アメリカのトランプ大統領。
Reuters
- アメリカの議会下院は12月18日(現地時間)の本会議で、トランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾訴追決議案を賛成多数で可決した。正式な弾劾訴追を受け、共和党が多数派を占める上院では2020年1月に弾劾裁判が行われる予定。
- アメリカの連邦議会は、根本的に壊れている。そして、弾劾手続きが進められる中、トランプ大統領はこれを十分に利用している。
- 過度の党派心が、他国に自国選挙への干渉を求めたといったトランプ大統領に対する疑惑を真剣に受け取らせなかった。
- 一定の支持率を維持するトランプ大統領は、もしかしたらアメリカ史上初の"弾劾された後に再選を果たした大統領"になるかもしれない。
- 大統領にその責任を取らせるという役割を議会が真剣に果たすことを拒否するとすれば、アメリカの民主主義の未来は危ういと、歴史や政治の研究家たちは懸念している。
アメリカの議会下院は12月18日(現地時間)の本会議で、トランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾訴追決議案を賛成多数で可決した。正式な弾劾訴追を受け、共和党が多数派を占める上院では2020年1月に弾劾裁判が行われる予定だ。
トランプ大統領の弾劾手続きは、いかに連邦議会が根本的に壊れているかを示している。そして、トランプ大統領はこれを十分に利用している。
トランプ大統領のレガシーは弾劾によって汚されるだろうが、共和党は"大統領に責任を取らせる"という歴史的役割を議会に放棄させ、党派心がトランプ大統領の疑惑に対する真剣な検証を妨げた。
共和党議員は、この弾劾手続きを通じてトランプ大統領を擁護してきた。
トランプ大統領は弾劾訴追された史上3人目のアメリカ大統領となったが、下院司法委員会が弾劾訴追する訴追状案を可決する前から、上院の共和党トップは弾劾裁判でトランプ大統領が罷免される「可能性はない」と宣言していた。
歴史や政治の研究者らは、こうした党派心によって議会が無力化すれば、アメリカの民主主義の未来は危ういと懸念している。ある研究者は、アメリカが"弾劾された後に再選を果たした大統領"を擁することになるかもしれない「未知の領域」に入りつつあると、Insiderに語った。
18日の下院本会議での審議中、ある共和党議員は大統領を文字通り"イエス・キリスト"と比較した。
ラウダーミルク下院議員:「イエスが反逆者と不当に告発されたとき、ポンテオ・ピラトはイエスに告発をした人間と向かい合う機会を与えた。ポンテオ・ピラトの方が、大統領を裁く民主党よりもっとイエスに権利を認めていた」
「共和国衰退のシグナル」
サザンメソジスト大学の大統領史センター(Center for Presidential History)の責任者ジェフリー・A・エンゲル(Jeffrey A. Engel)氏は、連邦議会の議員が憲法に忠実でありたいなら「アメリカ大統領が議会の召喚と議会の調査に逆らっているという事実に憤慨」すべきだと、Insiderに語った。
エンゲル氏は、合衆国建国の父は政府を3つに分けることで権力の分立というより権力の競合をイメージしていて、この国が今、目にしているのは「まさに権力競合の破たんであり、彼らが共和国衰退のシグナルになるだろうと考えていたものだ」と指摘する。
合衆国建国の父は「弾劾は非常に難しいものであるべきだが、上院議員たちは自らを大統領の手先と考えるべきではない —— 彼らは自らを(大統領と)同等だと考えるべきだと信じていた」とエンゲル氏は言う。
「同等だという意識が消え始めたら、全てが白紙に戻る」
では、トランプ大統領が上院で"無罪"となり、もしかしたら弾劾されても2020年の選挙で再選を果たすかもしれないと見られる中、大統領は弾劾に行政権のチェックとしての効果がないことを証明しているのだろうか?
