2010年代の地球温暖化が、いかに北極圏を破壊したのか。
REUTERS/Thomas Peter
- アメリカ海洋大気局(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)の年次報告書「北極圏報告カード(Arctic Report Card)」が、北極圏の変化について言及している。
- 報告書によると、地球規模の海面上昇が、予測の最悪のケースへの道を辿っている。
- 気候変動による海水温の上昇と氷の融解は、海面を上昇させ、沿海部で洪水が起こる原因となる。
- 2019年は史上2番目ないし3番目に暖かい年となる見込みだが、過去10年の平均気温は、観測史上最も高くなる勢いだ。
- 過去10年間、北極では毎年平均2520億トンの氷が溶けた。グリーンランドでは、毎年平均2800億トンで、これは1990年代の7倍の量だ。
- グリーンランドと北極の氷床を合わせると、地球上の真水の99%以上を占める。
- 2019年には、世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)が「前代未聞」と言うほどの山火事、洪水、食料不足(人間も野生生物も)が起こった。
- 氷が薄くなっているせいでホッキョクグマが、餌を探すのに苦労している一方、トナカイの餌は降雪の早まりと冷たい雨のせいで、氷の下に閉じ込められている。
- 過去10年の地球温暖化がいかに北極圏を破壊してきたか見てみよう。
2012年、有史以来初めて、ほぼすべてのグリーンランド氷床が融解の危機にさらされた
グリーンランドのイルリサット・フィヨルド(Ilulissat Fjord)。ヤコブスハブン氷河(Jakobshavn Isbræ)から海へと氷が流れ出す。
Ian Joughin, Univ. of Washington
融解の速度は2019年7月、国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)での悲観的なシナリオで2070年と予測していたレベルに到達した
グリーンランド、クルスック(Kulusuk)近くを漂う氷山。
Associated Press
2019年7月は観測史上最も暑い月で、わずか5日で550億トンの水が海に解け出した
2019年9月18日の北極海。海氷が一年で最も少なくなった。
NSIDC / NASA Earth Observatory
グリーンランドと北極の氷床を合わせると、地球上の真水の99%以上を占める
海に浮かぶ小さな氷。2019年6月13日、グリーンランド、ヌーク沿岸。
Sandy Virgo/Associated Press
グリーンランドでは、過去10年間に毎年平均2800億トンの氷が溶けた
グリーンランド北西部の氷床。表面に融解した水がたまっている。2019年7月。
NASA via Associated Press
1990年代の融解と比べると7倍になった
グリーンランド氷床が溶けてできた水路。溶けた氷を水たまりから氷河甌穴(おうけつ)へと運ぶ。
Ian Joughin, University of Washington
グリーンランドの氷の消失は2011年にピークを迎え、3690億トンの氷が、氷床から剥がれ落ちた。これは1990年代の年間平均融解速度の10倍だ
氷河から流れ出た氷山は、グリーンランド南西部にある、モーエンス・ハイネセン・フィヨルド(Mogens Heinesen Fjord)の海へ。
Benoit Lecavalier
北極圏の温暖化は、地球上の他の地域の2倍の速度で進んでいる。このことが、北極圏の動物たちに壊滅的な影響をもたらしている。特に食料に関しては深刻だ
アラスカ北東部にある北極圏国立野生生物保護区の海岸平野を移動するカリブー。
Associated Press
例えば、北極圏にいるトナカイは通常、冬になると雪の下の地面を掘って、地衣類や草などの食料を探す
給餌を待つトナカイ。2014年12月14日、スコットランド。
Jeff J Mitchell/Getty Images
だが2019年、スウェーデンの北極圏では異常に早い降雪とその後の冷たい雨で、トナカイの食べる植物が氷の下に閉じ込められてしまった
囲いに入れられるトナカイ。スウェーデン。
Associated Press
出典:Boston Globe
その結果、何百頭というトナカイが命を落としている。2018年の冬は、200頭以上が餓死した
