派手な看板と激安で知られるスーパー玉出。導入記念に1日店長として大阪のアイドルグループ「オバチャーン」も参戦。
撮影:小山安博
関西で激安スーパーとして知られる「スーパー玉出」や、大阪を中心に出店するお好み焼き店「鶴橋風月」がコード決済のメルペイを導入した。
11月13日には機能導入に関する説明会が大阪府内で行われたが、そこでスーパー玉出から、スーパーマーケット業界におけるキャッシュレス決済導入の課題が説明された。
メルペイ導入の理由は「チャージ不要」「新規顧客開拓」
運営母体フライフィッシュの国枝尚隆氏。
撮影:小山安博
スーパー玉出は大阪を中心に45店舗を展開し、1円セールをはじめとした「激安スーパー」で知られる有名店だ。2018年から経営母体が変わり、現在はフライフィッシュ社が事業を行っている。
すでにスーパー玉出では、10月半ばにPayPayを導入していたが、新たにメルペイを導入してコード決済を拡充した。
PayPayに引き続きメルペイを導入した理由について、フライフィッシュの取締役で広報室長の国枝尚隆氏は、「PayPayは(銀行口座やクレジットカード経由などで)チャージが必要だが、メルペイはメルカリで売買したお金(売上金)が貯まっていて決済に使える」と話す。
メルペイユーザーの約6割が女性で、ほかの決済サービスと比べて特徴的。
撮影:小山安博
新たにチャージしなくても、売買益をリアル店舗の決済に使える点がメルペイの強みで、その点を重視した形だ。
メルカリ自体のユーザーは20~30代の女性が多く、メルペイ利用者も約6割が女性ということで、「顧客層が異なり、新しい客層がつかめる」(国枝氏)ことも期待する。
手数料無料の期間中に「判断材料を蓄積する」
メルペイはキャンペーンとして決済手数料0円のキャンペーンを実施中。
撮影:小山安博
こうしたコード決済の導入は「半分は実験的」と国枝氏。もともと商品券すら非対応で現金主義だったスーパー玉出だが、PayPayとメルペイを導入して現金以外の決済に対応したことは、世の中のキャッシュレス化の流れに呼応したものではある。
とはいえ、両サービスとも現時点では期間限定で決済手数料を無料化している段階。この手数料0円の期間にデータを蓄積するのが、スーパー玉出側の狙いだ。
PayPay導入後1カ月程度で、客単価は「店舗全体の平均で1.3~1.5倍に伸びた」(同)が、この段階ではまだPayPay導入効果かどうかは分からないという。
全体の売り上げ自体は前年比横ばいで、消費税増税の影響も受けていたということで、判断材料が足りていない。
それでも、キャッシュレス決済の比率はPayPay導入当初3%台だったものが、1カ月で6%に拡大。フライフィッシュが運営する別のスーパーチェーンでも先行してPayPayを導入したところ、すでに比率が10%を越えているそうで、スーパー玉出でも年内に10%に達すると見込む。
こちらは同時に導入を行ったお好み焼き店「鶴橋風月」。
撮影:小山安博
来年の東京五輪に続き、関西では2025年に大阪万博があり、決済業界ではこれをターゲットにしたキャッシュレス化の動きが加速している。
そうした点を踏まえても、キャッシュレス化の波はスーパーマーケット業界も避けがたく、スーパー玉出でも手数料無料の段階でデータを集め、売り上げの変動、客層の変化などを見据えていき、今後の決済手段の拡大を検討する考えだ。
小規模スーパーの利益は低下傾向
激安をうたうスーパー玉出の看板。
撮影:小山安博
同社が慎重に決済手段拡大を進める背景には、スーパーマーケット業界を取り巻く現状がある。
国内には多数のスーパーマーケットがあり、2018年で886社が2万店以上を出店しており、6割以上が1つの都道府県だけに出店するローカルスーパーとされている。半数以上が大手で占められているが、年商30億円未満の小規模スーパーも多い。
課題は営業利益率の低さだ。業界3団体の集計によると、業界全体の営業利益率は平均で1.04%(2019年)。300億円未満の企業では1%を切り、1000億円以上の最大手でも2%台となっている。国枝氏によれば、「店舗の規模にかかわらず、ここ3年、営業利益は低下傾向にある」という。
こうした状況下で、決済手数料が2~3%になり、キャッシュレス比率が30%を越えた場合、「業界の半数以上が赤字に転落する」と国枝氏は指摘する。キャッシュレス決済によって売り上げの増加がなければそうした店舗は立ちゆかなくなってしまう。
スーパー玉出は、メルペイがすでに公表している決済手数料1.5%より上がらない限りは、継続には前向き。通常、キャッシュレス化では顧客層の拡大や客単価の増加などによる売上増を目指すが、「スーパー玉出独自のキャッシュレス化を進めたい理由がある」という。
キャッシュレスも含めて客に「驚き」を
導入記念のタイムサービスでは、「みかん詰め放題100円」と激安ぶりをアピール。
撮影:小山安博
「スーパー玉出は“見て、驚いて、笑って、買う”店舗づくりをテーマで運営している」とする国枝氏。
そのため、店舗を「体験型のアミューズメントストア、買い物をエンターテインメント化したい。そして地域密着を超えた地域“粘着”型のスーパーを作りたい」という方針があるそうだ。
ネット通販でたいていのものは買える社会で、「ただ買うだけではリアル店舗に足を運んでもらえない」という危機感があり、そのため「店に来て1円セールで驚いてもらいたいし、派手な看板を見て喜んでもらいたい。店を楽しんでもらいながら購入につながればいい」との考えを国枝氏は強調する。
その結果、「日本全国にローカルスーパーはあるが、単に買い物したことをSNSに発信したくなるのはスーパー玉出だけ」(同)であり、そうした現象が起きるのは、「東のディズニーランドか、西のスーパー玉出か、というぐらいで、熱狂的なファンがいる」と国枝氏は胸を張る。
スーパー玉出もお好み焼き屋・鶴橋風月も、店頭のQRコードを客が読み取るMPM方式を採用(写真は鶴橋風月の店内。本来、コード決済はレジで行う)。
撮影:小山安博
キャッシュレス化によって、現状は「現金でしか買えなかったスーパー玉出でコード決済をやっていることが驚きを持って迎えられている」(同)。この驚かれるという点が、キャッシュレス化の理由のひとつというわけだ。
営業利益率の低さというスーパーマーケット業界全体の課題は、キャッシュレス化が進むほどに影響が大きくなる。
まずはコード決済を使ってもらいたいというスーパー玉出の挑戦は、「激安スーパー」でもキャッシュレス化によるメリットを享受できるかの試金石になりうる。
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。