高齢化率が4割の地方にお試し移住したら、日本の未来がちょっとだけ見えた

尾鷲

高齢者人口が6割を超える尾鷲・九鬼。

撮影:小林優多郎

50年後、日本の高齢化率(全人口に占める65歳以上人口の割合)は4割になる —— 。そんな概算が内閣府から発表されている。東京にいるとなかなか感じることのできないその現実は、地方で着実に起こっている。

Business Insider Japanでは、リモートワーク企画の第三弾として、11月から12月にかけて、カヤックLivingと共同で「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」を実施。そこで見えてきた、三重県・尾鷲(おわせ)市の「人口減少」のリアルとは?

人が消える町、SFのような未来

尾鷲

海と山に囲まれた漁港町・九鬼。

撮影:小林優多郎

東京から名古屋を経由して、さらに5時間(特急に乗りそびれてしまったため)。三重県・尾鷲(おわせ)はとにかく東京から遠かった。

リアス式海岸に囲まれ、海と山がすぐそばにある尾鷲市は人口が1.7万人ほど。車で少し走れば、マクドナルドやすき家、イオンなどのチェーン店もあるため、それほど不便さは感じないものの、人口流出が長らく問題になっており、尾鷲市の高齢化率は約4割だ。それよりさらに深刻なのは、尾鷲の中心街から離れた集落だ。

「ここに住んでいた5年間でも、人が500人から400人になりました。人が減っていく町への関わり方を考えるのは、どこかSF的かもしれません」

5年前に東京から移住した、豊田宙也さん(33)は、尾鷲から車で20分ほどにある漁港町・九鬼に住んでいる。

1960年には2000人を超える人口だったのが、人口流出に歯止めがかからず、現在住んでいるのは400人強だ。同時に高齢化も進み、現在は九鬼の65歳以上割合は6割を超えている。

流出の理由はさまざまだ。木材の輸入率が増加したことによって、地元の主要産業のひとつだった林業がどんどん廃業していること。継げる家業が少ないこと。大学がないため、大学に行こうとすると外に出る必要があること。

仕事ではなくてやることがない

尾鷲

九鬼へ移住してきた豊田宙也さんが開いた古本屋「トンガ坂文庫」。

撮影:小林優多郎

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の高齢化率は、2025年には30%となり、2040年には35.3%になると見込まれている。空き家や孤独死、後継者の不在といった、これから日本が直面することになる高齢化の問題を、尾鷲は先取りしているとも言える。

豊田さんは、地元から人口が減っていく理由を「仕事がないわけではない。地方に“いるべき理由”が見つからないから」だとみている。

観光や仕事などで一時的に尾鷲に来る機会があっても、現地で継続的に続けられる「なにか」がなければ、尾鷲に住み続ける動機はなくなってしまう。リモートワークが普及し、移動がこれまでになく簡単になった今、逆に地域でできることの独自性は強く求められている。

地域外からの人材を受け入れるための制度「地域おこし協力隊」の隊員として尾鷲に移住した豊田さんは、その任期が終わった後も尾鷲に残ることを選んだ。その理由も「ここでやるべきことを見つけられたから」だという。

九鬼には、トンガ坂と呼ばれる坂がある。トンガとは、尾鷲の地元の言葉で「愛嬌のあるほら吹き」という意味だそう。その由来を聞いた時、豊田さんは「この場所に本屋をつくりたい」と決めたという。空き家を改築し、2018年、九鬼に小さな古本屋をオープンした。

全国30箇所で行われた「ブレスト」

キイコン

尾鷲で行われたブレインストーミング(ブレスト)大会「紀伊コン」。

撮影:西山里緒

地域に住む人たちに町を活性化するための「当事者意識」を持ってもらう。ことばにするとシンプルだが、それを根付かせるのは簡単なことではない。

地方から新たなプロジェクトを生み出す場づくりに取り組んでいるのが、鎌倉に本社を持つIT企業・カヤックだ。

カヤックは2013年頃から、地域に根ざした会社や経済活動のかたちを模索している。中でも鎌倉で「カマコン(鎌魂)」と呼ばれる、地域の寄り合いのようなミーティングを継続的に開催している。

実際にカマコンから実現したプロジェクトも多い。例えば「津波が来るまえに高いところへ逃げるプロジェクト」は、地元の企業や自治体も巻き込んだ防災イベントになった。企業から起こしていく地域活性の好例として、カマコンは日本の各地にも広がり、その数は6年で30箇所にも上っている。

キイコン

ブレストの目的は「当事者意識を持ってもらうこと」だという、カヤック代表取締役の柳澤大輔さん。

撮影:西山里緒

カマコンの中核を担うのが「ブレインストーミング(ブレスト)」だ。

企業でも新しいアイデアを創出する手段のひとつとしてブレストはよく使われるが、カマコンにおけるブレストとは、参加者にズバリ「当事者意識」を持ってもらうために設計されているという。

ブレストでアイデアを出していると、自然とその取り組みに自ら関わりたくなるという副次的効果がある。実際、移住していなかった人が「こんなことをやりたい」とプレゼンしていた結果、自然と移住してしまうケースもあるのだという。

「地域ブレスト」実際にやってみた

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アイデアをとにかく多く出すために、補助のカードを使うことも。抽象的なイメージからアイデアを膨らませる。

撮影:西山里緒

尾鷲のリモートワーク滞在中に、カヤック代表取締役の柳澤大輔さんが訪れ、カマコンの紀伊半島バージョン「紀伊コン」を実施したので、参加してみた。

リアルタイムでYouTube配信、学童保育を作る、サテライトオフィス、クラウドファンディング……。一見突拍子もないアイデアでもあとから繋がってきたり、意外と「実現できそうだな」と思えるものも。

また、ブレストが終わった時には共通の話題ができているので、その後の懇親会でもグッと地元の人との距離感が縮まった。

「まちづくり」と構えることなく、“脳を活性化させる”ことをフックに地域について考える。紀伊コンは単発のイベントだったものの、カマコンのように企業が主体となって組織的に運営していくことも成功のカギだと、カヤックの担当者は語る。

少子高齢化がいっそう深刻化する地方の未来 —— 。ブレストのテーマも発表した豊田さんは、人口減少が“問題視”されている地方にこそ、個人ができることの可能性は広がっていると思う、と話す。

「例えば5〜6人で集まって話をすれば、『じゃあ、この話を市役所に持っていくよ』という話もできるんです。コミュニティの狭さは、逆に(ギリシャのポリスのような)理想的な言論の空間をつくれる可能性もあるんです」

(文・西山里緒)

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