トナカイの死骸。ノルウェーのツンドラで。
Arterra/Universal Images Group/Getty Images
ホッキョクグマは水中で狩りをすることもあるが、北極圏で長時間泳ぐことは、エネルギーの消耗と体温低下につながる。そのため、氷上で休む必要がある
サンマの入った氷を食べるホッキョクグマ。
Lee Jae Won/Reuters
氷が薄くなっていると、ホッキョクグマは遠くまで食料を探しに行くことが難しくなる
氷山から飛び込むホッキョクグマ。
Courtesy of Lt. Samuel Brinson
…食料を探して、町に迷い込む
食料を求めさまようホキョクグマ。ロシア、ノリリスク。住民たちによるとクマは「活発に動くことはなかった」。
IRINA YARINSKAYA / Getty Images
残留性有機汚染物質(POPs:Persistent organic pollutants)は、プラスチック製品、農薬、殺虫剤、といった市販品に広く使われている。分解に時間がかかるため、長い距離を越えて運ばれ、最終的に北極圏にたどり着くことが多い
捨てられたペットボトルなどのごみ。西アフリカ。
Luc Gnago/Reuters
ジ・アトランティック(The Atlantic)誌によると、北極海は、北半球におけるプラスチックごみの「終点」で、POPsがホッキョクグマの母乳を汚染し、子グマの体内に毒性汚染物質をもたらすことも多い
NOAA photo library
出典:The Atlantic
これはアラスカ先住民にとっても脅威となる。彼らの狩りもまた、氷が頼りだからだ。氷が薄くなるにつれ、ハンターたちは冬を越すためのアザラシ、セイウチ、さまざまな魚を取るのに苦労している
ツンドラの永久凍土融解と海氷減少によって引き起こされた、気候変動による浸食の脅威にさらされる場所。
Mark Ralston/Getty Images
出典:Vice
人里離れたアラスカの村に住む人々も、海面上昇による洪水や浸食に直面している
気候変動の影響で溶けた氷の上で遊ぶ子どもたち。2019年4月18日、アラスカ、ユーコン・デルタ国立野生生物保護区内。
Mark Ralston/Getty Images
出典:Vice
かつては互いを繋げていた氷の道が溶け、村々は孤立化していっている
アラスカ州キバリーナ。ラグーンとチュクチ海(Chukchi Sea)に挟まれた8マイル(約13キロメートル)のバリアリーフの端にある。2019年9月10日。
Joe Raedle/Getty Images
出典:Vice
氷を溶かしているのは、上昇している気温だけではない。山火事もそうだ。オハイオ州立大学の研究は、北極で起きた山火事の煙と煤が、2012年のグリーランドの氷の融解を進めた可能性を示唆している
アラスカのすぐ東、カナダのノースウエスト準州でのツンドラの火事。2014年。
Peter Griffith/NASA
北極圏で夏に山火事が起こることは知られているが、2019年の火事は長引き、それまでと比べて激しかった。世界気象機関(WMO)は、北極圏内で2019年夏に起こった火事、100件以上を調査した
ボーガス川(Bogus Creek)から立ち上る煙。アラスカ南西部にある、ユーコン・デルタ国立野生動物保護区で起きた2つの火事の1つ。2015年6月。
Matt Snyder/Alaska Division of Forestry via AP
地中海から北極までの尋常でない暑さと乾燥状態が、山火事にとって好都合な条件を生み出した、とWMOは報告した
ツンドラに横たわるカリブーの頭蓋骨。アラスカ州アナクトブック・パス(Anaktuvuk Pass)の村近く。
AP Photo/Al Grillo
このまま北極圏の氷の急速な融解が続けば、沿岸部では2100年までに、4億人が洪水の危険にさらされる
2015年夏の北極海の氷の最小範囲は、1981~2010年の平均(金色の線)を69万9000平方マイル(約180万平方メートル)下回った。NASAが衛星データを分析し、2015年9月14日に発表。
NASA via Reuters
[原文:29 photos show how climate change has ravaged the Arctic in the past decade]
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)