【更新】「男性のひげは不潔、バカにしてる」大阪ひげ裁判から3カ月、市HPが「カスハラ」と物議

職場の身だしなみ問題で昔から議論が尽きないことの1つが「男性のひげ」についてだろう。昭和50年代から裁判で争われており、最近も大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の男性が市を相手に提訴し、注目を集めた。判決から3カ月。ひげについて市がHPに掲載している市民の声をめぐり、新たな事態が起きている。ひげを認めないのは「カスハラ」か?

ひげを剃らずに人事評価が下がる

大阪メトロ

職場の男性のひげ、あなたはどう思いますか。

撮影:竹下郁子

2019年9月6日、大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の男性運転士2人が、ひげを理由に人事評価を下げられたのは不当だとし、市に慰謝料など計440万円の賠償を求めた訴訟で、大阪高裁は市に計44万円の支払いを命じた1審・大阪地裁判決を支持し、市側の控訴を棄却。20日に大阪市は上告しないと発表、判決が確定した。

大阪市交通局(当時)が2012年9月に定めた「職員の身だしなみ基準」は、「髭は伸ばさず綺麗に剃ること」「整えられた髭も不可」と明記。各所属長には「度重なる指導にも関わらず改善が見られない場合は、人事考課への反映も行う」と通達されていた。

男性2人は上司からひげを剃るよう言われたが従わず、2013・2014年度の人事評価の「規律性」や「お客さま志向」の査定では、2年連続で下位5%や5〜15%に。上司からはひげを剃らないことを理由に人事上の処分を示唆するような発言もあった。

ひげを生やす自由は憲法で保障されている?

ひげ

Business Insider Japanのアンケートにも、「ひげを剃ることを強制するのを止めて欲しい」という意見が複数届いている(写真はイメージです)。

GettyImages/metamorworks

これらを受け2016年3月、男性2人は大阪地裁に提訴。運転士の業務は安全かつ確実に車両を運行することで、ひげを剃る必要性が認められないこと。またひげを生やす自由は憲法13条に由来する人格権にあたり、整えられたひげも不可とする身だしなみ基準はその自由を侵害しているため、基準自体が違法だと主張した。地裁、高裁の判決は冒頭の通り。

大阪高裁は、ひげが社会において広く肯定的に受け容れられているとまでは言えないのが日本社会の現状だとし、市交通局の基準は「一応の必要性・合理性」があると判断。その一方で、ひげを生やしていることを主な理由として人事評価を下げたことや上司の発言などは、「職員に任意の協力」を求める身だしなみ基準の趣旨を逸脱しており、違法だとした。

ヒゲは怖い、仕事をバカにしている

大阪市

大阪市に寄せられた市民の声。

出典:大阪市ホームページ

前述の通り、大阪市は上告しないと発表、この判決が確定した。

あれから約3カ月。判決確定後も、大阪市と男性らの交渉は続いている。大阪市ホームページには「市民の声」として、今も以下のような意見が掲載されているからだ。

「ひげを理由に減点評価したのは違法と判断されたが、公務員はひげを生やすべきではない。手入れをしていても認めない

「市長はヒゲ訴訟について、一歩も引かないで欲しい。地下鉄の当該職員、仕事をバカにしている許しては、いけない

「市民に対して、不快感や威圧感、それに恐怖感を与えるほどヒゲを伸ばした状態で業務などを行っている職員は、旧交通局に限ったことではなく、大阪市の他の所属にも該当する問題。市の条例などを通じて、規律などの強化・厳格化を強く要望する

「先のヒゲ裁判でとんでもない判決が出た事に驚いています。この判決はお金を払っている利用者のことなど微塵も考えていない!ヒゲ面はややもすると怖そうに見えるし、不潔そうにも見える」

