北朝鮮「年明けにICBM発射実験」は既定路線か。“重大な実験”連発、年末から年明けの動きを予測

金正恩 白頭山

2019年12月、北朝鮮の聖地とされる白頭山(Mount Paektu)に登った金正恩委員長。直後の7日に第1回目の「重大な実験」を行った。

North Korea's Central News Agency (KCNA) via REUTERS

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は12月14日、「2019年12月13日の22時41分から48分まで、西海衛星発射場では重大な実験がまたもや行われた」と報じた。

北朝鮮は1週間前の12月7日にも、同じ場所で「重大実験」が行われたと発表しており、今回が2回目となる。

前回の実験については、衛星写真の分析から、施設の一部に燃焼実験の痕跡が認められた。おそらく液体燃料ロケットエンジンの燃焼実験が行われたものと推測される。

「重大実験」ということは、2017年に開発した火星12/14/15といったミサイルに搭載されている、既存の液体燃料ロケットエンジンとは異なる、改良型もしくは新型のものということなのだろう。

北朝鮮側は今回の実験が7分間に及んだことを明らかにしており、ロケットエンジンの噴射実験としてはかなり長時間にわたるものと言えるが、詳細は不明だ。

「もう一つの戦略兵器の開発に適用」

北朝鮮 弾道ミサイル

防衛省が2019年11月に公表した分析報告「北朝鮮が保有・開発してきた弾道ミサイル」。

出典:防衛省・自衛隊「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について」

12月14日の発表には、さらに注目される表現が含まれていた。

「最近、われわれが次々と収めている国防科学の研究成果は、朝鮮民主主義人民共和国の頼もしい戦略的核戦争抑止力をよりいっそう強化することに適用されるであろう」

実験は核ミサイルのためのもの、ということになる。アメリカを刺激しないように表向き「衛星打ち上げ」の形をとるような、まだるっこいことはしないというわけだ。

朝鮮中央通信は同日、朝鮮人民軍の朴正天総参謀長の談話も報じている。

「最近行った国防科学研究実験の貴重な資料と経験、そして新しい技術は、アメリカの核の脅威を確実にけん制・制圧するための、朝鮮民主主義人民共和国のもう一つの戦略兵器の開発にそのまま適用されるだろう」

アメリカを攻撃できる新たな核ミサイルのための実験であることを明らかにしたと言っていい。

北朝鮮が行動を正当化するための「布石」に注目

金正恩 野菜 見学

冒頭写真にある白頭山に登った同日(12月4日)、北朝鮮北部エリアにあるビニルハウスを視察した金正恩委員長。

North Korea's Central News Agency (KCNA) via REUTERS

では、なぜこうした言い方をするのか?

北朝鮮の声明には、それを発する理由がある。それは、前回寄稿でも指摘したことだが、自分たちの行動を正当化するための布石とすることだ。

前述した朴正天総参謀長の談話はこう続く。

「パワーバランスが徹底的に保障されてこそ、真の平和を守り、われわれの発展と将来を保障することができる」

「われわれは、敵対勢力の政治的挑発と軍事的挑発にすべて備えられるように準備されていなければならず、対話にも、対決にも不慣れではならない」

敵対勢力、つまりアメリカの政治的・軍事的挑発に備える必要があるということだ。

同談話にはまだ続きがある。

「先鋭的な対決状況のなかで、アメリカをはじめとする敵対勢力はわれわれを刺激するいかなる言行も謹んでこそ、年末を安らかに送ることができるであろう」

この文言は、敵対的な言動を自制するようアメリカに警告すると同時に、アメリカの敵対的言動を口実として、自分たちが次なる行動に出ることを正当化する布石にもなっている。

アメリカが態度を改めないなら、自分たちは次なる行動に出るが、それは「あくまでアメリカのせい」だという理屈だ。

談話の冒頭で、自分たちが開発したのはアメリカを攻撃できる新型の核ミサイルに使う技術だと明言したのは、「次なる行動」が新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験となることを強く示唆したことになる。

くり返される「ICBM実験」への布石

北朝鮮 ミサイル 実験

北朝鮮が飛翔体を発射したことを速報する韓国のテレビ。

REUTERS/Kim Hong-Ji

もっとも、ICBM実験への布石はそれ以前から打たれている。例えば、12月12日の朝鮮中央通信は、北朝鮮外務省報道官の次のような談話を報じた。

「年末の時限が刻々と近づくなか、アメリカがわれわれに対する挑発の水位を高め続けている。12月10日、ポンペオ米国務長官が国連制裁決議を徹底的に履行すべきだと言いふらしたのに続いて、翌11日にアメリカは国連安保理の公開会議なるものを開き、われわれの自衛的な武装近代化措置に言いがかりをつける敵対的挑発行為をまたもや強行した」

「いまのように鋭敏なときに、アメリカが国連安保理の公開会議を主導して、圧迫する雰囲気を鼓吹したことを、われわれは絶対に黙過しないだろう」

「自分たちは時にかまわずICBMを打ち上げてもよいのに、われわれはどの国も行っている兵器実験をしてはならないという主張こそ、われわれを完全に武装解除させようとする、アメリカの白昼強盗さながらの本性を赤裸々に示すものである」

やはり、すべて悪いのはアメリカという理屈だ。

北朝鮮のこうした言動を、アメリカに対する「挑発」や「けん制」とみるのは間違っている。

例えば、「挑発」は相手を扇動して行動をけしかけることだが、北朝鮮は当然、アメリカに強硬な態度には出てほしくない。北朝鮮はあくまでアメリカに「警告」する形をとりたいだけだ。

