基調講演をするウイングアーク1st代表取締役長・田中潤氏。
めまぐるしい速さで技術が進歩し、既存のビジネスも産業構造から変わっていく時代。いち早く組織やビジネスモデルを変革し成功している企業は何が違うのだろうか。
2019年11月、東京 ・大阪・名古屋で開催された「ウイングアークフォーラム2019 UPDATA!」。ここではデータとヒトがつくる「次代」に向けた今と未来を共に考えるセッションを多数開催。様々な専門分野で活躍している有識者や企業が集まった。彼らは今、何を語るのか。ここでは11月22日、東京会場の一部をご紹介する。
AIに仕事を奪われない「全人類上司化計画」
帝国データバンク取締役 データソリューション企画部 部長・後藤健夫氏。
幕開けとなったのは、基調講演「データとヒトがつくる“次代”」。ウイングアーク1st代表取締役長・田中潤氏をモデレーターに、同社執行役員CTO・島澤甲氏、パナソニックノースアメリカ副社長・馬場渉氏、イオン執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当・三宅香氏、日本オラクル執行役 副社長・石積尚幸氏、帝国データバンク取締役 データソリューション企画部 部長・後藤健夫氏、Sansan代表取締役社長・寺田親弘氏が順番に登壇した。
冒頭、ウイングアーク1st代表取締役長・田中氏は、今後、生産労働人口の減少は避けられないとし、「危機的な状況でも成長しないとならない。国際的においても日本は技術力を持っているが、労働生産性を限界まで上げても所得が低減している現実がある。日本の現状を打破し成長するためにもデータとテクノロジーは必要」と提言。「テクノロジーを使わない限り、“人手”を超えることはできない」と述べた。
その上で、人は意思決定を担い、単純な作業は機械を教育して自動化させる「全人類上司化計画」を提案。「機械は人の仕事を奪うものでなく助けてくれるもの。人がクリエイティブな思想を持ち、機械の上司になれば、少ない時間でも大きな成果を得ることができる。それを実現するために必要なものはデータ。データによって意思決定の精度を上げていくことができる」と熱を込めた。
続いて同社執行役員CTO・島澤氏は、データウェアハウス第1世代は主に経営層に向けたもの、第2世代は管理層に向けたもの、今は第3世代として情報活用の幅が全社に適用していると解説。そのために同社製品の「MotionBoard」「Dr.Sum」の新バージョン、「SPA」といった文書までデータ操作して扱える基盤を投入していると紹介した。
さらに、同社ではその先の第4世代まで考えているという。第4世代では自社だけでなくグループ企業や他社との情報の連携が求められると考え、「SVF10.0」「SPA Cloud」を投入。来春リリース予定の「DEJIREN ~デジレン~ 」は第3世代と第4世代の情報活用をより効果的にするために開発しており、「情報と意思決定を近づけることがデジレンのテーマ」と製品開発に込めた思いを明かした。
データと人との出会いが新時代をつくる
パナソニックノースアメリカ副社長・馬場渉氏。
パナソニックノースアメリカ副社長の馬場氏は、企業ではなく生活におけるデータの活用法について語った。馬場氏によれば生活には、自分では問題に気づいていない、あるいは問題が当たり前だと思っている、解決可能と思っていない問題があるという。
こうした問題に対しては「デザインシンキングAIが必要。デザインシンカーを暮らしの中に住まわせ、観察、共感し、本人に成り代わってその気持ちになると本質的な問題がわかる」とし、「企業においては“全人類上司化計画”でいいが、暮らしの問題は人間が上司になって命じても、そのソリューションは人間がわかっている範囲でしかない。人間がわかってない問題を解決するために、デザインシンキングAIを活用する」というアイデアを述べた。
イオン執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当・三宅香氏。
食品の安全管理手法の「HACCP(ハサップ)」の対応を行っている、イオン執行役の三宅氏は、少ない人時で労働生産性を上げるため、店舗におけるさまざまな記録作業を自動化し、クラウドに保存するシステムを導入した同社の事例を紹介した。
例えば大型店舗で100〜120台、小型店でも80〜100台もある冷蔵庫。その温度管理はこれまで1日3回、人が温度計を目視し記録していたという。自動化すると約100台分の人時を削減できたうえ、ヒューマンエラーもなくなった。加えて、1時間ごとに検温できるため冷やしすぎの冷蔵庫を発見し、電気代の削減にもつながったという。「今問題となっている食品ロスも情報共有して管理することで解決でき、全体最適がはかれるのではないか」と会場に投げかけた。
日本オラクル 副社長の石積氏。
日本オラクル 副社長・石積氏は、同社の自律型のデータベース「Oracle Autonomous Data Warehouse」とウイングアーク1stのBIダッシュボード「MotionBoard」が連携したことを発表。今後はより柔軟かつリアルタイムなデータ連携を行うことで、国内・海外を問わず分散されたIoTを含むデータを統合し分析することができるという。
