フランス国立学士院図書館にあるレオナルド・ダ・ヴィンチのノート。
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- 日々仕事をする上で、インクや紙の代わりにデジタルツールやアプリを使うのが主流になっている。それでも、アナログなアプローチは起業家やフリーランスにとって重要な要素になりうる。
- Habit Nestの創業者らは最近、起業家たちに人気の「自己改善のためのノート」が評価され、アマゾンの2019年「30歳以下のスモールビジネス経営者」に選ばれた。
- 心理学の研究者によると、タイプするよりも手書きでメモをとった方がアイデアをよく理解できるし、PCでのアプリケーション切り替え作業は仕事のパフォーマンスに悪影響を与えるという。
筆者はこの9月に米Business Insiderで働き始めてから、さまざまな業種の起業家たちと、生産性を向上させるための戦略について話す機会があった。驚かされたのは、彼ら彼女らの多くが、日ごろからノートを使う習慣が大事だと言っていたことだ。
アマゾンが表彰する2019年「スモールビジネス・オブ・ザ・イヤー」で、30歳以下の経営者部門のファイナリストに選ばれた4人は、eコマース事業を運営するのにペンと紙なしでは仕事にならないと話してくれた。
例えばファイナリストの1人、自然派のハンドメイドチョコレートを生産・販売するJoe Chocolateの創業者は、メンバー全員に毎日ノートを持ち歩くよう指示しているという。
また、上記「スモールビジネス・オブ・ザ・イヤー」30歳以下の経営者部門で(ファイナリスト4人の中から)グランプリに輝いたのも、自己改善のためのノートを手がけるHabit Nestだった。
起業家たちは日々デジタルツールやアプリを駆使して仕事をしている。とはいえ、私が取材した起業家の多くは、クリエイティブで戦略的なアイデアを発展させる上で、アナログ技術はいまだに重要な役割を果たしていると語ってくれた。
本稿では、彼らのやり方が正しいことを裏づける研究や、ビジネスを成長させるためにペンやノートをより効果的に使う方法を紹介しよう。
研究でも証明されている
手書きでメモするほうが、より要点を理解できる。
Jeff J Mitchell/Getty Images
心理学者によるさまざまな研究のおかげで、キーボードを叩くより手書きでメモをとったほうが話し手の考え方をよく理解できることや、PC作業時のアプリケーション切り替えが仕事のパフォーマンスに悪影響を与えること、PCを使いながらだと話し手へのリアクションをコントロールするのが難しくなることが判明している。
ある研究で、プリンストン大学の学生にTEDトークの動画を見せて、手書きとノートPCでそれぞれメモを取らせたところ、より多くの単語を拾ったのはPCを使った学生だったが、トークの勘どころをつかんでよく理解したのは手書きの学生たちだった。
他の研究では、(いくつかのタスクを並行して行うなど)注意を向ける先をシフトさせるとパフォーマンスが下がることや、外部からの刺激にどう反応するかを人間は意識的にコントロールできないことが明らかになっている。
インターネットに接続している画面にはひっきりなしに通知やバナーが出てくるし、デジタルツールに慣れ親しむうちに身についたクセで、メモアプリを開く前についついTwitterやFacebookを見てしまう。スマホの機内モードをオンにしていても、インスタグラムのことを考えてしまう私たちがいる。
どうしたってパフォーマンスも集中力も高めようがない。
買ったノートをちゃんと使うには
Habit Nestが開発・販売する自己改善のためのノート。
Courtesy Habit Nest
だからといって(PCの代わりに)ノートを買ってみたところで、必ずしも使うとは限らない。恥ずかしながら、私の手もとにも使っていないノートがたくさんある。
大事なのは、スマホやPCのように、ノートを生活の一部に組み込むことだ。
ポケットかバッグに入れて持ち歩き、就寝前にはベッドの脇に置いておくと、そこに思いついたアイデアを書くようにというリマインダーになる。
思いついたアイデアを忘れてしまう前に書き留めるにしても、ブログやSNSに投稿する長めの文章のために数分でメモをつくるにしても、キーボードの代わりにペンを使うだけで、アイデアが明確になる。
まずは事業についてビジョンステートメント(将来的な目標や目的地)を書き起こしてみたり、何のために事業を行うのか、何をするのかを明確にするのに数ページ、思いつくままに書いてみたり。1歩下がって、自分を駆り立てるものの全体像を確認してみると、重要性の低い取り組みや投資を見直し、最優先事項に焦点を当てられるようになる。
もっと体系的なものがよければ、信頼できるテスト済みのノートがいくつもあるのでそこから選べばいい。人気の「バレットジャーナル」は、かなり使いやすいフォーマットのノートだし、すでに触れたHabit Nestの「モーニング・サイドキック・ジャーナル」は、毎朝その日を有意義に過ごすためのアドバイスやその日やるべきことを教えてくれる。
白紙のものとは違ってこうしたノートは、日々のできごとを思い起こすためのワークブックや、目標にたどり着く進歩の過程をたどるテンプレートのような機能がある。愛用者のなかには、このノートを広める伝道師のような活動をしている人もいるくらいだ。
紙嫌いの人もツールを選べば同じ効果を得られる
iPadにタッチペンでメモするのもよい。
Hollis Johnson/Business Insider
絶対に紙は使いたくない、という人たちは、アップルのiPadとApple Pencilのようなツールを使うことで手書きのメリットを得られる。手書きした文字を読み取る光学式文字認識システム(OCR)のようなたくさんの利点もある。
Habit Nestは、紙に書くのが好きではない人がいることを踏まえて、PDF版のモーニング・サイドキック・ジャーナルも提供している。印刷して使うも良し、タッチペン対応のアプリに読み込んでタブレットで使うも良し(私のお気に入りはGoodNotesだ)。
iPadは素晴らしいと思うけれど、(通知やらバナーやら)気の散る原因となるものがたくさんあるし、画面から放たれるブルーライトは睡眠に悪影響を与えるし、何より充電しないといけない。
筆者が紙に戻ってきた大きな理由はペンだった。左利きの自分にはしっくりこないツールを使ってものを書くことに何十年もフラストレーションを抱えてきたが、妻が誕生日にクラシックな万年筆をプレゼントしてくれたことで、そのストレスから解放された。
それ以来、個人用のノートには定期的にアイデアなどを書き込み、起業家たちにインタビューする際は、ノートにメモをとっている。
取材した起業家たちが語ってくれたのは、大事なのは紙が好きか嫌いかではなく、日課を守るということだ。多くの人は毎朝戦略を考える時間をとっているし、数は少ないが、毎晩翌日のことを計画する時間をとっている人もいた。
全員に当てはまる答えはないが、こうした研究や経験談からは、基本に立ち返ると大きな利益が生まれるということだけは言える。
(翻訳・編集:Miwako Ozawa)