「あえて、制約あり人材採用」増加中、“フルタイム求人“しない理由とは

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GettyImage/ d3sign

noteを運営するピースオブケイクは、子育てや介護など「時間に制約のある人歓迎採用」を始める。短時間でも責任と裁量のある仕事を任せ、時間ではなく成果で評価する体制を用意するという。同社の理由は「優秀な人をあらゆる手段をつくして採用したいという気持ちから」。さらに「結果的に社会にも問題提起することができる」と、あえての“制約あり人材歓迎採用”に踏み切ったという。

従来、乳幼児を中心に子育て中の女性は「休みがち」「フルタイムで働けないのでは」など採用市場で敬遠されがちだ。しかしここにきて、子育て中など短時間勤務を希望する人材をあえて採用する企業は、徐々にだが、増えつつある。背景には、空前の人手不足の中、能力があっても「フルタイム」「残業あり」といった条件で、優秀な人材が足切りされている現状が見えてきたことがある。

短時間でも責任と裁量のある仕事をしたい人求む

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ピースオブケイクは月間2000万アクティブユーザーを抱える、クリエイターのためのプラットフォーム「note」の運営会社だ。

出典:ピースオブケイク

ピースオブケイクは「週4日以上、1日6時間程度勤務可能」だけを条件に、まずはコーポレート職(人事、労務、総務、経理、経営企画、内部監査、カスタマーサポート、コーポレートIT)で、正社員(時短可)を募集する。状況の変化や希望に応じて、フルタイム(週5日、1日8時間勤務)への切替も可能という。

「徹底的にIT化されている会社で、融通も効く風土があるためです。今までもいい人であれば時間も働き方も柔軟に対応してきました」

ピースオブケイクの創業者でCEOの加藤貞顕さんは言う。ただし、募集段階から「短時間勤務」とした意図はこうだ。

ピースオブケイクCEOの加藤貞顕さん

ピースオブケイクCEOの加藤貞顕さん。

撮影:伊藤有

「(働き方の)交渉に進む前の段階で、募集要項を見ただけで力のある人が自分であきらめてしまうことがあったのではないかと仮定しています。 会社側の制約や保育園の問題で、力のあるひとのキャリアが止まって働けないのは、あまりにももったいない

ピースオブケイクは、週に1回出社のCXO(チーフ・エクスピリエンス・オフィサー)や、週2回出社の正社員もすでにいる。マネージャー職や責任者も子育て中の女性がおり、時間に制約ある働き方自体は、同社にとって目新しいことではない。それでもあえて採用募集の段階から「時間に制約のある人歓迎」を明言していくことで、優秀な人材にもっと可能性を開きたいとの思いがあるという。

シングルマザー優先採用とその成果は

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子どもといる時間を長くしたいと望みながらも、もっと働きたい人にとって、在宅ワークは希望だ(写真はイメージです)。

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「18歳以下扶養中シングルマザー歓迎、教員免許取得支援金ありのリモートワーク制度始めます」

そんな採用で2019年2月に注目を集めたのは、学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校(N高)だ。

教員の1割をリモートワークにすると共に、担任補助業務をリモートワーカーに任せることにした。この補助業務の採用を「18歳以下の子どもをもつシングルマザー優先にする」と明言。出勤することが難しい人にも、働く場所を提供する狙いがあったという。

同法人広報担当者によると、この募集で2019年度は11人を採用。北は青森県から西は滋賀県まで、介護中の人および2歳から小学4年生までの子どもを育てるシングルマザーが全国各地でリモートワーク中という。出社は一切ない。

「子どもと過ごす時間を増やしたいけれど、パートタイムだと収入が限られてしまう」そうした悩みをもつ親にとって、リモートワークは一つの解と言える。

「社会貢献的な意味合いももちろんありますが、むしろ子育て中など時間に制約のある人だからこそ、いかに効率よく仕事をするかを追求するため成果が上がっている面もすごくある。リーダー的な人が、業務効率を上げる方法をチームでシェアしてレベルを上げています」(広報担当者)

フルタイム勤務での求人が失うものとは

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女性の労働力率(15歳以上人口に占める働く人の割合)は、かつて描いていたM字が平成30年には解消されている。

出典:総務省「労働力調査」

出産や育児を理由に女性が離職し、育児期に女性の労働力率が下がる「M字カーブ」と呼ばれる現象は、解消しつつあることが近年、顕著になっている。もともとM字カーブは日本女性の労働力率を年齢別にグラフにすると、30代が凹み「M」字状に見えることから名付けられた。子育て期に離職するパターンの象徴のように言われてきた。

ここ数年は、働きながら子育てする女性が増えたことがM字カーブ解消の背景だが、ただしその「就労」の内訳は、非正規雇用で働く人が多いことも事実だ。

非正規雇用に占める女性の割合は約7割。子育て中の仕事への復帰が、望むと望まざるとに寄らず、パートタイムなど非正規社員になりがちな面は否めなかった。その結果、男女の賃金格差は女性が男性の7割相当という、大きなギャップが埋まらないままだ

子育て女性に特化した転職サイト全て正社員

しかし、ここ数年の変化の一つは、冒頭のピースオブケイクのように裁量ある仕事を任せる動きだ。2019年3月に株式会社ビーボが立ち上げたQOOLキャリアは「子育て女性が活躍している企業」ばかりを集め、産後に転職希望の女性とマッチングしているが、募集は全て正社員だ。

エンジャパンによると2019年の「子育て歓迎求人」は2015年同期比で約3倍になっている。ウェブ系、広告系、人材系の事務職、営業職、エンジニア、デザイナーなど職種も幅広いという。

人口減少により、現代社会は業界、職種を問わない人材不足に見舞われている。「なかなか採用できない」との声は採用市場にあふれているが、「フルタイム勤務」「週5日出勤」を当然のこととして掲げている求人は、無意識のうちに、採用において致命的な足切りをしていないだろうか。再考する時がきている。

(文・滝川麻衣子)

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