スペインで開かれたCOP25で脱石炭の具体策に踏み込めなかった小泉進次郎環境相。経産省との調整が進まなかったことも要因の一つだ。
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「(脱石炭に動かない日本に対する)世界的な批判は承知している。COP25までに石炭政策について、新たな展開を生むには至らなかった」
スペインのマドリードで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)。小泉進次郎環境相は国際交渉の場で「進次郎節」を披露した。
「問題点は指摘するが、それならどうするかという自分の考えを示さない」
このところ小泉環境相にはそんな評価が付いて回るが、COP25でもそのスタイルが変わらなかった。
もっともCOP25でのゼロ回答を避けようと小泉環境相は動き回ったようだ。しかしエネルギー政策の監督官庁である経済産業省の態度がにべもなかったため、脱石炭に踏み込めなかったのが真相という。
メガソーラー事業者から1兆円
経産省は温暖化抑制に消極的。いや背を向けているとも言えそうなことが国内で密かに進んでいる。導入が決まっている「発電側基本料金」という仕組みで、メガソーラー事業者から1兆円をかすめ取ろうというもの。早ければ年内にも決まってしまいそうだ。どういうことか。
発電所で作られた電気は送電線などを伝って利用者に届く。電気が電力ネットワークを通るのには通行料が必要で、これを「託送料金」と呼ぶ。一般に託送料金は利用者がすべて負担することになっているのだが、約1割を発電事業者に負わせようというのが発電側基本料金の考え方。経産省は2023年の導入を目論んでいる。
発電側基本料金はキロワットあたり月150円程度で、1年間に直すと1800円だ。これに発電容量を乗じた金額が発電事業者の負担になる。すでに稼働しているメガソーラーの発電容量合計は約33・39ギガワットと推計されているので、メガソーラー事業者全体で負担総額は年間約600億円。これらの設備は向こう10年は稼働するから、期間中に6000億円の負担が生じる。
メガソーラーの中には建設中で未稼働のものが約23ギガワットある。これらがいずれ稼働すると仮定すると、メガソーラー全体では1兆円の負担が生じる。
聞く耳を持たない経産省
経産省は再エネの代表格であるメガソーラー事業者に必要な費用の一部を負わせることを目論んでいる。
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もちろん発電設備にはメガソーラーばかりではなく、原子力や火力もある。これらの発電設備も負担が生じるのだが、メガソーラーに比べて低く、発電事業者はそのコストを小売業者に転嫁できる。
これに対してメガソーラーは、2012年に導入された再生可能エネルギー固定買い取り制度(FIT)のもとで運用されている。あらかじめ決まった価格で大手電力会社が買い取るという制度だから、「託送料がかかるようになったので、卸価格を上げて欲しい」という交渉ができないのだ。
FITは東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、再生可能エネルギーの普及を加速しようと始まった。向こう20年間は電力会社が決まった価格で電気を買い取るとすることで事業展開のリスクを軽減、参入者を増やした。
そこに降って湧いた発電側基本料金は、ありていに言えば電力会社側に「利潤の一部をよこせ」というもので、メガソーラー事業者にしてみれば「後出しジャンケン」に他ならない。
新制度導入にあたり、経産省では当初、調整措置を取り入れることでメガソーラー事業者に負担が生じないようにするという議論があったのだが、2019年夏に突如消えた。そこでメガソーラー事業者は猛反発を始めたが、経産省は聞く耳を持たない。
政府が負ければ税金で賠償
エネルギー問題を担当する経産省と環境問題を担当する環境省の間で、脱石炭をめぐる調整が難航している。
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メガソーラーは安定した収益が見込めるため巨額の資金を投じているファンドがあるが、発電側基本料金の導入で配当利回りが減る。「こんなことがまかり通れば、メガソーラーだけでなく地熱や風力などへの投資も減り、再生可能エネルギーの普及に急ブレーキがかかる」と大手のメガソーラー事業者は指摘する。
あらかじめ決められたルールが突然変わるという異常事態。実は、似たようなことがスペインで2010年に起きている。政府が後になってFITのルールを変えたため、事業者が訴えを起こした。結果的に政府は5件敗訴、総額740億円以上の損害賠償を追うことになった。
経産省による今回の後出しジャンケンで、メガソーラー事業者は法的措置に踏み切る構えも見せている。仮に経産省が敗訴した場合、損害賠償は税金で賄われることになるだろう。
「政府と事業者の問題。利用者には関係ない話」と思いたいところだが、無関心を決め込んでいる間に、私たちに請求書が回ってくる可能性がある。
悠木亮平:ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。