また、「けん制」とは相手を思いとどまらせるための行為を意味するが、実際にそれでアメリカが手加減したりすることはあり得ないので、けん制としては何の意味もない。まったく効果がないことを北朝鮮が期待するはずもない。

こうした言動のほとんども、やはり次の行動を正当化するための布石だ。北朝鮮はこれまで核ミサイルの開発を進める上で、国際社会で孤立しないように非常に緻密な自己正当化の理論武装をしてきた。おそらく今後もそうだろう。

北朝鮮が「年末まで」アメリカを待つ理由

北朝鮮 金正恩 トランプ大統領

2019年6月30日、米大統領として初めて南北軍事境界線を越えて北朝鮮の金正恩委員長と握手したトランプ氏。このとき、金委員長の頭の中にはすでに「年明けICBM発射」があったのか。

REUTERS/Kevin Lamarque

そう考えると、2019年の北朝鮮の行動はきわめてわかりやすい。

まず、非核化せずにアメリカから制裁解除を引き出そうとしたが、2月のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂し、断念した。その後、北朝鮮は「段階的、相互主義的な交渉」という約束を守らないのはアメリカ側だとして、自分たちからこれ以上の妥協を示すことは一切拒否する姿勢を明確にした。

そして4月には、金正恩委員長自身が最高人民会議での施政演説で「年末までは忍耐心を持ってアメリカの勇断を待つ」と言及し、交渉の期限を切った。

「年末まで」と期限を切った理由は不明だが、仮に新型ICBMの開発が2020年の年明けあたりまでかかる見込みがあったということなら、説明はつく。

北朝鮮はこうして交渉期限を切った上で、翌5月に短距離ミサイルの発射実験を始めている。新型ICBMの発射を年明けに設定したため、当時「やらない」と宣言していた(※)中長距離より射程の短いミサイルについては、年内に発射実験を重ねておこうというわけだ。北朝鮮側の視点に立てば、筋は通っている。

(※2018年4月の朝鮮労働党中央委員会総会で、金正恩委員長は「核戦力の兵器化の完結が検証された」「もはやいかなる核実験や中長距離ミサイルの発射実験も必要なくなった」と宣言していた)

昨今の北朝鮮の言動については、「年末までに期限を切ったが、アメリカが妥協しないので焦っている」との見方もあるが、北朝鮮もまさかアメリカが一方的に譲歩してくるとの甘い期待を持っていたわけではあるまい。金正恩委員長が4月に「年末までは忍耐」発言をした時点で、ここまでの流れはすべて計画されていた可能性が高い。

なお、北朝鮮が「クリスマス・プレゼント」と言及したため(12月3日の外務次官声明)、この年末にもICBM発射の可能性があるとする報道もあるが、北朝鮮は自己正当化のために自分たちの言動は厳格に守るので、「年末まで待つ」と言った以上は、「アメリカのせい」を口実に年内にICBMを発射する可能性は低いだろう。

「年明けにICBM発射」へのロードマップ

北朝鮮 核・ミサイル実験 朝鮮労働党

防衛省が2019年11月に公表した「北朝鮮による核実験・弾道ミサイル発射事案」。

出典:防衛省「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について」

しつこいようだが、北朝鮮は何か行動を起こすときに、自分たちを正当化する布石を事前に打つ。だから、彼らの言動をフォローしていれば、ある程度、行動の予測がつくことが多い。それに比べてわかりづらいのが、トランプ米大統領の行動だ。

北朝鮮が国連安保理決議違反の「弾道ミサイル発射」を強行すれば、本来なら制裁強化や軍事的圧力強化に動くべき局面だが、トランプ大統領は2018年6月にシンガポールでの米朝首脳会談を自身の手腕による外交成果と喧伝しているため、それを否定することになる北朝鮮との関係悪化を認めたがらない。

実際、すでに行われた短距離と準中距離のミサイル発射は不問に付しており、今後、ICBMを発射したとしても、東太平洋まで飛ばさなければ「アメリカへの脅威ではない」と強弁し、見逃す可能性がある。

以上を鑑みて、今後の展開を予測してみる。

  1. 北朝鮮は年末まで「アメリカのせい」を強調して年明けの行動をさらに示唆していくだろう。ただし、金正恩委員長本人が直接的にトランプ大統領を批判することは避ける。対するアメリカは、北朝鮮に行動の自制を警告するものの、本格的な軍事的圧力強化には動かない。
  2. 12月下旬に北朝鮮は予告どおりに党中央委員会総会を開催。前回総会で、金正恩委員長が宣言した「中長距離ミサイルの発射実験はもう必要ない」を無効化する声明を出す。
  3. 新年の辞で金正恩委員長はおそらく「アメリカの約束違反」を強調。自衛に追い込まれたと主張する。
  4. 年明け早いうちに新型か改良型のICBM発射実験に踏み切る。なお、その前に「日本のせい」を口実に、日本近海もしくは日本を飛び越えて太平洋側に着弾する準中距離ミサイルを発射する可能性もある。

その後はトランプ大統領次第だ。米大統領選での失点を恐れて北朝鮮問題をスルーするなら、緊張はかつてほどには高まらないだろう。

そうなれば、北朝鮮はさらに発射実験をくり返すことが予想される。米朝関係がさほど緊張しないかわりに、核ミサイル戦力を一気に強化する北朝鮮の危険性は、いっそう高まる結果になる。


黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。

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