左から、新たにWED傘下の事業会社社長に就任する沖田貴史さん、WEDのCEO山内奏人さん、CTOの丹俊貴さん。
提供:WED
レシート買い取りアプリ「ONE」で爆発的にユーザーを集め話題を巻き起こしたワンファイナンシャルは12月11日、社名を「WED」に変更すると共に、SBIリップルアジア代表取締役を務めた沖田貴史氏を、取締役に迎えることを明らかにした。沖田氏はWED傘下の金融事業会社の社長に就任する予定だ。
さらに、レシートを撮影した画像を送ることで現金に変えられるアプリONEの次の柱となるサービスとして、月額3980円で、日本全国の映画館、水族館、美術館、博物館に行き放題となるサービス「PREMY(プレミー)」をテスト運用していることも明かした。
社名変更と共に、東京・日比谷のど真ん中に2019年11月末に移転した新オフィスが入居するビルは、なんと2021年で取り壊しが決まっているという。変化する環境にあえて身を置くことで「意識的にギアを変えて行きたい。当たり前を超えるサービスを出していく」と語る、CEOの山内奏人さん(18)に、変革の背景と新サービスに込めた狙いを聞いた。
カルチャーのサブスクという挑戦
2016年の創業時から、話題を巻き起こしてきた山内奏人さん。ワンファイナンシャル改めWEDは、大きな経営体制の刷新に出た。
撮影:滝川麻衣子
「ONEでやってきたのは人間を理解する事業。人はどう行動するのかというのをちゃんとサイエンスできるようになってきました。次のPREMYは、ユーザーとの接点を増やして、理解してきたことを何につなげるかが大事と思っています」
東京・日比谷の日比谷通り沿いのビルの一角にある、ワンファイナンシャル改めWED(ウエッド)の新オフィスに12月初頭、山内さんを訪ねた。社名も組織も大きく変更するタイミングで入居した新オフィスは、床も壁、デスクや椅子も、全て白で統一され、さながら禅宗の寺院を連想させる。
山内さん率いるWEDは9〜10月に資金調達を行い(金額非公表)、社員を3人から20人近くに増員。SBIグループでブロックチェーン事業を手がけてきた経験豊富な沖田氏を経営陣に迎え入れるなど、大きな変革に出た。
新体制下で打ち出すサービス第1弾のPREMYは、月額3980円で映画館、水族館、博物館、美術館を利用できる、いわばエンタメやカルチャーのサブスクリプション(定額制)サービス。現在、利用者数を限定して招待コードを先着順で発行し、テスト運用している。
テスト運用への参加を呼びかける山内さんのTweet(12月2日)は2.8万件のいいねを集め、4749件リツィートされるなど早速、大きな注目を集めている。
PREMYって言う月額3980円で映画館、水族館、博物館、美術館に行き放題になる夢のようなサービスがいま招待制ベータでテスト運用をしているんですが、使ってみたい方いますか?もしいれば招待コードツイートします!
買い物で生じたレシートや半券を撮影して送れば買い取ってくれるアプリONEも、2018年6月のサービス開始から利用者が殺到し、16時間で停止を余儀なくされるなど爆発的な話題を巻き起こした。
再開後は、企業から広告出稿を募り、集めた購買データを分析して出稿企業に提供するビジネスモデルを軌道に乗せている。
ONEのサービスも継続して磨きをかけつつ、PREMYでは不正利用対策や認識技術など「ONEで培ってきたものを昇華させたい」と山内さんは話す。
人の行動・生活を変えるサービス
テスト運用中のPREMYは、映画館などの利用時に、半券やレシートを撮影してデータを送れば、利用料金がキャッシュバックされるというもの。月額3980円で生活が変わるかも?
撮影:滝川麻衣子
「PREMYのビジネスモデルの原型は実はONEよりも先にあった。(このモデルを)何に載せるかを考えた時、僕は文化に載せたいと思いました。通常通り購入してもらってキャッシュバックするので、(美術館や映画館など)文化を提供する側には、通常どおりにお金が回る仕組みです」
試験運用でPREMYを使っているユーザーからは「毎日が冒険しているようだ」とのTweetがあったという。山内さんはそれを受けて言う。
「それこそ僕がやりたかったこと。(PREMYを使うことで)朝起きて、今日どこ行こうかなと考えるようになる。人の行動を分かりやすく変えていける。日常の中にゆとりや余白を生み出していきたい」
ただし、単純に映画のサブスクリプションサービスで言えば、アメリカでは失敗した先行事例もある。
「(PREMYサービスには)アップサイドもダウンサイドもめちゃめちゃあると思う。リスクを取れる範囲で設計していますが、金額も中身もまだこれからどうなるか分からない。(予測不能という意味で)狂犬的なサービスと社内でも言われています」
SBIグループから異例の転身、経営陣へ
内装は全て白で統一され、オフィスに余白をもたらすものの一つとして、茶室も設けた。
撮影:滝川麻衣子
ブロックチェーン業界を牽引してきたSBIホールディングス傘下のSBIリップルアジア社長を務めた沖田さんのWEDヘの経営参加は、沖田さん側からの提案だったという。
沖田さんは日本と香港を拠点とする上場企業の経営経験を持ち、アジアでの決済サービス普及に尽力した人物。巨大金融グループ経営陣から、創業3年の10代経営者が率いるスタートアップへの転身は異例だ。
2016年の高校在籍中の創業時、山内さんはビットコインのプロダクトを世に出し、その後サービスを終了させている。そこから3年かけて進化した今、「決済系サービスをもう一度やりたい」と相談を持ちかけた山内さんに対し「どうせなら(自分が)ちゃんと中に入って、一緒にやりませんか」と、沖田さんが応えたという。
沖田さんが加わったことにより、会社もステージを上がった実感があると言う。
「これまで会社はよくも悪くも部活感があったのですが、誇れる会社にしたいに変わった。意思決定の精度が上がり、PREMYのような思い切ったサービスに踏み切れたのも、彼が加わったことは大きいです」(山内さん)
当たり前を超えた社会をつくる
GettyImages/Matteo Colombo
ワンファイナンシャルからWEDへと社名を変えたのは「ギアを変えるタイミングがきたということ」(山内さん)を内外に知らしめる象徴でもある。
フィンテックに意味を限定しがちだった前社名から歩を進め、統合の意味をもつ「WED」を選び、デザインとテクノロジーの統合で事業を作っていく決意を込めた。WEDは狂気のレベルで知と魔術を求めた、Wednesdayが由来する北欧神話の神オーディンにもちなんでいるという。
新しいオフィスは収容キャパシティが80人規模で、今後も採用は拡大する。10数人の社員に対し140坪という広さや、白に統一し茶室も備えるなどこだわりある内装への投資も、
「この時期のスタートアップで、普通はありえないと言われること。でも、ビジネスとしてONEが回り始めたなという実感があったので、無理矢理でも次のリーグに行く状態を作り出さなければ、成長しないと思ったのです」
しかも2021年には、ビルの取り壊しが決まっているため、その時点でまた会社は「動くこと」が宿命づけられている。
「誰も見たことのない世界を作りたい。ユーザーにとってもクライアントにも社内にとっても当たり前を超えていきたいし、その先にある当たり前を超えた社会が目的です」
経営陣に新たに加わった沖田さんは、異例の決断の理由として、山内さんにこう言ったという。
「未来にbet(賭けを)しましょう」
(文・滝川麻衣子)