「希望休を入れたやつはコ○ス」とアルバイト先の社員からLINEで脅迫されたと語る学生も。
撮影:今村拓馬
人手不足を背景に、学生がバイト先から不当な扱いを受ける「ブラックバイト問題」が深刻化している。
そんな中、ウーバーイーツやタイミーのように、時間制で単発バイトをすることができる「バイトマッチングアプリ」も人気を博している。
「希望休を入れたやつはコ◯ス」
「バイトの希望休が重なると社員からLINEのグループで『もし遊びで希望休を入れたやつがいたらコ◯ス』『気に入らない奴はきっていく』といった脅迫が送られてきます。機嫌を取りながらバイトをしないといけないのでとてもつらいです」(ブラックバイトユニオンに寄せられた学生からの相談メールより抜粋)
ブラックバイト問題が深刻だ。
学生アルバイト問題の解決に取り組む労働組合、ブラックバイトユニオン代表の渡辺寛人さんは、ユニオンに寄せられる相談は増え続けており、「近年は毎月100件ペースで推移している」と語る。
特に多いのは「賃金未払い」に加え、バイトを「辞められない」「休めない」という相談。非正規雇用の拡大に伴いアルバイトが任される業務の責任は重くなっており、正社員とほとんど変わらない業務を任されることも多い。
学生がいないと店が回らない状況に追い込まれた飲食店は、脅しとも取れる言葉で学生を「倫理的」に恫喝し、身動きが取れない状況に追い詰める。
「休みをもらおうとすると『最初の約束と違う。そんなことでは信用を失う』と脅された。あまりにひどいので辞めると言うと『大学に言うぞ』と脅された」(居酒屋でブラックバイトを経験した20代学生からの相談メールより抜粋)
「バイトを辞める」と申し出た学生に対し、新しく人を取るための求人広告費という言い分で最後の給料から数万円を天引きしたり、普段の給料は振り込みなのに「最後の給料は店に取りに来い」と圧力をかけるケースもあるという。
厚生労働省が2015年に学生1000人を対象に実施した調査では、バイト先の約6割が労働条件通知書等を交付しておらず、経験したアルバイトのうち約半数において、労働条件等で何らかのトラブルがあったと回答した、という結果も出ている。
ブラックバイトはこの10年で深刻化
生活費を支払うために、必死にお金を稼ぐ学生が増えているという。
撮影:今村拓馬
こうしたブラックバイトが横行する背景には、学生側にも働かなくてはならない事情があることが伺える。
「大学の学費が上昇する一方、ここ20年で日本の賃金は下がり続けていて、それに伴い親の収入も低下しています。仕送り額も低くなっているので、親が『学費はなんとか払うけど、生活費は自分で稼いでね』という家庭が増加しています」(渡辺さん)
学生はサークル活動や遊びのためにアルバイトをするものと思われがちだが、実際には家賃や食費などを、差し迫った生活費を支払うために、必死にお金を稼ぐ学生が増えているという。
「学生としても早くバイト先を見つけたいし、簡単には辞められない。そんな立場の弱い学生が、非常に安い労働力として、重責を背負わされている。ブラックバイトはこの10年で深刻化している印象です」(渡辺さん)
特に非正規化の進んでいる飲食、小売り、学習塾業界では、フランチャイズ型の店舗が多く、「店長は本部とバイトの板挟み」になっているケースも多い。「この社会構造が温存される限りブラックバイトはなくならない」と渡辺さん。
ブラックバイトユニオンでは、こうしたブラックバイトに悩む学生へのアドバイスや労働問題解決のサポートをしている。
「面接不要」のシェアエコアプリが人気
バイトマッチングアプリが存在感を増している。「面接不要」を魅力に感じるユーザーが多いようだ。
撮影:今村拓馬
そんな中、インターネットを通じて単発の仕事を請け負う「シェアリングエコノミー」の浸透を背景に、バイトマッチングアプリが存在感を増している。
