える。同時に、データから自動でマシンラーニングのモデルを作る「Auto Pilot」という機能も用意された。これは、Googleが「Auto ML」として提供しているもののAWS版ともいえるものだ。

後者のAIとして提供される技術としては、面白いものが2つ発表された。

AIがプログラムの記述の良し悪しを判断する「Amazon CodeGuru」

ひとつは、プログラム作成中に必要となる、「コードのレビュー」をAIが行う「Amazon CodeGuru」だ。ジャシーCEOは「AIにどういう機能があれば多く使われるだろうか、と考えた末に開発したもの」と話す。

Amazon CodeGuru

AIがプログラムの間違いや効率を人間のように「査読」する「Amazon CodeGuru」。

撮影:西田 宗千佳

開発者にとって、コードの内容をチェックする「コードレビュー」は日常的な作業だが、それを機械がやってくれることで、労力を減らした上で最適化も進められる。

実は、「AIがコードレビューをしてくれれば……」というのはよく出てくる話。だが一方で、「そう、うまくはいかないんじゃないのか」という疑念が大きいものだ。

だがCodeGuruについては、すでに巨大な導入元の手で磨かれている。通販部門の方のアマゾン、すなわちAmazon.comで使われているのだ。アマゾン内ではすでに8万5000ものアプリ開発で使われている。

その成果は、例えばPrimeDayの場合で、導入前と導入後では、CPU利用効率が325%効率化し、コストは39%削減されたという。

スライド3

Amazon CodeGuruはすでにAmazon.com内で使われており、Prime DayにはCPU利用効率が325%改善、コストは39%削減されたという。

撮影:西田 宗千佳

もうひとつの興味深い新サービスが「Amazon Kendra」だ。これは企業向けの文書検索サービスだが、AIによる自然言語解析を使い、「文章で聞けば、その内容に相応しい情報」を見つけてくれる優れものだ。

一般的なキーワード検索だと、キーワードの一致で見つけるだけなのでなかなか目的の文章にたどり着かないが、Kendraでは文意で探すのですぐに出てくる。例えば「社内のヘルプデスクの場所はどこ?」と聞くと、Kendraは「○階のどこ」という風に答えるが、従来通りの検索では難しい。

ネット検索で使えれば……と考えがちだが、Kendraは「ビジネス文書のように、構造がはっきりしていないもの」を主軸にしている。リンク先などがあるウェブの文章は、検索にはまた別の手法の方が良い。Kendraは、オフィス内での文書・資料抽出や、FAQの検索などに向けたものだ。

ただし残念ながら、今は英語のみで、日本語への対応予定や時期は公開されていない。

低遅延な5Gのためのサービスを準備、日本のパートナーはKDDI

基調講演の最後に発表されたのが「モバイル」だ。といっても、もちろん4Gの話ではない。

「世界中ではモバイルデバイスの利用が増え続けている。一方、5Gで実現されると言われていることについて、人々は懐疑心を持ち始めている。『それは本当に実現するのだろうか?』と。事実、そこには多くの誤解や間違った知識への誘導がある。我々はそこで、ほんとうの5Gを実現していきたいと考えている」

ジャシーCEOはそう話した。

「そのためには、5Gについてより詳しく、正しい知識を持つパートナーが必要だ」と語りかけて壇上に呼び込んだのは、Verizonのハンス・ヴェストバーグCEOだった。

ジャシーとヴェストバーグ

5GでのMEC開発について提携を発表。壇上には、AWSのアンディ・ジャシーCEOとVerizonのハンス・ヴェストバーグCEOが並んだ。

撮影:西田 宗千佳

5G edge

Verizonのハンス・ヴェストバーグCEOとAWSのジャシー氏。5Gの大きなロゴがステージの巨大スクリーンを飾った。

撮影:西田 宗千佳

「レイテンシー(遅延、操作してから実際に反応するまでの時間)は非常に重要だ。消費者に低レイテンシーなサービスを提供するには、『モバイルエッジコンピューティング(MEC)』が必須だ」とヴェストバーグCEOはいう。

一方、「MECのためにすべての携帯電話事業者が設備を置き、APIを揃えてシステムを作るのは難しい」とジャシーCEOが言う。

「そこで我々(AWSとVerizon)は18カ月前にプロジェクトチームを作り、深く協力しながら開発を進めてきた」(ジャシーCEO)として発表したのが、「AWS Wavelength」だ。

AWS Wavelength

AWSと5Gインフラを組み合わせて、数ミリ秒以内のレイテンシーを実現する「AWS Wavelength」。2020年にスタートに、日本のパートナーとしてはKDDIが名乗りを上げている。

撮影:西田 宗千佳

これは、AWSの各地域に配置されている設備を5Gのネットワーク内に配置し、「数ミリ秒以内の応答速度=低遅延」を実現する。従来通り「ネットのどこか」に配置すると、インターネットを通ってAWSの設備に届くまでの時間が長くなる。条件によりレイテンシーはまちまちになり、「数ミリ秒以内」どころか数十ミリ秒を超えることも珍しくなくなり、5Gのメリットが生きてこない。

そのため、5Gのネットワーク内にAWSのシステムを配置することで、「数ミリ秒」という5Gならではの低遅延を実現しようというのが、AWS Wavelengthである。Verizonはその最初のパートナーとなり、現在シカゴで実験が進められている。

ニュースリリースによれば、「Quake」シリーズや「Fallout」シリーズの開発元として知られる大手ゲーム会社の「ベセスダ・ソフトワークス」がパートナーとなり、クラウドゲーミング・サービスのテストが行われている。また、アメリカンフットボールのNFLが、スタジアム内での新しい体験についてテストするとも言う。

また、MECはVRやARなどにも活かせる。フィンランド・Varjo社のCEOであるニコ・エイデン氏は、「MECを使い、サーバーで映像処理(レンダリング)能力を拡張すれば、VR機器のコストを削減できる。現在は数千ユニットである出荷数を、数十万ユニットに増やすことができ、工業グレードのVR/MRビジネスの加速には必須だ」と語っている。

AWS Wavelengthは2020年に、Verizonの他、VodafoneにSK Telecom、そしてKDDIをパートナーとしてスタートする。日本のKDDIが含まれているのは大きなニュースだ。KDDIの髙橋誠社長はAWSのリリースの中で、以下のようにコメントしている。

「AWS Wavelengthは、KDDIの5Gネットワークを介して、サービスへの素早いアクセスを提供する。これにより、人口減少に直面する地域の経済活性化やインフラの再構築、自然災害への迅速な対応など、日本の喫緊の社会的課題に取り組むことができる」

なお現状、AWS Wavelengthは「2020年のスタート」ということ以外情報が公開されていない。KDDIとのパートナーシップでどのような数の設備が設置されるのか、といった点も未公表だ。

同様の仕組みは他の5G事業者でも必要になる。自社でやるのか、それともAWSを含むパートナーを確保するのか。当面、携帯電話事業者とクラウドプラットフォーマーとの綱引きが加速しそうだ。

(文、写真・西田宗千佳)

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