シャチにもあった「おばあさん効果」…長生きすることで、孫の生存率を高めている

シャチはアメリカのワシントン州やカナダのブリティッシュコロンビア州の海岸沖に生息する。

シャチはアメリカのワシントン州やカナダのブリティッシュコロンビア州の海岸沖に生息する。

Image courtesy of Daniel W. Franks.

ほとんどの動物のメスにとって、生殖期が終わることは、命も尽きることを意味する。だが、ヒトの女性は、閉経後も長生きする。それには進化論的な理由があった。

人類学者は、閉経後の女性の生存率の高さを「おばあさん効果(the grandmother effect)」と関連付けている。祖母が、娘をサポートして孫に食べ物を与え、世話をすることで、親族の生き残りのチャンスを押し上げるからだ(そして未来の世代が遺伝情報を継承していく)。

12月9日(現地時間)、米国科学アカデミー紀要に掲載された新たな論文により、ヒト以外にもおばあさん効果の恩恵を受けている種がいることが明らかとなった。シャチだ。

シャチのメスは、生殖期を終えても長い間生き残る。論文では、母方の祖母の存在により、幼いシャチの生存率が高まることが明らかとなった。

「生殖期を終えた祖母が、海に関する豊富な知識を活かして、餌場で群れの行動をリードする」と、論文の筆頭著者、ダニエル・フランクス(Daniel Franks)氏はBusiness Insiderに語った。

またシャチは、祖母が孫に食べ物を分け与えることも分かっている。

カリフォルニアのモントレー湾で、母親に寄り添って泳ぐシャチの子ども。

カリフォルニアのモントレー湾で、母親に寄り添って泳ぐシャチの子ども。

Chase Dekker/Shutterstock

シャチの祖母の存在が、孫の生存率を高める

フランクス氏率いる研究チームは、アメリカのワシントン州とカナダのブリティッシュ・コロンビア州の海岸沖に生息する2つのシャチのグループに関する40年以上にわたる個体調査のデータを分析。祖母と暮らしていたと思われる378頭の孫の生存率が、祖母が死亡して2年後には減少したことが明らかとなった。

「母方の祖母が死んで2年以内の個体は、祖母が生存している個体よりも死亡率が4.5倍高かった」と論文に記載されている。

特に、太平洋北西に生息するシャチが好んで食べるキングサーモンの数が少ない時に祖母を失うと、孫の死亡率により大きな影響が生じることも明らかとなった。

「食料が不足している時、祖母の死が与える影響はより重大なもののなると分かった」とフランク氏は述べた(論文では、キングサーモンの量が多いほど、シャチの死亡率が下がることも報告されている)。

流氷に取り残されたアザラシの周りを泳ぐシャチの群れ。

流氷に取り残されたアザラシの周りを泳ぐシャチの群れ。

Tobias Brehm/Shutterstock

家族の強い絆

フランクス氏は、閉経後も長く生きることが分かっている5種の哺乳類(ヒトも含む)に、なぜシャチが含まれるのか、今後の研究で明らかになるだろうとしている。

シロイルカ、イッカク、コビレゴンドウも閉経後に生き続けるが、シャチには及ばない。シャチのメスは45歳頃に生殖期を終え、その後、少なくとも16年は生きる。フランクス氏によると、80年あるいは90年以上生きるメスもいるという。

閉経後も生き続ける少数の哺乳類に共通するのは、メスが離散しない社会構造を持っていること。つまり、母と子は、一生を通してともに暮らすということだ。「離散しないということは、メスのシャチが年を取るほどに、群れとの結びつきが強まることを意味する」とフランクス氏は言う。

「進化論的に言うと、閉経を迎えたメスは、子を産むのではなく、家族をサポートすることで自らの居場所を確保し、遺伝子を受け継いでいく」

論文によると、閉経後のシャチは「海の知恵袋」としてふるまい、群れでキングサーモンを捕食する際には強いリーダーシップを発揮するという。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州のポート・レンフルー近くを泳ぐシャチの親子。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州のポート・レンフルー近くを泳ぐシャチの親子。

NOAA Fisheries

だからこそ、キングサーモンが少ない年に祖母を失うと、より大きなダメージを受けるとフランクス氏は述べた。シャチの祖母は、娘が狩りに出かけている間、孫の面倒を見ることでも知られていると、同氏は付け加えた。

[原文:Humans aren't the only species that rely on grandmothers to watch the kids: Orca grannies ensure baby whales live longer

(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)

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