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構造的な欠陥を指摘する声も…フィンランドのベーシックインカム実験は失敗だったのか

フィンランドのベーシックインカム実験の参加者であるユハ・ヤルビネン(Juha Jaervinen)。2018年4月。

レンタル自転車で街をゆくフィンランドのベーシックインカム実験の参加者、ユハ・ヤルビネン(Juha Jaervinen)。2018年4月。

Gregor Fischer/DPA/Getty Images

これはベーシックインカムの研究者たちが望んでいたニュースではなかった。フィンランドが2000人近くの失業者に毎月給付金を支給するベーシックインカムの実証実験を開始してから2年が経過した後、受給者の多くは失業したままだった。受給者は他の失業者よりも全体的に幸福で健康であると報告されたが、実験は失敗だったとみなされている。「このベーシックインカムの実験にはがっかりさせられた」と、Jain Family InstituteのCEOであるマイケル・スタインズ(Michael Stynes)はBusiness Insiderに語った。

「しかし、この実験の結果はあまり役に立たない」

実際、多くのベーシックインカム研究者たちは、この研究の結論をゆがめている重大な欠陥を指摘している。

ブルッキングス研究所の研究者ジミー・オドネル(Jimmy O'Donnell)は、Jacobinへの寄稿の中で、いくつかの大きな問題を指摘した

第一は、フィンランドの社会的態度の変化で、多くの政治家と有権者はベーシックインカムを貧困層の労働意欲を高めるための方法だと考えるようになった、と彼は述べた。これが第二の問題を生む。首相官邸が実験のために2000万ユーロ(約24億円)という限られた予算しか配分しなかったのだ。さらに、実験を迅速に実行に移したいという意向から、研究者たちは実験の設計を急がざるを得なかった。

実験を行った研究者は、当初1万人の参加を計画しており、月額約1000ユーロ(約12万円)の支給を検討していた。しかし2000万ユーロの予算では、それは実現できなかった。さらに厳しいスケジュールにより、チームは参加者を失業者に限定することを余儀なくされた。彼らはすでにそのグループの所得などの管理データを持っているからだ。

「彼らは非常に真面目な研究者だ。しかし、彼らは仕事を妨げられていた」とスタインズは言った。

ベーシックインカムは実験のほんの一部に過ぎなかった。

また、スタインズは別の大きな欠陥を指摘した。実験の全体設計では、ベーシックインカムは提供されるサービスのごく一部に過ぎず、このお金を受け取るためには他のサービスを放棄する必要があった。

フィンランドのヘルシンキにあるルスラニア書店を出る客。2018年10月2日。

フィンランドのヘルシンキにあるルスラニア書店を出る客。2018年10月2日。

Alexander Demianchuk/TASS/Getty Images

2017年、フィンランドは政府が支援する無条件のベーシックインカムをテストしたヨーロッパで最初の国になった。2000人という人数が少なすぎるという研究者もいるが、スタインズは、ベーシックインカムに関する重要な結論を出すのに十分だと述べた。しかし、データを解析することは困難だった。

この実験は、失業手当、住宅手当、社会扶助、病気補償など、失業中の住民に法律で支給される標準的な条件付き給付を既に受け取っていた人々を対象とすることになった。対象外の失業者のグループ(約5000人)は、これらのサービスを受け続け、一方、ベーシックインカムの受給者グループは、月額560ユーロ(約6万7000円)の少額の基本所得に加えて、以前と同じ条件付き給付の一部(すべてではない)を受け取った。

2017年、対象外グループは失業手当として7300ユーロ(約88万円)、社会扶助で1300ユーロ(約16万円)を受け取ったが、受給者グループは、失業手当として5800ユーロ(約70万円)、社会扶助として940ユーロ(約11万円)しか受け取っていない。

参加者のシニ・マルチネン(Sini Marttinen)はニューヨーク・タイムズに、実験中に月50ユーロ(約6000円)だけ収入が増加したと語った。

「彼らは、条件付き失業手当を無条件のベーシックインカムに置き換えたら、雇用が増えるのかということに興味があったのだ」とスタインズは言った。

実験が終わる頃には、ベーシックインカムの受給者は、非対象グループの人たちと同じように仕事に就きたがらなくなっていた。しかし、受給者が以前受けていた条件付き給付を受けていないという事実は、実験結果についての結論を出すことを難しくしている。多くのベーシックインカム支持者は、ベーシックインカムと標準的な失業給付のどちらかを選ばなければならないという仕組みに批判的だ。

カリフォルニア州ストックトンの市長でベーシックインカムの実験を行なっているマイケル・タブス(Michael Tubbs)は、Business Insiderに対し、「既存のセーフティーネットを廃止し、現金支給に置き換えるような政策に反対する」と語った。ストックトンでの実験では、125人の住民に毎月500ドル(約5万4000円)が支給される

フィンランドの実験のもう一つの問題は、政府の調査に対する参加者の回答率が約25%と極めて低かったことだ。アメリカ教育省が定めた基準に照らすと、この実験の不確実性は容認できないレベルに達していることになる。

国の基本的な所得政策になり得るか

ベーシックインカムの起源は16世紀にまでさかのぼるが、最近になって、民主党大統領候補のアンドリュー・ヤン(Andrew Yang)のおかげで、再び政策として知られるようになった。ヤンは、18歳以上のアメリカ市民全員に月額1000ドル(約10万8000円)、年間1万2000ドル(約130万円)を支払うという政策を掲げている。

そのような政策と比較すると、フィンランドの実験は極めて小規模だった。1968年から1982年までアメリカで行われた約9000人の参加者を対象とした「負の所得税」の実験と比べても非常に小規模だ。この実験は、低所得者が税金の代わりに政府から支払いを受けるものだったが、それでも結論を出すには規模が小さすぎると考えられた。

スタインズは、フィンランドの実験結果を理由に他の国がベーシックインカム政策の推進を思いとどまることのないよう願っていると述べた。

「これはベーシックインカムのテストとは言えない」と彼は言った。

「非常に限られた予算のベーシックインカムを、特定の集団に対して、限定された状況の中でテストしたにすぎない」

[原文:One of the world's largest basic-income trials, a 2-year program in Finland, was a major flop. But experts say the test was flawed.

(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)

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