アメリカや中国などでは既に一般的で、スマホから注文、支払いまでできる「モバイルオーダー」。飲食業界の省人化で注目を浴びるこの仕組みのベンチャーと通信業界大手・NTTドコモが手を組んだ。
撮影:佐野正弘
NTTドコモと、モバイルオーダープラットフォーム「O:der」(オーダー)を展開するショーケース・ギグは12月5日、資本業務提携を締結したと発表した。
NTTドコモはショーケース・ギグに10億円を出資し、O:derプラットフォームを、NTTドコモのスマートフォン決済アプリ「d払い」上で展開されているミニアプリと連携する取り組みを進めていくという。
「OMO」でモバイルオーダーの活用が急拡大
提携を発表したNTTドコモの前田義晃氏(左)と、ショーケース・ギグの新田剛史氏(右)。
撮影:佐野正弘
提携に至った経緯について、ショーケース・ギグ社長の新田剛史氏は、アメリカ・アマゾンの「Amazon Go」や、中国で急成長している「luckin coffee」など、世界的に「OMO※」を活用した店舗が広まりを見せていることを挙げた。
※OMOとは:
Online Merges with Offlineの略。オンラインとオフラインを融合させた新しい店舗体験を指す。多くの人がスマートフォンを持つようになったことで、オンラインとオフラインの融合が進み、従来にはない店舗の仕組みを実現。より効率的かつパーソナライズされた顧客体験を提供できるようにする仕組みのこと。
スマートフォンの活用によるOMOの実現により、店舗にとっては運営効率の最適化。顧客にとってはよりパーソナライズされた体験を得られるようになるという。
撮影:佐野正弘
そうしたOMOのひとつとされるのが、お店に行く前にスマートフォン上でメニューを見て注文できる「モバイルオーダー」だ。
ショーケース・ギグは2012年の設立時からモバイルオーダーに注力してきた企業で、O:derプラットフォームを独自に開発。
事前にテイクアウトの注文ができる「O:der Wallet」や、テーブルでの注文や決済をスマートフォンでできるようにする「SelfU」、セルフ注文型のモバイルオーダー端末「O:Kiosk」など、さまざまなプロダクトを飲食店に提供してきた。
ショーケース・ギグはO:derプラットフォームを活用したさまざまなソリューションを提供。店舗での注文・決済に用いるサイネージ型の「O:Kiosk」なども用意している。
撮影:佐野正弘
そして、世界的なOMOの高まり、労働人口の減少という日本の社会課題の影響を受ける形で、同社にはここ半年でサービス導入に関する問い合わせが急増しているとのこと。新田氏は、
「人口が減っていない国でもデジタルによる合理化がなされているが、日本では特に、この状況を解決する手段としてデジタル、OMOへの期待が高まっている」
と話し、OMOで単純な業務をデジタル化して、空いた人員のリソースを他の業務に転換することなどによって、店舗の価値を向上できるとOMOのメリットについて説明している。
だが、ベンチャーである同社だけでは大規模な顧客を扱い、日本全国にサービスを提供するには限界もある。そこで新たなパートナーを探し、今回のNTTドコモとの提携に至った。
NTTドコモの狙いは「d払い」にあり
「d払い」はユーザー数が2000万、取扱高も四半期で837億円に達するなど順調に拡大しているという。
撮影:佐野正弘
O:derプラットフォームと連携する「ミニアプリ」とは、d払いアプリの中でさまざまなサービスを利用できる仕組みのこと。ユーザーはミニアプリを経由することで、アプリのダウンロードやログインなどの必要なくサービスを利用ができるほか、d払いですぐ決済できるなど多くのメリットがある。
また、サービス提供側にとっては、2000万人が利用しているd払いアプリからの流入も期待でき、大きな販促効果も期待できる。
現在提供されているミニアプリは、タクシー配車サービス「JapanTaxi」のみだが、2019年12月10日にはNTTドコモ子会社によるシェアサイクルサービスも提供予定。そして、このミニアプリの拡大を進めるべく、提携に至ったのがショーケース・ギグというわけだ。
NTTドコモは「d払い」のアプリにミニアプリ機能を追加。ミニアプリを通すことでログインや決済にかける手間が減り、ユーザーの利便性は大幅に向上するという。
撮影:佐野正弘
狙いの大部分は外食分野におけるミニアプリの拡大にある。2019年度の提供を予定している吉野家のミニアプリは、ショーケース・ギグとの連携によって実現したミニアプリの第1弾になるという。
10月11日のNTTドコモ新サービス・新商品発表会で公開された、吉野家のミニアプリ。この開発はショーケース・ギグと共同で進められているものだそうだ。
撮影:佐野正弘
NTTドコモの執行役員でプラットフォームビジネス推進部長を務める前田義晃氏は、
「単純に決済だけの戦争だけではない。周辺ソリューションの提供による消費者への価値提供によって、キャッシュレスは普及していくと考えている。ミニアプリとOMOを通じて、消費行動のデジタルトランスフォーメーションを広げていきたい」
と話し、ミニアプリによる利便性の拡大がd払いの利用を広げ、それがキャッシュレス決済の拡大につながるとの考えを示している。
大規模店から中小店舗までカバーできる強み
「R・ベッカーズ池袋東口店」に既に設置されているO:der Kiosk(9月16日撮影)。
撮影:小林優多郎
モバイルオーダーの浸透のために効果を発揮するのが、ショーケース・ギグがこれまで積み上げてきたO:derプラットフォームの実績だ。
ショーケース・ギグのO:derプラットフォームでは、タブレット端末などで対応できる中小規模店舗への対応だけでなく、POSレジ最大手の東芝テックと提携することにより、大規模店舗に導入されているPOSシステムとの連携も積極的に進めてきた。
ショーケース・ギグの店舗向けのシステムタブレットなどを用いた小規模店舗から、東芝テックとの提携によって大規模店舗向けのPOSレジにも対応しているのが強みだという。
撮影:佐野正弘
だが、既にモバイルオーダーサービスを提供している店舗はともかく、特に中小店舗を中心として、多くの店舗はそもそもモバイルオーダーのサービス自体を提供していない。
そこで両社ではそうした店舗に向け、O:derプラットフォームとd払いを連携できるミニアプリ開発支援ソリューションも共同で開発、提供していくとしている。
両社は2020年夏に、吉野家に続く第2弾のミニアプリの提供を予定している。こちらも吉野家同様大規模チェーンを予定しているとのことで、それらを合わせる形で2020年度内にはO:derプラットフォームを活用したミニアプリの対象店舗を1万店舗にまで拡大する方針を示している。
(文・佐野正弘)
佐野正弘:携帯電話ライター。デジタルコンテンツ・エンジニアを経て、現在では携帯電話・モバイルに関する執筆を中心に活動中。