BI Daily Newsletter

プロ1年で獲得賞金2億円超え。渋野日向子のしなやかなメンタル作った3つの要素

トロフィーを持つ渋野日向子

ゴルフの全英女子オープンで日本女子として42年ぶり2人目のメジャー優勝を達成。「しぶこ/スマイルシンデレラ」は流行語にも。

REUTERS / Peter Cziborra

2019年のスポーツ界を席巻、と言えばラグビー日本代表とこの人、渋野日向子(21、RSK山陽放送)だろう。

ゴルフの全英女子オープンで日本女子として42年ぶり2人目のメジャー優勝を達成。女子ツアーの今季最終戦「LPGAツアー選手権リコーカップ」で2位に留まり、最年少賞金女王にあと一歩届かなかったものの、全英優勝賞金の約7200万円を含めば、獲得賞金は2億円を超える。

出場する大会の中継は平均視聴率13.6%と今シーズン最高をマーク。リコーカップで16.1%の瞬間最高を記録したのは渋野が18番でバーディを決めた瞬間だ。

流行語大賞に「しぶこ/スマイルシンデレラ」がエントリーされるなど、しぶこフィーバーを巻き起こした。

ボギー直後の立ち直り率が断トツトップ

思えば渋野が2度目の挑戦でプロテストに合格し、都内で新人研修セミナーを受けたのはまだたった1年前、2018年のちょうど今頃だ。わずか1年でスターダムを駆け上がったのだから、相当強靭なメンタルを持っているのではないか。

そんな思いから、沖縄大学人文学部准教授でスポーツ心理学が専門という異色のプロゴルファー、かつてフジサンケイクラシックを制したこともある石原端子(まさこ)さん(53)に渋野のメンタルの特徴を聞いてみた。外からはうかがい知れない、元選手ならではの分析が興味深い。

「ゴルフはメンタルのスポーツと言われます。渋野さんを見ている限り、心が強いというよりは“しなやか”な印象を受けました。例えば、シーズン終盤で4歳年上の鈴木愛さんと同組で回る場面がありましたが、まったくへりくだっていなかった。

私も経験がありますが、(年齢が)上の人と回ると、どうしても謙虚になり過ぎて自分のリズムを失ってしまう。ところが、彼女はいつもとまったく変わらない態度でした」

心の強さは、数字にも表れている。ボギー以下を叩いた直後のホールをバーディ以上であがる確率を示す「バウンスバック率」が26%超。国内ツアー参加選手のなかでは断トツのトップだ。

このことから、失敗にめげずに立ち向かう渋野を「強気」「攻め気」と力んだ表現でくくりがちだが、石原さんによるとミスを挽回するマインドセットは少し異なるようだ。

ミスを受け入れる許容量の大きさ

ゴルフボール

メンタルの要素が非常に大きいゴルフ。渋野はミスの後も気持ちを切り替えがうまいと言われている。

Getty / DSCimage

「ゴルフはミスがそのままスコアに現れ、勝敗が決まります。でも、ゴルファーは他人が気づかない、自分にしかわからないミスをほかにもいろんなところでしています。そのことに向き合えるか否かで、失敗した後のプレーは大きく違ってくるのです。

その意味で、渋野さんはミスの許容量がすごく大きいのだと思います。他の人なら『ああ、もう嫌だ』と試合を投げてしまいそうなミスでも、彼女は気持ちを切り替えます」

つまり、自分にとってネガティブなことを受け入れるコップが大きいのだ。21歳のルーキーに、なぜそんなことができるのか。

鍵を握るのが、渋野のスポーツ歴だろう。小さいときからゴルフ同様親しんだのはソフトボール。ピッチャーだった。ゴルフのような個人競技ではなく集団競技のソフトボールは、他人のせいで負けてしまうことだってある。だが、チームの一員として他者のミスさえも受け入れなくてはいけない。「ドンマイ」と声をかけ、「次は頑張ろう」と励ます。そんな経験を積んでいるはずだ。

「ソフトボールでの経験が生きているのか、自分で自分を励ましているのかもしれない。何より本番に臨む心の準備をかなりしていると感じます。

例えば、私たちゴルファーは前日、自分が翌日コースに出たときの様子をシミュレーションします。コース、天気、風、気温の情報はもちろんのこと、一緒に回る人はプレーが遅いのか、サッサと打っていく人なのか。そんなことも頭に入れる。どうしたら自分が一番気持ちよくプレーできるか、そのシミュレーションをしていると思います」

切磋琢磨できる「黄金世代」の存在

渋野日向子と畑岡奈紗

畑岡奈紗(右)とハグする渋野(左)。畑岡だけでなく、勝みなみ、原英莉花など、渋野は同世代のライバルたちにも恵まれている。

Getty / Atsushi Tomura

イメージトレーニングのためにも、ゴルファーは観察眼を磨いている。特に渋野は、観察できるライバルたちに恵まれた。世に言う「黄金世代」。渋野と同じ1998年度生まれの畑岡奈紗、勝みなみ、原英莉花など、そうそうたるメンバーが名を連ねる。

「渋野さんのここまでの成功に、同級生たちの存在は大きいと思います。ゴルファーは『あの人、ああいうふうにしているんだ』と、技術を盗みます。飛ばす人がいれば、『どのクラブを使っているんだろう?』と気にします。『よく飛ぶねえ。何使ってるの?』と直接聞くこともある。自分で情報を取りにいきます。道具だけでなく、練習方法などもみんな見ている。影響し合って成長するわけです」

アスリートの成長にはライバルの存在が欠かせない。誰かと切磋琢磨できる環境は、何にも代えがたい「成長の条件」になるのだ。

「自立させようとする」父親

スイングする渋野日向子

渋野日向子には「スキルだけではない人間としての魅力がある」と石原さんは言う。

REUTERS / Peter Cziborra

加えて、石原さんが渋野の精神安定剤のひとつとして挙げたのが、渋野の父親、悟さん(51)の存在だ。

「女子ゴルフは、お父さんがコーチやマネージャーの役割を果たしている場合が少なくありません。なかには過度に干渉したり、パワーハラスメントのような状況になることもある。親御さんは愛情ゆえに熱くなるのでしょうが、そのことが選手の自立を阻害することもある。

でも、渋野さんのお父さんはほとんど表に出てこない。少しの言葉がけをしたりはあるのでしょうが、自立させようとしている。何らかの哲学がある。そこが非常に好感が持てます」

委縮させられたり、圧迫されることがない。したがって、ありのままの自分を受け止められる。ミスをした自分とも向き合えるのかもしれない。

「彼女はプロゴルファーとしてというよりも、人としてどう生きるかを意識している感じがします。ゴルファーとしての自分を意識する人も多い中、彼女はそう見えない。

今まで日本にいなかった新しいタイプのゴルファーです。スキルだけではない人間としての魅力がある。そこがファンを引き付けるのでしょう。

そもそも、プロは生き方を見せる人でもあります。なのでぜひ、今の空気感をもち続けてほしいと思います。

(文、島沢優子)

島沢優子:フリーライター。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。週刊誌やネットニュースで、スポーツ、教育関係をフィールドに執筆。『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『部活があぶない』など著書多数。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

あわせて読みたい

新着記事

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み