ウーバーは10月、短期バイト用マッチングアプリ「Uber Works」をシカゴで立ち上げたと発表した。
日本では、バイト採用のミスマッチを防ぐために、試してから選べる体験型のアルバイト情報を提供するアプリ「Baitry(バイトリー)」が、USEN-NEXT HOLDINGSとの資本業務提携に至った。
こうした短期のバイトアプリが人気を博す理由は何か。中でも有名な、単発バイトマッチングアプリ「タイミー」を使うユーザーの学生(20)は、「面接不要」の仕組みを挙げる。
これまでも派遣会社で面接と登録を行えば、好きな時間に好きな業務を選ぶことはできたが、「僕の友人で何人も『派遣登録しようと思ったけど面接が面倒でブッチした』人がいます」(同学生)。
一方、タイミーでは面接不要で単発バイトに応募することができ、給料はいつでも即時に引き出せる。多くは学生と見られる18~22歳の登録者数は16万人(12月時点で全体では43万人)。登録店舗数は人手不足に悩む飲食店を中心に5500以上に及ぶ。店舗とワーカーの相互評価機能があり、採用や応募にあたっては過去の評価が参考にされている。
しかし面接不要ゆえに、ワーカーに辛く当たる店舗も一部存在するようだ。実際にタイミーを使用して1日働いた経験があるという学生(21)は、当時の経験を次のように語る。
「私のことを人とは思っていないんだなと思うような社員さんの扱い、例えば名前ではなく『おい』で呼ばれ見下された感じ。歓迎されていない奴隷のような気分でした。終盤になると少しは認めてくれたのか、世間話などを投げかけてくれましたが」
学生バイトはバイト先より「強い」のか
「今は人手不足だからこそ労働者の方が強い状況にある。タイミーがあることで、バイト先と心理的な距離を保てる」とタイミー広報。
タイミーの勤務時間はQRコードの読み取りで管理され、残業代は1分単位で支払われるので、賃金の切り捨てや未払いは発生しない。また、バイトの感想を匿名のコメントとして残せるため、ひどい扱いを受けた場合は他のワーカーにその事実を共有することが可能だ。
また通常単発バイトであれば、働く場所も時間も労働者側が選べるため、「辞められない」「休めない」といったブラックバイト問題は発生しにくいと考えられる。実際に「人間関係に悩まなくていい」とタイミーのメリットを挙げる学生もいた。
なお、バイト先企業とワーカーは直雇用契約となるため、タイミーとの間での雇用関係はなく、バイト中に事故が発生した場合には労災保険が適用される。雇用保険については適用条件に該当する期間を超えてタイミーを通じて働き続けることはできない。
「辞められない」「休めない」「賃金が支払われない」といった問題が発生しないようにタイミーは設計されている。
人手不足「でも」不安な学生たち
ブラックバイトユニオンには、今も学生から「バイトに行くのが憂鬱で辞めたい」といった声が届く。
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人手不足は、労働者にとって追い風なのか、逆風なのか。
タイミーを使う理由として「いろんな現場に行くのが楽しいとか、現場現場で一期一会の出会いがあるのが楽しい」というものが多い、と広報担当者はいう。
しかし必ずしも全ての人が日替わりのバイトで新しい出会いを求めているわけではないだろう。生活のために必要な資金だからこそ、精神的にも安定した状態で1つの職場で働き続けたいと願う人も多いはずだ。
ブラックバイトユニオンには今も、バイト先に理不尽に追い詰められた学生からの助けを求める次のような声が絶えない。
「バイトに行くのが憂鬱で、バイトのことを考えると涙が出てきました。辞めようと思いましたが、自分の趣味や友達と遊ぶためのお金を稼ぎたいし、なにより今辞めてバイト先の人達に『逃げた』『甘えだ』とか思われるのが、嫌で嫌でしょうがないです。私はどうすればいいと思いますか?」
(文・一本麻衣、編集・西山里緒)