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5700年前のチューインガムから女性のゲノムを解析…人々の移動や病原体の進化の研究に役立つ可能性

2016年、オランダのアルヘオン・ミュージアムパークで、少年が狩猟採集民の生活を体験している。

2016年、オランダのアルヘオン・ミュージアムパークで、少年が狩猟採集民の生活を体験している。

Hans Splinter

  • デンマークのロラン島で、考古学者が約5700年前の「チューインガム」を発見した。
  • ガムとして使われていた樹脂には、狩猟採集民の女性のDNAが含まれていた。科学者は彼女の全ゲノムを解析した。
  • 狩猟採集民は、道具を作るための接着剤としても、カバノキの樹脂を使っていた。
  • 科学者はガムの中に残っていた細菌の遺伝情報も抽出した。

約5700年前、ある女性が夕食にヘーゼルナッツとカモを食べた後、今日も多くの人が行っていることをした。彼女はガムを噛んだのだ。我々の祖先は、カバノキの一部をガムのように噛んていた。加熱したカバノキの樹皮のべたべたした部分だ。

古代の狩猟採集民の女性は、デンマークのロラン島にあるラグーンに噛んだカバノキを投げ捨て、そしてそれは、2018年に考古学者のチームが発見するまで、泥の中に眠っていた。

2019年12月にNature Communications誌に発表された研究によると、科学者はその「チューインガム」の塊を使用して、前例のない量のDNAを抽出し、古代のヒトゲノム全体を解析できたという。これは、人間の骨以外の化石化した材料で解析できたのは初めてだった。

この遺伝子解析から、この女性が誰で、何を好んで食べ、どの細菌が口や歯ぐきを悩ませていたかなど、無数の情報が得られる。

「これはすごいことだ。全ゲノムから多くのことを知ることができる。集団の歴史、身体的特徴、遺伝子型が形質として表現されたものの特徴などだ」と、この研究を率いた遺伝学者ハンス・シュローダー(Hannes Schroeder)氏はBusiness Insiderに語った。

「なんてことのない一片のチューインガムから豊富な情報を引き出すことができる」

ローラという名前の黒髪の女性

分析の結果、約2センチのガムを噛んだのは、黒い肌、黒い髪、青い目をした女性だとわかった。研究者は彼女をローラと名付けた。

5700年前のヨーロッパに住み、カバノキを噛んでいた狩猟採集民ローラの想像図。

5700年前のヨーロッパに住み、カバノキを噛んでいた狩猟採集民ローラの想像図。

Tom Björklund

研究者は、彼女の遺伝子が、当時スカンジナビアに住んでいたグループよりも、ヨーロッパ本土の狩猟採集民により密接に関連していると判断した。 このことは現在のデンマークに人がどのように住み着いたかを教えてくれる、とシュローダー氏は言う。

言い換えれば、研究結果は、狩猟採集民が近くのスウェーデンから西へではなく、現代のドイツから北に移動し、デンマークのロラン島にやってきたという考えを支持するものだ。

チューインガムの近くで見つかった他の化石によって、科学者たちは、ローラの村が主に漁業と狩猟を行っていたと判断した。ウシ、シカ、カワウソの骨が、魚を捕るわなの残骸と一緒に堆積していたからだ。

古代の人間もナッツとベリーを採集していたようだ。 ガム中にはローラのDNAの他に、ヘーゼルナッツとマガモのDNAが含まれていた。研究者によると、それはローラがガムを噛む直前にこれらの食物を食べたということを示している。

接着剤として樹脂を使っていた

カバノキの樹脂は、カバノキの樹皮を加熱して作られる。 古代のハンターは、タール状の樹脂を接着剤として使用して、矢じりを矢に、石の刃を木製のハンドルに貼り付けた。

シュローダー氏は、古代の樹脂のサンプルはしばしば子どものものと思われる小さな歯の跡があると言い、「レクリエーション的に」噛んでいたかもしれないという。「たぶん、今日の子どもたちがするように、それは一種のチューインガムだった」と彼は言った。

「そうは言っても、今日のチューインガムのように甘くないが」

シュローダー氏は、カバノキの樹脂を味わったことは一度もないそうだが、それは苦いだろうという。

デンマーク南部の島で見つかった樹脂。

デンマーク南部の島で見つかった樹脂。

Theis Jensen

樹脂には、防腐性や抗菌性もあった可能性があると彼は述べた。

「歯痛の緩和や空腹感の抑制など、他の用途も考えられる」

ガムに閉じ込められた古代の細菌

シュローダー氏と彼のチームは、ガムの中に残っていた40個の口内微生物と病原体の遺伝子を分析することにも成功した。

彼らは、歯周病を引き起こす可能性のある細菌、ポルフィロモナス・ジンジバリスや、肺炎連鎖球菌などの細菌を検出した。また、伝染性単核球症を引き起こすことが知られているEBウイルスの遺伝的痕跡も含まれていた。

「EBウイルスのような病原体の進化、これらが毒性の観点からどのように変化していったのかを調べることができるだろう」とシュローダー氏は言う。

「これらの古代の病原体のゲノムを解析することで、それらがどのように進化して広がっていったたかがわかる」

ただし、細菌が存在するからといって、ローラが病気だったとは限らない。なぜなら、細菌は病気を引き起こすことなく人の中に存在できるからだ。

ポルフィロモナス・ジンジバリスの3Dイラスト。

ポルフィロモナス・ジンジバリスの3Dイラスト。

Kateryna Kon/Shutterstock

この発見は、数千年にわたって細菌がどのように変化し、さらに将来どのように進化するかをよりよく理解するのに役立つ可能性がある。

[原文:Scientists found a 5,700-year-old piece of used gum in a lagoon — and sequenced the entire genome of the woman who chewed it

(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)

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