【更新freee上場】買い注文殺到で時価総額1200億円超え、中小企業の生産性革命へ前進

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クラウド会計ソフトfreeeのCEO佐々木大輔さん。創業から7年。2019年12月17日、東証マザーズに上場した。

撮影:今村拓馬

クラウド会計ソフトのfreeeは12月17日、東証マザーズに上場した。上場時の公開価格2000円に対し、買い注文が殺到。初値は大きく上回る2500円をつけた。株価は12時30分現在、2600円台で推移している。時価総額は当初の予想を大きく上回り、1200億円超となっている。

創業から7年以上を経て、クラウド会計ソフトのようなインターネット上でサービスを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)が日本でも盛り上がりを見せる中、満を持しての上場だ。

「スモールビジネスを、世界の主役に。」を掲げ、クラウド化の遅れる日本のバックオフィスの生産性向上で、着実に歩を進めてきたfreee。その現在地とこれからを、佐々木大輔CEOに聞いた。

日本企業の99.7%に当たる中小企業に革命を

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石川県金沢市内の料亭で開かれた、芸子さん向けの確定申告勉強会。freeeの使い方を税理士が紹介している。

提供:freee

「経費として大きいのはやっぱり稽古費」「大きな出費は着物、カツラ、お座敷で使う楽器」

石川県金沢市の料亭で、freeeが実施した芸妓さんを対象にした税理士を交えた確定申告勉強会では、芸妓さんならではの事情が飛び交う。「電卓カタカタしなくても自動推測で入力してくれるのは便利!」など、芸妓さんからはfreeeの使い勝手への感想も。

こうした勉強会はサービス普及に向けた地道な取り組みであると同時に、「ユーザーのことをもっと知ろう」とユースケースを集める目的がある。

芸妓さんにとどまらず、北海道札幌市内のスナックのママや沖縄県内の中小企業向けの勉強会に、地銀と連携した中小企業経営者向けの個別相談会 ——。freeeがこの数年の間に仕掛けてきた導入支援は、全国津々浦々に広がっている。その先にあるのは、単なる会計ソフトのクラウド化ではない。

「業務全体を効率化する、生産性を上げるといった、これまで会計ソフトで焦点の当たっていなかった価値を提供すること。それが市場を変えた」(佐々木CEO)

つまり、freeeが取り組んできたのは、日本の企業数の99.7%を占める中小企業の生産性革命だ。

収益性の道筋は見えている

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「大企業が強い偉い」と思考停止的に思っている社会で、小さいビジネスの方が強いという逆転現象を作れる。

「やっぱりテクノロジーは中小企業にとってこそ大きな意味があるし、大企業が強い偉いと思考停止的に思っている社会で、小さいビジネスの方が強いよねという逆転現象が作れるなと思っています

スタートアップやベンチャー企業が集積する東京・五反田のfreee本社で、佐々木氏はfreeeの拓く可能性についてそう話す。2012年創業時は佐々木氏ら8人だったfreeeも、現在は社員約400人。2019年中でも70人超を増やし、入居するビル内でのフロアを広げている。

そんな中で迎えた上場を佐々木氏はこう表す。

「パブリックカンパニーとしてしっかりガバナンスを効かせながら経営をしていく、信頼を勝ち取っていく時期が来たということです」

freee

freeeが作成した目論見書。上場までの手続きは自社製品のfreeeで、1日の遅れもなく実行。「異例」と言われる。

有価証券報告書によると、freeeの2019年6月期の売上高は前年比1.9倍の約45億8000万円と順調な増加を見せる一方で、最終損失は26億9000万円という赤字決算での上場を迎えた。

これについて佐々木氏はSaaSのビジネスモデルを引きながら、説明する。

「現状足元は赤字だが、(freeeは)サブスクリプションサービスなので、お客様が満足している限りは毎月利用料をいただける。最初に顧客獲得にマーケティングや営業にコストをかけたとしても、その後利用料が積み上がって行けば、時間をかけて回収できる」

インターネット上でサービスを提供するSasSビジネスでは、月額の利用料を支払うサブスクサービスが一般的だ。ここでは「使い続けてもらえるかどうか」が初期コスト回収のカギとなる。

