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世間は冬のボーナスの季節。欲しい物もあるし旅行にも行きたい、おまけに消費税が上がったから……などと考えていくと、「まとまった収入があっても、思いのほか手許に残らないな」と感じる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「お金を貯めるコツ」について考えてみましょう。
単身世帯の約4割「金融資産ゼロ」
本題に入る前に、日本では、預貯金などの金融資産は収入以上に個人差が大きく、統計で見ると1人当たりの金額は驚くような数字になります。
日本銀行が作成している「資金循環統計」という統計があります。2019年3月末の確報値を見ると、家計が保有する金融資産は1854兆円。住宅ローンなどの負債を差し引いても、1530兆円になります。単純計算ですが、家計が保有する金融資産の額を日本の人口で割ると、1人当たり1000万円以上の金融資産を保有していることになります。
一方、金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査」(令和元年調査結果)を見ると、金融資産の保有額がゼロと回答した世帯は、2人以上世帯では3222世帯中761世帯(23.6%)、単身世帯では2500世帯中950世帯(38.%)にものぼります。
この調査では、現金、預貯金で日常的な出し入れ・引き落しに備えている部分は金融資産から除いていますが、資産運用や将来に備えた蓄えができていない人が4人に1人から3人に1人くらいいることが分かります。
自分自身、あるいは周りを見渡して、体感的に近いと感じるのはこちらの調査結果ではないでしょうか。
「ビールを発泡酒に」ではお金は貯まらない
お金を貯めるために、「質素倹約」「贅沢を戒める」と言うのは簡単ですが、そうした精神論・根性論はたいてい長続きしません。
普段の生活で節約に苦痛を感じていると、何かの拍子に節約疲れが出て「リバウンド消費」をしてしまいます。クリスマスなどのイベントで使いすぎたり、仕事の山を越えたタイミングで「自分へのご褒美」と称して散財したことがある方もいるでしょう。
一昔前は、ファイナンシャル・プランナー(FP)に節約の相談に行くと、レシートを見ながら「ビールを発泡酒に変えれば、何十円浮きます」などと事細かに指導されたそうです。しかしそもそも、そういうマメなことができる人ならすでに節約できているのでは、という気もします。
貯金するなら「天引き」の魔力を使え
前置きが長くなりましたが、ここからはお金を貯めるための具体的な方法を考えていきましょう。
確実に貯蓄を殖やす手軽でおそらく最も効果的な方法は、給料から天引きして貯蓄用の口座に振り込んでしまうことです。
会社によっては給料の振込に第2口座を指定できるでしょうし、財形貯蓄制度を利用できるかもしれません。積立預金などを利用してもよいでしょう。
お金を貯めるコツは「仕組み作り」。一度作業を自動化してしまえば、その後が楽になる。
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重要なポイントは、振込みの手間をかけずに、自動的に貯める仕組みを作ってしまうことです。まずはこの仕組みで引越しや失業、不意の支出などに備えて給料の6カ月分を貯金することを目標にしましょう。
「なんだ、そんな単純なことか」と思われるかもしれませんが、天引きの効果は絶大です。どれだけ効果があるか、同じ「お金を使えない」でも、「貯める」ではなく「取られる」ことを考えるとよく分かります。
日本では、税金や社会保険料を取るために源泉徴収制度が設けられており、これが非常にうまく機能しています。「うまい」というのは、収める手間暇がかからないこともそうですが、負担が増えても気づかれにくいという点で、徴収する側にとって便利な制度です。
厚生年金の保険料率は、2004年度は13.93%でしたが、毎年少しずつ保険料率が上がり、2017年度には18.3%になりました。その差は実に4%以上。貯めるか使うかを考える前の段階で4%以上も手取りが減っているのに、当時の記事やニュースを検索しても、消費税増税ほどの騒ぎは確認できません。
それだけ、使えるお金が自動的に減っていっても、意外に抵抗感は少ないものなのです。