また、帝国データバンク 取締役の後藤氏、およびSansan代表取締役社長の寺田氏も、それぞれウイングアーク1stと資本業務提携を発表。帝国データバンクは、同社が保有する180万社の企業データベース及び企業評価アルゴリズムと「MotionBoard」「Dr.Sum」のノウハウを融合し、自治体や企業の意思決定を支援するプラットフォームサービスの構築を進めるという。Sansanは、法人向け名刺管理サービス「Sansan」などのデータや技術と「MotionBoard」を連携させ、名刺データの分析機能などを強化する。寺田氏は最後に次のように語った。
「社内に眠るデータをいかに活用していくか。それがこれからのビジネスに求められること。これまでイノベーションは人と人との出会いが生み出しましたが、これからはデータとデータ、データと人の出会いが新しい時代をつくる」
世界中でビジネスは「リテンションモデル」にシフト
経営コンサルタントでサクセスラボ代表取締役・弘子ラザヴィ氏。
経営コンサルタントでサクセスラボ代表取締役・弘子ラザヴィ氏による講演「デジタル時代に生き残るカギ“カスタマーサクセス”徹底解説」では、顧客から選ばれ急成長している企業が実践しているリテンションモデルの真髄について、国内外の先進的な企業の事例を交えて解説。
リテンションモデルとは、利用者がそのサービスあるいはプロダクトを日常的に使い、対価をモノの所有ではなく成果に対して払い、いつでもやめることができ、初期費用が低く、購入後も常に最適化され、どのように利用者が使っているかデータをプロバイダが取得することを許す ── というすべてが当てはまるサービスやプロダクトを指す。そのために企業は顧客にモノを販売するだけでなく、成功体験を届ける“カスタマーサクセス”を強く意識しなければならない。
ラザヴィ氏はアマゾン、テスラ、Sansanといった身近な事例を用いてわかりやすく説明。デジタル技術の進化とともに、世界中のあらゆる業界がリテンションモデルにシフトしており、日本のものづくりメーカーも変わらなければならないと警鐘を鳴らした。
「そのためには、WHO起点の経営、すなわちお客さまは誰だろう、どういう成功を提供すればいいのだろうと考えることがポイント。今までのように安くて品質がいいものを販売しているのでは足りない。お客さま一人ひとりを知り尽くすことが大切。知り尽くすためにデジタル技術を活用すべき。日本の大企業はものづくりで勝ってきた会社ばかり。それが悪いわけではないが、リテンションモデルは今までの方法とメンタルモデルもかなり違う。マインドセット、カルチャーを含めて変えていく必要がある」(ラザヴィ氏)
新しい技術を導入するだけでなく、企業が根本から変わっていかなければならないとした。
急成長するSaaS企業の秘訣
アドビ システムズ執行役員マルケト事業担当 マーケティング本部・小関貴志氏。
リテンションモデルの申し子とも言えるSaaS企業は、カスタマー側を向くことをいかに組織のKPIや仕組みに落としこんでいるのか。
セッション「急成長するSaaS企業の経営者が実践している収益最大化のための組織づくりとは」では、アドビ システムズ執行役員マルケト事業担当 マーケティング本部・小関貴志氏、Repro執行役員CCO・佐々木翼氏、セールスフォース・ドットコム セールスデベロップメント本部 コマーシャル事業部/スタートアップ戦略部 事業部長・鈴木淳一氏、そして、モデレーターとしてウイングアーク 1st株式会社 執行役員 マーケティング統括部 統括部長・久我温紀氏が登壇。SaaS企業が収益最大化のために取り組んでいる先端の組織づくりについて、各社が実践していることを具体的に語り合った。
セールスフォース・ドットコム セールスデベロップメント本部 コマーシャル事業部/スタートアップ戦略部 事業部長・鈴木淳一氏。
アドビ システムズ 執行役員・小関氏は「マーケティングの立場から見ても考えるべきは会社全体。どう部門間をアライメントしていくか。最近は分業がいいという風潮がありますが、最終的に戻るのは協業だと思う」と言い、セールスフォース・ドットコム 事業部長・鈴木氏も「各部門がいかにしっかり連携してバトンをつなぐかを重要視しています。KPI、進捗状況をガラス張りにしておく」と語った。
Repro執行役員CCO・佐々木翼氏。
Repro 執行役員・佐々木氏も、共通のKPIをマーケティングとインサイドセールスだけでなくマーケティングとプロダクトチームも持つことを推奨し、「例えばリニューアルしているお客様とオン・ボーディングで使っている機能の相関も分析すると明確に出る。オン・ボーディングで使いやすい状態をプロダクトチームとカスタマーサクセスチームが連携してつくるとよい」と部門間の連携を強調した。
これからの時代を勝ち抜くには、顧客を常に意識したビジネスを行っていかなければならない。そのためには顧客に関するきめ細やかなデータの収集、分析が不可欠となる。しかも、それを社内の一部の部門だけでなく全社で共有して連携していく。各セッションにはそうした成功のヒントがいくつも散りばめられていた。