カスタマーハラスメントに繋がると削除要求

謝罪

男性らは毎日電気カミソリなどでひげを整えていたと主張している。

GettyImages/maroke

大阪市側は控訴する際にも、ひげに批判的な市民の声を証拠として提出している。

ひげに関する身だしなみ基準は、大阪市営地下鉄が大阪メトロに民営化された際に撤廃されたが、男性運転士の弁護団は、これらが市ホームページに掲載され続けること自体が、男性らの名誉を貶め、精神的苦痛を与えていると指摘。一審判決後に男性のうち1人が体調を崩し1カ月の休職を余儀なくされたことなども考慮し、上記を削除することを求めている。

男性2人の代理人を務めた村田浩治弁護士は言う。

「大阪市がこうした市民の声をホームページに掲載し続けることは、客が過度のクレームを付け、従業員を心身ともに追い詰める『カスタマーハラスメント』(カスハラ)の容認にも繋がります。市は運転手も人格権を持っている客の意見でも聞ける声と聞けない声があるとハッキリ言うべきなのに。 これを放置して追い詰める行為はパワハラにもあたると考えています。

ルールができたから従え、従わなければ人事上の処分を示唆するような発言をし、実際に人事評価を下げたのですから」(村田さん)

大阪高裁は人事評価や上司の発言が心理的圧迫になったことは認めたが、これらが組織的、継続的ハラスメントだという男性らの主張は退けている。

「社会的ルール」は誰がどう決めるのか

大阪メトロ

顧客等からの著しい迷惑行為についても、今回のパワハラ指針案には盛り込まれている。

撮影:竹下郁子

市民の声の削除を求める男性らに対し、大阪市は11月、対応をとることは考えていないと回答した。

大阪市・都市交通局によると、「市民の声は第三者への誹謗中傷や差別をのぞき原則、全て公表している」。弁護団が問題視しているものも、従来の方針に基づき掲載しており、「問い合わせによって方針を変える予定はない」とのことだった。

男性と村田さんら弁護団は引き続き市と交渉を続けていくそうだ。

同時に村田さんは、現在パブリックコメントを募集している、職場でのパワハラやセクハラを防ぐために国が企業に求める指針案についても懸念があると言う。指針案には、「パワハラに該当しないと考えられる例」として「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」が挙げられている。当初は遅刻に加え「服装の乱れ」という記載もあったが、これは削除された。しかし、まだ問題はある。

『社会的ルール』の範囲が明確ではないので、企業の都合のいいように解釈される可能性があり、組織的なパワハラには対応できません。そもそも指導そのものがハラスメントにあたり得ることもあるのに、この書きぶりでは労働者に原因がある場合はパワハラにならないような印象を与えてしまいます」(村田さん)

同様の懸念は日本労働弁護団も示している。

下着の色まで指定されていた背景は

大阪メトロ

大阪市交通局、運輸部・女性の「職員の身だしなみ基準」。下着や口紅の色まで指定がある。

出典:大阪市交通局「職員の身だしなみ基準」

「今の日本社会に必要なのは、そのルールに合理性があるか、 労働者の人格を侵害するような過度な制約をしていないか議論することです」と村田さんは言う。

大阪市交通局が当時設けていた身だしなみ基準は、ひげだけではない。女性は「ノーメイクは原則不可」で、「職場の雰囲気に合わせたナチュラルな化粧をすること」、また男女共に下着は「白色、肌色、淡いグレーで無地を除き、色や柄が制服から透けて見えるものは着用しない」など、こと細かに決められていた。

こうした基準は、橋下徹大阪市長(当時)が進めていた市政改革によるものだと村田さんは強調する。橋下氏も当時を振り返り、「2011年当時、公務員組織の交通局は違法・不適切行為を繰り返していた。当時は厳格に服務規律を守らせることが第一だった」とツイートしている。橋下氏は職員の服務規律を厳格にする「職員基本条例」を公約に掲げて2011年に市長選に当選。同年は市交通局職員が覚醒剤の使用で逮捕されるなどの不祥事が相次いでいた。

(文・竹下郁子)

※編集部より:取材の進展に伴い、内容をアップデートしました。2019年12月20日11:50

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