2004年度に13.93%だった厚生年金保険料率は13年間で約4%増に。給与天引きだとスルーしがちだが、実は毎月、少なくない金額が引かれている。
(出所)日本年金機構「厚生年金保険料率表」をもとに筆者作成。
サブスクは貯蓄の大敵
「お金が自動的に減ってしまう仕組み」に関連して、もうひとつ注意したいのが「自動引き落とし」。その代表格は、近年広がっているサブスクリプション(サブスク、定額課金)サービスです。
サブスクの中には「年額契約にすると月額よりも○割お得」などと謳った料金体系を提示しているものもあり、一見お得に見えます。しかし、運営する企業側の視点で見れば、けっして損をしない仕組みになっているのです。
例えばスポーツジム、フィットネスクラブなどの実店舗型サブスクはどうでしょうか。もし月額会員の利用率が高ければ、いつ行っても店舗が混雑していて、利用者から苦情が出るはずです。でも実際にはそういったケースはほとんど聞きません。
つまり、実店舗型サブスクの多くは「月額で契約したものの、ほとんど利用しないまま」という利用者が多くいることを前提としたビジネスモデルなのです。会員になる段階では、自分の利用率を高めに見積もる楽観的な人が多いことをうまく衝いたビジネスと言えます。
ほかにも、新聞・雑誌・映画などのデジタルコンテンツや音楽、食品宅配、洋服や高級バッグのレンタルなど、実店舗型でないタイプのサブスクも近年広がりを見せています。「月額いくら」で一度契約してしまえば、欲しい商品、使いたいサービスがいつでも利用できるのはたいへん便利です。
しかし「買い物の支払いが簡単」ということは「貯蓄にとっての大敵」とイコールであることをお忘れなく。サブスクの怖いところは支払いが自動引き落としであることが多く、支出の痛みを感じにくい点です。
逆に運営企業側にしてみれば、「解約する手間が面倒だから」「長期契約にすればお得だから」と、だらだらと継続利用してくれるユーザーから定期的に収益を上げられるのですから、多少割引をしても実入りは十分なわけです。
そんな企業側の策略にかからないためにも、サブスクを利用するときには注意が必要です。まずはざっくり何年ぐらい利用しそうかを考え、その金額に見合うかどうかで判断したほうがよいでしょう。
例えば、毎月1000円の支出でも、5年間利用すれば6万円になります。かかる金額を計算してみて躊躇するようなら、目先の支払いの少なさに誤魔化されているだけかもしれません。
毎月カツカツで貯蓄に回せない時は?
現金払いはクレジット払いよりも「支払いの痛み」が大きい。キャッシュレスの利便性をあきらめ、あえて痛みを伴う生活に戻すという手も。
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先ほど、「確実に貯蓄を殖やすなら給与天引きで」とお話ししました。でもこれは、天引きで貯蓄に回せるだけの収入があるということが大前提。そもそも「天引きして貯蓄に回すほど毎月の給料がない」という場合は、どうすればよいのでしょうか。
そんな時は、まずは固定費を見直してください。なぜ固定費かというと、一度見直してしまえば、費用を削減した効果がずっと続くからです。サブスクや保険、スマホの料金プランなど、意外に固定費の支出が多いことに気づくかもしれません。
それでも「どうしてもお金を貯められない」という方は、一度、現金中心の生活に変えてみてはどうでしょうか。
アナログと思われるかもしれませんが、現金よりもクレジットカードのほうが支出の痛みが少ない、という研究もがあります(興味がある方は『季刊 個人金融 2018年冬号』の「支払い手段によって支払いの痛みは異なるか?」をご参照ください)。
ネットでの買い物の際も、購入ボタンをクリックする前に「これをわざわざATMでお金を下ろしてまで買うかな?」と考えたり、欲しいものリストなどにいったん入れて、本当に欲しいのであれば、翌日に買うか判断したりと、買い物の手軽さに気を付けるだけで節約できるかもしれません。
どうやってお金を貯めるかは、心理的な側面が強いもの。自分にとっての向き不向きを見極めて、無理なく少しずつ始めて、小さくてもよいので達成感を積み重ねてください。
※本連載の第3回は、2020年1月14日(月)の更新を予定しています。
(デザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
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