若者ウケ狙った五輪新種目、でもSNSへの投稿は禁止はなぜ?

東京オリンピック・パラリンピック開催まで、残り200日を切った。今回の五輪は、若者に人気のスポーツを新種目として迎え入れている。若者離れを食い止めようと追加された新種目は、五輪の救世主になるのだろうか。

これまで五輪観戦してこなかった層からも集まる関心

カステロさん

アメリカ在住の20代男性マーク・カステロさんは、「(新しく追加された)競技が見たい」という。

カステロさんの提供

「スケートボードが五輪にデビューする瞬間を見たい」

オーストラリア在住の20代男性ナット・カッセルさんに、「もし予算と時間があれば、来日して五輪を観戦したい?」と聞いた答えだ。カッセルさんの趣味はスケートボード。東京には一度だけ来たことがある。だが、「(スケートボード以外の)五輪には全く関心がない」「普段はあまり五輪を観戦しない」とも話していたのが印象的だった。

「(新しく追加された)競技が見たい。また、東京が五輪というイベントにどう対応するのかも見たい」

そう語ったのは、同じくスケートボードを趣味とする、アメリカ在住の20代男性マーク・カステロさん。カステロさんも「スポーツに興味がないから、普段は五輪を観戦しない」と答えている。

新競技の追加により、普段は五輪を観戦しない層からも東京五輪は関心を集めているようだ。

新たに迎え入れられた「都市型スポーツ」

東京五輪は、新種目として5つの競技を加えた。野球・ソフトボール、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンだ。新種目の追加で、国際オリンピック委員会(IOC)は女性の参加を増やし、若者を引き付けることを狙っている。

新競技であるスケートボードとスポーツクライミングは若者に人気な「都市型(アーバン)スポーツ」というカテゴリーとして追加された。他には、3人制バスケットボール、BMXなどの種目が都市型スポーツとして加えられた。IOCは、都市型スポーツの採用について「五輪を次世代向けに進化させるための施策の1つ」だとしている。

懸念される若者の五輪離れ

近年、五輪は若者離れが世界的な流れとしてある。

調査会社ニールセンのデータによると、2016年リオ五輪開会式を放映したNBCの18~34歳の視聴率は2012年ロンドン五輪の10.1%からリオ五輪は5.8%に減少。開会式の視聴者の年齢の中央値は、2012年の49.2歳から2.2歳上がり、2016年は51.4歳となった。

一方、IOCのスポーツディレクター、キット・マコーネル氏はブルームバーグのインタビューで、若者の五輪への関心は「今もなお非常に高い」と述べ、若者の五輪離れを否定している。マコーネル氏は「五輪を見る方法、視聴するコンテンツ、視聴するプラットホームは根本的に変わってきている」との見解を示した。テレビ視聴率だけでは五輪の関心度は測れないという意図だ。

しかし、2012年ロンドン五輪(開会式の18~34歳のNBC視聴率)は2008年北京五輪よりも1.6ポイント増加している。2012年の時点で、すでにYouTubeやFacebookも存在している。日は浅いが、インスタグラムやスナップチャットもリリースされている。視聴方法の多様化によって視聴率が低下したのであれば、2012年も視聴率は低下しているはずではないだろうか。

朝日新聞によると、IOCは聖火リレーを計画するにあたり、インスタグラムなどで「SNS映え」する場所や演出を大会組織委員会に求めていた。聖火リレーでは、スポンサーのロゴが描かれた数台のトラックが大音量の音楽を流しながら先導し、聖火ランナーたちはポーズを取ったり、メッセージを話したりしながら、聖火をつないでいく予定だ。

都市型スポーツの採用やSNS映えを意識した施策は、IOCが若者の五輪離れに対して抱く危機感の表れと言える。

「自撮り」はOKだけど、動画・音声シェアは禁止

五輪のリングの前で自撮りをする女性

東京2020公式ウェブサイト上のチケット規約によると、会場内で「自撮り」はできるが、動画や音声のシェアはできない。

REUTERS/Nacho Doce

ただ、若者を引き付けようとする施策の一方で、違和感ある点も。

五輪チケット規約

東京五輪公式ウェブサイト上に掲載されているチケット購入・利用規約によると、会場内での撮影や録画は認められているものの、動画・音声をソーシャルメディアなどへ投稿することは禁止されている。

東京五輪公式サイトより

東京2020公式ウェブサイト上に掲載されているチケット購入・利用規約によると、チケット保有者は、会場内で写真や動画を撮影し、音声を録音することができ、撮影・録音したコンテンツを個人的、私的、非営利的・非宣伝目的のために利用できる。

しかし、動画や音声をIOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、ソーシャルメディアやライブストリーミングを含むインターネットなどで配信、配布することは禁止されている。英語版の規約にも同様の内容が書かれている。

つまり五輪会場で「自撮り」はできても、撮った動画や音声のシェア・拡散することはできないということ。この規約は、放映権を買っているメディアなどへの配慮なのだろうが、時代錯誤ではないだろうか。

総務省の「平成29年版 情報通信白書」によると、2016年の時点で日本の20代の96.6%がYouTube、Facebook、Twitterなどの代表的なソーシャルメディアを最低でも1つ利用している。ソーシャルメディアモニタリングツール、メンション(mention)の調査によると、インスタグラム上で動画は写真の2.1倍コメントが得られるという。

開催期間中も若者の注目を集めるためには、「インスタ映え」や「バズる」ことがカギで、そのための動画投稿はマストだ。若者ウケを狙った新種目を投入する一方で、動画・音声のSNSへの投稿禁止という施策は、矛盾しているように見える。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会担当者は、IOCの指示のもとに設けた規約だとしつつ、理由としては「個人でもライブ配信が可能な時代に、(個人のライブ配信が)横行すると、放映権を購入しているマスメディアの権利を守ることができないからではないか」との見解を示した。また、「マンパワーなどの都合もあり、現段階では、どの程度厳密に取り締まっていくか、具体的な防止案は未定」と答えている。

(文・町田優太)

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