フランスのトータヴェル先史博物館にあるホモ・エレクトスの人形。
Raphael Gaillarde/Gamma-Rapho via Getty
- ジャワ島で発見されたホモ・エレクトスの化石は、11万7000年前から10万8000年前に死亡したと推定された。
- これは、考古学的に確認されているホモ・エレクトスの最後の姿だ。
- 彼らは謎の集団死を遂げ、その後、洪水で骨が流されたようだ。
- これらの化石の年代は、ホモ・エレクトスが他の3つの人類の祖先と同時に生きていたことを意味する。
1930年代初め、オランダの人類学者たちは、インドネシアのジャワ島のソロ川の土手の上に巨大な骨の層を発見した。
ヌガンドンと呼ばれる地域の川の泥には、2万5000以上の化石が埋まっていて、その中にはヒトの祖先であるホモ・エレクトスの頭蓋骨12個と脚の骨が含まれていた。
この種の初期の人類は200万年近く存続し、アフリカやアジアの各地に広がった。しかし科学者たちは、最後の1人がいつ死亡したかを特定できなかった。
ジャワ島の化石の正確な年代を特定しようとする努力はあまり役に立たなかった。なぜなら、その推定があまりに幅広かったからだ。当初、彼らの死亡時期は55万年前から2万7000年前の間と推定された。
しかし、2019年12月にネイチャー誌に掲載された論文は、最後に死んだホモ・エレクトスの運命について疑問を投げかけた。
化石そのものではなく、周囲の川の堆積物の年代を推定することによって、人類学者は頭蓋骨の年代をさらに狭めることができた。研究の結果、ホモ・エレクトスは11万7000年前から10万8000年前に集団死したことが示された。ということは、これらの骨は、考古学的記録で最後に確認されたホモ・エレクトスになる。
インドネシアのヌガンドンで発見されたホモ・エレクトスの頭蓋骨の1つ。
Courtesy of Kira Westaway
この新たな年代測定で、ホモ・エレクトスと年代が重複していた(あるいはしていなかった)他の古代人類種を特定できるようになり、他の種に関わる謎を解決するのにも役立つ。
「我々の研究によるとホモ・エレクトスはジャワで現代人と交流できるまで生存していなっかった」と、この研究の共著者であるラッセル・ショハン(Russell Ciochon)氏はBusiness Insiderに語っている。
「インドネシアのヌガンドンは、最も新しい時代のホモ・エレクトスの遺跡だ」
洪水が化石化した骨を集めた
研究者によると、ヌガンドンで発見された頭蓋骨と足の骨は、単一の場所で発見された最大数のホモ・エレクトスの化石だ。
2010年、ヌガンドンの発掘現場の露出した骨。
Russell L. Ciochon/University of Iowa
その理由はこれらの骨と後に第二次世界大戦で失われた2万5000の他の化石が、「川の丸太の中に蓄積された」からだと研究の共著者、キラ・ウェスタウェイ(Kira Westaway)氏は言う。
また、洪水で川に流された骨が損傷したため、頭蓋冠の一部が欠けていたりするという。化石とともに、研究者らは少なくとも64頭の哺乳類の骨も下流に運ばれていることを発見した。
「洪水が起こらなければ、化石はこの狭い地域に集中しなかっただろう。」とショハン氏は付け加えた。
そして、骨がすべて同時に下流に流されたという事実は、彼ら12人のホモ・エレクトスが同時に死んだことを示唆している。
大量死の原因は気候変動かもしれない
ショハン氏によると、これらの個体がどのようにして死んだのかはわからないが、ホモ・エレクトスがジャワ島で死滅した理由の1つとして気候変動があるかもしれないという。
約12万年前から11万年前の間に、世界は氷河期から間氷期に移行し、気温が上昇した。ジャワは今ではほとんどが熱帯雨林だが、かつては森林地帯だった。ホモ・エレクトスが絶滅したそのころから、気温の上昇によって島の環境は湿潤化し、湿度が高くなり、熱帯雨林が成長し始めたと見られる。
