厳格な人は微生物や虫にも配慮する。不殺生貫く「ジャイナ教」フードが今注目される理由

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ニューヨークのジャイナ教寺院でふるまわれるジャインフード。

撮影:南龍太

訪日外国人の増加や高まる動物愛護の機運を受け、「ビーガン」をうたう料理店が日本にも増え始めた。肉や卵を食べない「完全菜食主義」を指し、欧米やインドで広く浸透している。

そうしたビーガン先進都市のひとつ、ニューヨークではさらに進んで菜食、非肉食を突き詰めた先にある「ジャインフード」がじわり人気を集めている。不殺生を説くジャイナ教の教義にもとづく料理だ。

ジャイナ教徒が数多く訪れる市内の寺院でも、ジャインフードが毎週末にふるまわれる。エシカル(倫理的)消費の世相と相まって、今後日本でも広がりを見せるかもしれない。

「不殺生・非暴力」が最も大事

ジャイナ教は世界に500万人ほど信者がいるとされ、そのほとんどは発祥地のインドに住んでいる。ニューヨークにあるアメリカ有数のジャイナ教寺院「ジャイン・センター・オブ・アメリカ」によると、アメリカには20万人、うちニューヨーク市内には6000人ほどが暮らし、増加傾向にあるという。

同寺院を訪れると、指導者のチンメイ・ジャインさんがいろいろと解説してくれた。

ジャイナ教では「来世を信じ、すべての生き物に魂が宿っていると信じる」と言い、輪廻転生など、インドで同時期に生まれた仏教と通じる考えも多いそうだ。

ジャイナ教の最も重要で特徴的な教義のひとつは「不殺生・非暴力」だ。厳格な信者は、目に見えない微生物や虫を吸い込んで殺さないように口を布で覆ったり、踏みつぶさないように目の前をほうきで掃きながら歩んだりと、細心の注意を払っている。

若いジャイナ教信者たちを取材した英BBCのドキュメンタリー。

出典:BBC News YouTube Channel

そこまで厳しく教義を順守するのは難しいとしても、「生きとし生けるものにできるだけ害を及ぼさない」(チンメイさん)ように生きる姿勢が、一般的なジャイナ教徒にも貫かれている。

不殺生の教義は信者らの食生活に強く影響している。信者は原則、「最低でも菜食主義」だという。肉食はせず、卵も食べない。

加えて、ジャイナ教の教えにのっとった食事であるジャインフードは、禁じられている食材がさらに多い。

例えば、ニラやニンニクといった臭いの強い野菜は「五葷(ごくん)」と呼ばれ、禁忌だ。また、地中に植わっている根菜類は、掘り起こす際に虫を殺傷してしまう恐れがあるため避けられる。敬虔な信者だと、カリフラワーやナスの類も口にしないといった徹底ぶりだ。

「動物に苦痛をもたらすことへの嫌悪」高まる

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寺院でジャイナ教の重んじる「十徳」を学ぶ子どもたち。

撮影:南龍太

こうして見ると、不殺生を説くジャイナ教の思想は、ビーガンの人が抱く動物に苦痛をもたらすことへの嫌悪と、相通ずる部分があると言えなくもない。

動物への人道的な扱いを求める社会の傾向は近年ますます強まっているように感じられる。

例えば、ニューヨークでは2019年、高級食材として知られるフォアグラ(肥育したガチョウの肝臓)の販売禁止に関する条例を可決した。「強制的に餌を与えられた一部鳥類の食材の販売と提供」を禁ずるとして、2022年から施行される。

欧米に限った話ではない。伝統的に丸焼きなど犬を食べる文化があるベトナムでは2018年、首都ハノイの行政当局がこうした「犬食」の習わしを自粛するよう呼びかけた。犬肉はこれまで屋台や居酒屋で提供されてきたが、今後徐々に見かけなくなるかもしれない。

ほかにも、食文化ではないが、フランスの高級ブランド・シャネルは2018年末、ワニやヘビなどの皮革をバッグや靴に採用しない方針を示している。

「何も持たずに生まれ、何も持たずにこの世を去る」

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信者に交じって食べさせてもらったこの日のメニューは、「ロティ」と呼ばれる薄焼きのパンと「ダール」というレンズ豆のスープ、もっちりしたデザート「モハンサール」など。

撮影:南龍太

ジャイナ教の不殺生・非暴力の教えは、幼い頃から年長者の言葉や寺院を通じてはぐくまれるようだ。

9月上旬、前出のニューヨークの寺院を尋ねると、「ダス・ラクシャナ」という年中行事の祭典が行われていた。

そこでは子どもたちが、ジャイナ教で重んじるべき十徳について学んでいた。チンメイさんも強調していた「何も持たずに生まれ、何も持たずにこの世を去る」ことを美徳とする、「(世俗的な所有物の)放棄」や「謙虚さ」「自制心」などが十徳に含まれる。

祭事のあとに、週末恒例のジャインフードのふるまいがあった。老若男女を問わず評判で、食堂の外まで行列ができる。子どもや年配の信者は優遇され、先んじてふるまわれていた。

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薄焼パンのロティ(左上)やもっちりしたデザートのモハンサール(右下)などのジャインフード。日本で言えば、精進料理のような感じだ。

撮影:南龍太

材料は素朴ながら食べ応えがあり、スープはスパイスが効いている。例えて言えば、日本の精進料理といったところか。

ニューヨークにはこうしたジャインフードを味わえるお店が少なくとも10店程度ある。口コミサイト「Yelp(イェルプ)」では総じて高評価で、ミレニアル世代の客らを中心に支持されているようだ。

5点満点中4.5評価の「アヒンサー・ガーデン」はさまざまなカレーやスープを用意、要望に応じてジャインフードの仕様にしてくれる。アヒンサーは教義である「非暴力」を意味する。その系列店の「アナンダ」や「チェンナイ・ガーデン」も人気だ。

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ニューヨークでジャインフードを提供する「アヒンサー」の店内で撮影。

撮影:南龍太

日本にも、国内唯一のジャイナ教寺院が神戸市にある。インドからの移民は増加傾向にあり、ビーガンブームの兆しも相まって、今後ジャインフードが脚光を浴びるときがくるかもしれない。

なお、東京・御徒町の「ヴェジハーブサーガ」は、ジャイナ教徒も外食できる日本のお店として知られる。ご興味のある方はぜひ訪ねてみてほしい。


南龍太(みなみ・りゅうた):東京外国語大学ペルシア語専攻卒。政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者。経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで移民・外国人、エネルギー、テクノロジーなどを中心に取材。著書に『エネルギー業界大研究』『電子部品業界大研究』。

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