エンゲル氏は、弾劾は「今も連邦議会が用いる重要なツールの1つ」だと言う。だが、トランプ大統領は「議会を意味のないものにした」と指摘する。
ここから得られる教訓は必ずしも、大統領は「何でも自分のやりたいことをやって、政権を維持できる」ということではなく、むしろ「トランプ氏を含め、大統領は不正なことをしたいなら、自らの党派の支持 —— 党派を超えて築かれるものではない —— にしっかり集中する必要がある」ということだと、エンゲル氏は語った。
支持率に変動なし…… トランプ大統領は弾劾後に再選か
自国選挙への介入を他国に求めることで、国家の安全を脅かしたとして弾劾された大統領は、トランプ大統領が初めてだ。
だが、共和党はトランプ大統領の"疑惑"ときちんと向き合うことを拒否し、その手続きを攻撃する一方で、民主党が2016年の選挙結果をなかったことにしようとしていると非難した。
トランプ大統領も正式な答弁を拒否した。
トランプ大統領は弾劾、罷免されるべきかどうかを尋ねた世論調査の結果は、真っ二つに分かれた。その一方で、ギャラップの最新調査によると、トランプ大統領の現在の支持率は45%だ。2016年の大統領選でトランプ大統領は、一般投票の得票率46%で勝利している。
再選を目指すトランプ大統領は、弾劾をめぐる戦いの中でも順調に選挙資金を集めている。大統領を支援する共和党議員、"無罪"の確信とともに、トランプ大統領は弾劾手続きを自身の支持者を煽ることに使っている。
「アメリカの民主主義にとって未知の領域」
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の政治学者ブライアン・クラース(Brian Klaas)氏は、トランプ大統領が再選を果たし、弾劾されて当然な攻撃をさらに強めた場合の民主主義的な意味を懸念している。
「トランプ大統領の政治的な動機は、どうすればその場を切り抜けられるか、限界を押し広げられるか、新たな制限を設けられるかを試し、そのプロセスをやり直すことだ」とクラース氏はInsiderに語った。「プライベートな利益のために公権力を乱用するこの明らかにとんでもない試みをめぐって、トランプ大統領がもし弾劾されても罷免されなければ、これまでの言動から、彼は上院の無罪判決は自身の正当性の裏付けであり、もう一度同じことができる承認と見なすだろう」
アメリカは、下院が一度と言わず大統領の弾劾を決議する「異常な状況」に陥りかねないとクラース氏は指摘し、これは「アメリカの民主主義にとってまさに未知の領域となるだろう」と語った。
クラース氏はさらに、議会で「国家の利益よりも個人の利益によって動かされる人間が多く」なれば、弾劾の脅威は「力を削がれる」ことになると言う。
「こうした推論の全てが、アメリカの民主主義にとっては恐怖だ」とクラース氏は語った。「もし司法省が現職大統領は起訴できないと言い、議会が原理原則より党派心が優先だとしてその監視役を機能的にあきらめたら、腐敗した大統領に何ができるだろうか? その答え —— ほぼ何もできない —— は、憂慮すべきものだ」
こうした状況は、「再選を目指す選挙の結果に影響が及ぶとしても、大統領の説明責任がなくなり、彼または彼女が事実上、罰せられることなく統治できるとしたら、民主主義はどう機能できるのか? 」という問題を提起すると、クラース氏は言う。
ニューヨーク大学の歴史学者で、独裁体制に詳しいルース・ベン=ギアット(Ruth Ben-Ghiat)氏は、トランプ大統領が「選挙への干渉で弾劾された」あとに2020年の大統領選で再選を果たせば、それは「民主主義的な制度の弱体化について何かしら表していると言えるだろう」と、Insiderに語った。
だが、ベン=ギアット氏は、このシナリオが「(トランプ大統領の)統治に対して、さらなる抵抗の火付け役となる」可能性もあると言う。弾劾をめぐるこのドラマでわたしたちが目にしてきたことを考えれば、この抵抗が共和党議員の中から生まれることは考えにくい。
[原文:The impeachment drama has shown how broken Congress is, and Trump is taking full advantage]
(翻訳、編集:山口佳美)