昇進目前でキャリア断絶…男性育休はやっぱり難しい。人事が明かすホンネ

男性育児

男性の育児休業取得率はいまだに低い。

getty/Yoshiyoshi Hirokawa

政府は2020年から国家公務員の男性職員に原則1カ月以上の育児休業の取得を促す方針を打ち出した。もちろん狙いは公務員を皮切りに民間企業にも波及させることにある。

その目的は女性に偏っている家事・育児を少しでも解消し、就労の促進や少子化に歯止めをかけることにあるが、しかし現実は1カ月の育休取得とはほど遠いのが実態だ。2018年度の男性の国家公務員の育児休業取得率は21.6%だが、民間企業の男性は6.16%にとどまる(厚生労働省「雇用均等基本調査」)。政府は2020年までに13%の目標を掲げるが、達成のハードルは高い。

男性育休に50代管理職はキョトン

とあるサービス業の人事部長は、管理職研修で2年前に「育児・介護休業法の改正」の説明をしたときの光景が忘れられない。

「人事としては新しい改正内容を事務的に淡々と説明しました。男女に関係なく取得できることは周知のはずですから、あえて女性や男性という言葉を使わなかったのですが、最後に『男性の部下が育休取得を申請してきても遅滞なく人事部に連絡してください』と言ったら、会場の一部がどよめいたのです」

よく見ると、50代管理職が集まる一角だけがキョトンとした顔をしていた。

実は育児休業は女性社員だけの規定だと思っていたのです。育休といえば女性が取るものだと考えている50代社員が多いのには驚きました

そういう管理職がたとえ男性が取得できるとわかったとしても、快く取得を認めるとは思えない。

労働組合の中央組織である連合が、同居している子どもがいる25~49歳の男性有職者の調査をしている(「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」、2019年10月8日発表)。それによると、「取得したかったが、取得できなかった人」の理由の中には

  • 「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」(12.1%)
  • 「取得すると異動になる」(5.7%)
  • 「上司に取得したら不利益を被ると言われた」(5.4%)
  • 「上司に取得しない方がいいと言われた」(4.6%)

といったパタハラ行為に該当する行為で取得をあきらめている様子が浮き彫りになっている。

復帰したら嫌み、昇進・昇級できなかった

上司 説教

上司世代の男性育休に対するステレオタイプな価値観はいまだ抜けない。

getty/taa22

パタハラとはパタニティハラスメントのことで「男性はこうあるべきだという先入観により、上司・同僚が男性の育児休業など子育てを疎外する言動などの嫌がらせのことだ。マタニティハラスメントと同様に事業主はパタハラを防止する措置を義務づけられている。

しかし、実際にはパタハラは横行している。育児休業取得後のパタハラとして、

  • 「復帰したら嫌みを言われた」(15.3%)
  • 「責任ある仕事を任せられなくなった」(8.3%)
  • 「昇進・昇給できなかった」(6.9%)
  • 「低い人事評価を受けた」「復帰したら新人のような扱いをされた」など

と、答えている。

男性の育休取得に無理解な職場が多く、パタハラも少なくない中で「1カ月以上の取得」は可能なのか。

連合の調査では対策として「男性の育休取得の義務化(対象者に取得を義務づける)」が57.5%と最も多い。 エン・ジャパンの「男性育休実態調査」(35歳以上、2019年9月10日発表) でも「男性の育休義務化」に53%が賛成している。

8割が男性育休「取得したい」を希望

働く男性

男性の多くは育休に対して前向きである。

撮影:今村拓馬

とはいえ、育休を取りたい男性が少ないわけではない。

エン・ジャパンの調査によると、「もしこれから子どもが生まれるとしたら、育休を取得したいと思うか」の質問に対し、「積極的に取得したい」が41%、「できれば取得したい」は45%で、取得希望が多いことがわかる。

取得希望期間でも「1カ月~3カ月」が22%と最も多い。政府調べでは男性の取得日数は「5日未満」が36.3%と最も多く、次いで「5日~2週間未満」が35.1%。2週間未満が7割を超えている。希望と現実のギャップが大きいことが分かる。

