「東海オンエア」が公開した動画「精子観察キットで東海オンエアの精子を測定したらまさかの……」。
出典:「東海オンエア」チャンネル
人気ユーチューバー「東海オンエア」が12月中旬に公開した動画の影響で、突如注目が集まった商品がある。
スマートフォンで精子をチェックできる「Seem(シーム)」(3980円、税込み)だ。
動画ではメンバーの4人が、実際にそれぞれの精子の状態をチェック。検査の結果は……。
予想外の展開になったこともあり、動画再生回数は305万回を超え、7700件以上のコメントも寄せられた(2019年12月19日現在)。
2016年11月からこの商品を販売しているリクルートライフスタイルによると、動画の公開後にシームの1日の平均売り上げは、通常の20倍に急伸したという。
男女の意識の差がいまだに大きく残っているのも事実だが、男性不妊がメディアで取り上げられることも増え、社会の関心は徐々に高まる流れにある。
YouTubeで若者が関心
撮影:横山耕太郎
シームを開発した入澤諒氏は、動画の反響の大きさに驚いたという。
「『東海オンエア』の20代の4人が真面目にシームを使ってくれたことで、10代、20代にも興味を持ってもらえた。精子というとふざけてしまいがちですが、動画へのコメントでも『大事なことだ』ととらえてくれている人が多くてうれしかった」
シームはスマートフォンのカメラに、特殊なレンズをセットし、その上に採取した精子を載せることで、精子の状態を調べられる商品。アプリが精子の「濃度」と、正常に動いている精子の割合を示す「運動率」を測定する。
アプリでは世界保健機関(WHO)の下限基準と、自分の精子の数値を比較できる。
出典:リクルートライフスタイル
世界保健機関(WHO)の下限基準は、精子濃度が1mlに1500万個、運動率は40%とされており、この基準を下回ると自然妊娠が難しいとされる。
医療機関で精液検査をする場合は、電子顕微鏡などを使用し、精子の総量や形などさらに詳細な検査が行われる。シームは確定的な診断を行う医療機器ではなく、あくまで精子の状態を自分でチェックするという位置付けだ。
男性不妊にメディアも注目
「今後はオンラインで相談できるサービスも導入したい」と話す入澤氏。
撮影:横山耕太郎
シームは販売開始から毎年売り上げを3倍に伸ばし、成長を続けている。これまではiPhone限定の商品だったが、2019年10月にはAndroidにも対応できるようになった。
「男性不妊への関心は年々高まってきている。男性不妊専門の先生からは、『これまでなかなか来てくれなかった男性も来てくれるようになった』と聞いた」(入澤氏)
テレビなどのメディアでも男性不妊が取り上げられることが増えている。2018年に放送されたドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)では、不妊に悩む夫婦が描かれたことで話題になった。また、2019年にも男性不妊を扱った映画『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』が公開され注目を集めた。
「白いから大丈夫、ではない」
出典:リクルートライフスタイル「不妊に関する意識調査」
不妊大国と言われる日本で、不妊に悩む夫婦は少なくない。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、不妊を心配したことがある、また現在心配している夫婦の割合は35%で、3組に1組にのぼる。また不妊治療を受けたことがある夫婦は18.2%で、約5.5組に1組の割合だった。
一方で、不妊治療に対する男女の意識差はまだまだ大きいのが現実だ。WHOの調査によると、不妊の原因が男性側にある割合は約半数。にもかかわらず、不妊治療は女性の問題ととらえられがちだ。
リクルートライフスタイルが行った「不妊に関する意識調査」では、「不妊の原因の約半分は男性側にあることを知っているか」を質問。女性は56%が知っていたが、男性で知っていたのは46%と半数を下回った。また男性で精液検査を受けたことがあるのは13%だけだった。
「男性はみんな『自分は大丈夫』と思っていますが、無精子の割合は100人に1人程度。精液が白いから大丈夫という人がいますが、色や粘度は関係ありません」(入澤氏)
「男性が行動するきっかけに」
west/Getty Images
「妊娠を望むカップルの場合、最初に精子の状態をチェックし、男性側の問題に気づければ、不妊治療のステージを早期から変更できる。年齢とともに不妊治療の成功率は下がってしまうため、時間の面でも治療費の面でも、男性には早めに行動してほしい」(入澤氏)
シームによる精子のチェックは、開発当初から成果を上げた。社内で行ったユーザーテストでは、シームを使用した36歳の男性社員は、精巣で精子は作られているものの、精液の中に精子がいない状態だったことが分かり、早期の不妊治療につながったという。
男性「自然に授かりたい」
出典:リクルートライフスタイル「男性の妊活に関する意識・実態調査」
ただ、不妊治療に抵抗を感じる男性は少なくない。
リクルートライフスタイルが行った調査「男性の妊活に関する意識・実態調査」では、妊活への参加が女性よりも遅れた原因を複数回答で聞いたところ、「自然に授かりたかったから」が最多の31%だった。「なんとなく気がすすまなかったから」と「自分には問題がないと思っていたから」が21%で続き、男性にとって不妊治療は心理的なハードルが高いことが分かる。
「これまでは女性だけが妊活を行うというイメージが強かったと思いますが、『妊活は二人でするもの』という考え方を当たり前にしたい。
血液などのデータと違って、精子の状態は変動が大きい。食事や睡眠ですぐに回復することもある。精子を自宅でチェックすることで、男性が行動を起こすきっかけにしてほしい」
男性の意識、変化の兆し
「東海オンエア」の動画。「こういう話題ちゃんと真面目にできるなら、いい発案なんじゃないかな」などのコメントがあった。
撮影:横山耕太郎
不妊治療への男性側の理解には、いまだに課題が残っている。
しかし今回のように、ユーチューバーが男性不妊に関する課題を拡散し、若い世代からも注目を集めたことは、不妊問題への社会の意識が変化しつつあることの象徴とも言えそうだ。
YouTubeで4人の動画を見た後では、実際に自分の精子をチェックするのは少し勇気がいるはずだ。しかしあまり気負わず、記者も家でひっそりチェックしてみたいと思った。
(文・撮影、横山耕太郎)