2010年のヌガンドンでの発掘調査。
Russell L. Ciochon/University of Iowa
人類の祖先がこの変化に対応できなかった可能性もある。
「ジャワ島でのホモ・エレクトスの滅亡は、熱帯雨林の拡大と時期を同じくしており、環境の変化が絶滅につながった可能性が高い」とショハン氏は言う。
「ホモ・エレクトスの化石は環境が変化した後の時代からは発見されていない。新しい熱帯雨林の環境に適応できなかった可能性が高い」
ウェスタウェイ氏は、熱帯雨林の拡大が、ホモ・エレクトスが狩りをするのに好んだ森林地帯の動物相に問題を引き起こし、それが食料不足を引き起こした可能性があると述べた。
「それまで食べていた食料源を見つけることができなかったのかもしれないし、熱帯雨林の捕食者に対して脆弱だったのかもしれない」とショハン氏は付け加えた。
遺跡には、ゾウ、シカ、牛など、森林環境に適した動物の骨も含まれていた。これらの生物はホモ・エレクトスと同時期に生き、そして同時に死んだ。
ヒトの祖先の混在
これらの化石の正確な年代を特定することで、人類学者はホモ・エレクトスが絶滅する前に誰と交流したかを調べることができる。ホモ・エレクトスは、主にシベリアと東アジアで発見されているもう1つの人類の祖先であるデニソワ人や、太平洋の島々に生息していたホモ・フローレシエンシスとホモ・ルゾネンシスという2つの初期の人類と混在した可能性がある。
1995年にインドネシアで見つかったホモ・エレクトスの頭蓋骨。サンギラン遺跡の頭蓋骨として知られている。
DEA / A. DAGLI ORTI/De Agostini via Getty
デニソワ人は20万年前から5万年前まで生きていた。遺伝学的な証拠によれば、現生人類と古い種が彼らと交配し、彼らのDNAの約1%を受け継いでいる。
「この古い種とはホモ・エレクトスである可能性が高い」
ショハン氏は、今回の研究による新しい年代は、デニソワ人が生きていた期間内に収まると述べた。しかし、ジャワでデニソワ人とホモ・エレクトスが混在していたかどうかは不明だ。
「デニソワ人がいつどこでホモ・エレクトスと出会ったのか、そしてその結果どうなったのか、憶測の域を出ない」とショハン氏は付け加えた。
2010年の発掘調査の様子。
Russell L. Ciochon/University of Iowa
今回の新しい発見はまた、他の2つの東アジアの祖先種がホモ・エレクトスの子孫である可能性を開く。
5万年以上前、ホモ・ルゾネンシスは現在のフィリピンのルソン島に住み、繁栄していた。近くにあるインドネシアのフロレス島には、低身長から「ホビット」と呼ばれるホモ・フローレシエンシスが、10万年前から6万年前まで生息していた。
「疑いの余地はない」とウェスタウェイ氏は述べた。
ヌガンドンの近くのソロ川。露出した河岸が見える。
Kira Westaway/Macquarie University
ショハン氏とウェスタウェイ氏の新しい研究は、初期人類の中で最も長生きした種の1つというホモ・エレクトスの地位を固めた。この種は約180万年間存続したが、これはホモ・サピエンス(我々だ)が存在している期間の約6倍だ。
ホモ・エレクトスの最初の化石は1891年にインドネシアで発見され、アフリカ各地や中国で化石が見つかっている。これらの祖先は、海面が低かったときに陸橋を渡ってジャワや太平洋諸島にたどり着いたと、ショハン氏は説明する。
また、他のホモ・エレクトスの個体群が、ジャワで発見されたものより長生きしていた可能性もあるという。
「我々の研究はホモ・エレクトスが最後に出現した時代を明らかにしたが、これは絶滅の時代を意味するものではない」と彼は言った。
「化石という証拠を残さずに長生きした可能性がある」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)