では、男性の育休取得を阻んでいるのは何か。 連合の調査によると、育児休業を取得しなかった理由として、

  • 「仕事の代替要員がいない」(47.3%)
  • 「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)
  • 「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)
  • 「仕事にブランクができる」(13.9%)
  • 「男性が取得するものではないと思う」(11.3%、複数回答)

実は、この調査では「取得したかったが、取得できなかった」人が30.2%もいた。その理由は「仕事の代替要員がいない」(63.6%)が最も多く、「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(46.4%)が2番目に多かった。

要するに、男性の育休取得に無理解な職場が多いということだ。法律では男女に関係なく育児休業を取得できるが、依然として男性の取得に無理解な管理職が存在することも事実だ。

一律義務化に違和感覚える人事部長

しかし、人事担当者の中には一律の義務化には疑問の声もある。

前出のサービス業の人事部長はこう指摘する。

「社員の家庭環境によっても事情が違います。共働きの男性もいれば、専業主婦世帯もある。共働きの場合は奥さんが少しでも早く職場に復帰するために、育児休業を取るのは良いことだと思います。

でも共働きの中には親と同居している、あるいは近くに親が住んでいて、子どもの面倒を見てもらえる環境にある人もいます。一律に1カ月以上の育休取得を義務づけるのはいかがなものかという気がします」

義務化するのではなく、子育ての環境によって選べるようにするべきだという意見だ。

また「1カ月以上の取得」についても難しいとの声もある。建設関連会社の人事部長はこう語る。

「会社にもよりますが、1カ月程度であれば何とかなるでしょう。仕事の締めや月次決算の伝票処理など細かい作業は上司が他のメンバーに仕事を割り振ることでカバーできると思います。当社でも男性で育休を取ったのは最高でも1カ月ですが、それが2~3カ月になると、さすがに抜けた穴を埋めるのは難しい。頭を抱える上司も出てくるかもしれません」

前出の調査でも、取得したくても取得できない理由のトップに「仕事の代替要員がいない」が挙がっていたが、他のメンバーから援助を得られても、やり繰りできるのは1カ月が限度という。

昇進の評価に影響を気にするから

育休

男性育休が根付くためには企業風土の変化が必要不可欠だ。

撮影:今村拓馬

そんなことを気にすることなく、もちろん本来は女性と同じように法定の1年間、会社によってはそれ以上の期間の育休を取得できる。

しかし、長期の育休の最大のネックとなるのが、連合の調査にもあった「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」可能性があることだ。取得したことで昇進・昇給させないのはパタハラに当たる。ただし、取得期間中の人事評価は行わないにしても、昇進・昇格に微妙な影響を与える。

「当社でも本当は取得したいけど、取らない理由の半数は昇進の評価に影響を与えることを気にしているからです。当社では40歳までに課長にならないと、その後の昇進が難しいのが実状です」

そう明かすのは前出の建設関連会社人事部長だ。

「重要なプロジェクトのメンバーを降りて『育休を取ります』と言えば、ダメだとは言えませんが、『あ、そう。それでいいのね』となって、結果的に課長のポストをライバルに奪われてしまうことになりかねない。

これは差別ではなく、あくまでも昇進候補者の実績を踏まえたもの、と言われれば人事部も文句は言えません」

実際に自動車メーカーなど大手企業の中には課長職に昇進する上限年齢を40歳前後に定めているところもある。仕事も波に乗り、昇進が目の前に迫っている30代にとっては「キャリア断絶」を心配し、育休を取ることを躊躇せざるをえないかもしれない。

もちろんこれは女性社員にとっても同じだ。女性の管理職が増えない原因の一つは昇進適齢期の出産・育休という同じ構造が影響しているかもしれない。

男性の育休義務化によって昇進・昇給の人事評価制度を変えることになると期待する声もある。しかし、男性の育休取得が順調に機能するには、企業の風土改革はもちろん、働き方など改革すべき課題も多い。

(文・溝上憲文)

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