「結局、今まで7年経営してきた中で、ユーザーがどれほど使い続けてくれて、1人あたりどれほどの収益が上がるのかが、しっかり見えてきている」

収益性の道筋が見えた上での「赤字上場」だと佐々木氏は言う。

2019年は日本でもSaaS企業の成長ぶりが目覚ましい1年で、Sansan、Chatwork、カオナビなど上場が相次いだ。

SaaSへの投資は活発化し、足元が赤字であったとしても、中長期的な価値を生み出すビジネスへの「成長投資」は実際、追い風を生んでいる。

遅れる日本のクラウド化に追い風

Smartphone

クラウド会計の普及には、スマホの浸透や人口減少、働き方改革で残業を減らさなくてはという流れが、追い風になっている。

提供:freee

「この数年間で言うと、中堅企業や成長企業で使われるようになってきたのがすごく大きい。ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けているような企業だと4割くらいはもう、freeeを使っている感触だ」(佐々木氏)

当初、フリーランスで働く人など個人事業主が「確定申告をクラウド上で簡単にできる」との触れ込みで広まったfreeeだが、ユーザーを法人、しかも中堅どころや成長企業にも拡大したことは、普及を押し広げた。

今回の自社の上場も、自社サービスのfreeeを使って「1日の遅れもなく」実現している。上場や経営に強いサービスであることは、中長期のユーザーを呼び込む。

とはいえ、全国420万事業所の中で、日本におけるクラウド会計の浸透率はまだ15%程度。普及に弾みがついてきたとはいえ、前途半ばにあるのも事実だ。オーストラリアやニュージーランドなど6割程度の国もあることを思うと立ち遅れている。

ただし、クラウド化の普及に機は熟している。

「スマホの浸透や人口減少、働き方改革で残業を減らさなくてはという流れが、追い風になっています。特に中小企業で人手の確保は難しい。単純作業はソフトウエアに置き換えていかないと、人を引き付けられないという必然性が高まっている」

地方の閉塞感に新たな風吹き込む

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きらぼし銀行も中小企業への業務改善コンサルでfreeeと業務提携。写真はfreeeでインターンとして働くきらぼし銀行員。

提供:freee

「2週間のインターン期間中に紙を使う機会が1回だけでした」

鳥取銀行ふるさと振興本部の、齋藤浩文さん(37)は、freeeでのインターン期間で印象的だったことを振り返る。齋藤さんはfreeeをはじめとするクラウドサービスを使い、法人取引先のバックオフィスの業務改善コンサルを提供している。

鳥取銀行はfreeeと2016年7月に業務提携。相互に情報のやりとりができるAPI連携もしている。freee本社でのインターンもこうした業務提携の一環だ。一連の連携は、銀行として顧客の働き方の改善や経営状況の透明化をもたらしたことに加え、齋藤さんにとっても仕事のあり方を変えたという。

「商品や融資を売るというスタンスから、顧客の課題を見つけて、その打ち手を共に考えるというスタンスを大切にするようになりました」

人口減少が加速すると共に、取り組みの遅れてきたフィンテックの流れが強まる中で、閉塞感に覆われがちな地銀に新たな風を吹き込んでいるのだ。

大企業中心主義を脱した社会こそ健全だ

freee

テクノロジーが拓く、大企業も個人も等価にある「健全な社会」とは。

freeeはこれまでに31の金融機関と戦略的業務提携を結び、271の金融機関とAPI連携を進めてきた。

「地方は変わってきています。石川県や広島県のように地銀がものすごくクラウド化を(対顧客に)プッシュしている事例もありますし、地方の若手の税理士がfreeeと連携したコミュニティを作る動きも広がっている」

佐々木氏が見据えるのは、大企業中心主義的に作られてきた従来の社会に対し、地方や中小企業がこの先、経済の根幹になる社会だ。

「大企業の力がないとベンチャーが育たないのかと言うと、そんなわけはない。むしろ小さいビジネスの方が強くて、色んなイノベーションを背負っているし、いろいろな価値観を広げる存在でもある。大企業中心主義を脱して、中小企業や地方が強くあるというのは世の中全体としても重要です」

freeeがこれから目指す先は「アイデアやパッションや、スキルがあれば誰でも、 ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」(佐々木氏)。すでに業務改善や事業成長につながるサービスと連携をはじめ、ビジネス育成のプラットフォーム基盤にfreeeを育てつつある。

会社で働くのか自分でビジネスをやるのか。そこが常に比較されていて、企業ももっといい会社にならなければ、働く人を惹き付けられない。それが健全な社会であり、テクノロジーでもっともっと加速させることができると思っています。それをfreeeは支援していきたいのです」

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)

※編集部より:株式公開後に一部加筆して、差し替えました。2019年12月17日12:40

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