インフルエンザ流行、ゾフルーザ耐性ウイルスの増加で感染の拡大は?

病院での診察

2019年度は11月初旬にインフルエンザの全国的な流行入りが宣言された。

撮影:今村拓馬

  • インフルエンザの流行が早いという報道が多いが、専門家は「極端に早くはない」と分析
  • ラグビーW杯が流行の原因とする説は「考えにくい」
  • ゾフルーザ耐性ウイルスが増加も、感染の拡大は限定的。

12月に入りインフルエンザの流行が本格化しつつある。「昨年の6倍」「近年では最速のペースでの増加」という報道や、小学校や中学校での学級閉鎖の話題を耳にすると、一見大流行が起きているのではないかと不安に感じている人も多いかもしれない。

しかし、国立感染症研究所(NIID)のインフルエンザウイルス研究センター第1室室長、渡邉真治博士は、2019年のインフルエンザの流行について「極端に早いものではなかった」と語っている。

2019年の流行の実態やラグビーW杯で感染が増加したとする噂の真偽、インフルエンザ薬「ゾフルーザ」への耐性を持ったウイルスの危険性など、インフルエンザにまつわる4つの不安について話を聞いた。

1. インフルエンザの本格的な流行は、もう少し先

インフルエンザの流行情報

12月20日に発表された、国立感染症研究所感染症発生動向調査。縦軸は1週間1病院あたりのインフルエンザの報告数(全国平均)。横軸の単位は週。グラフでの最新データは49週(12月2日〜8日)。地域別にみると北海道(25.11)や青森県(21.88)、富山県(19.31)と、報告数が多い地域もある。

出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査 通巻第21巻 第49号より引用(国立感染症研究所)

NIIDの調査によると、2019年12月20日段階で1週間あたりに病院で確認されるインフルエンザの患者数の平均(全国にある約5000病院で調査)は15.62人(第50週:12月9日〜15日)。例年に比べると確かに多い

とはいえ、本格的な流行時期である1〜2月に比べると、その数はまだ半分以下だ

渡邉博士は、2019年〜2020年(今シーズン)の流行について次のように語る。

「2019年は、全国平均だけを見ると9月の段階で『流行』と言える指標に達していました。ただし、その時は患者の大多数が沖縄県で報告されており、それ以外の多くの都道府県ではまだ流行とは言えない状況だったため、厚生労働省による『全国的な流行』の宣言は保留されました。

その後、患者数は一旦減少し、11月初旬に再び流行の指標となる報告数を超えました。その時は、他の地域でもインフルエンザの患者数が増えていたため、全国的に流行という判断がなされました」

確かに、11月初旬の「流行入り」はここ5年で最も早い。しかし、2009年のように新型ウイルスが出現するといった特別な事情がある場合を除けば、流行入りは気候条件などのさまざま要因によって多少前後するのが当たり前だ。

渡邉博士は、沖縄で9月ごろに感染者が多かった原因はよく分かっていないとしながらも、全国的な流行の時期については「極端に早いものではなかった」とする見解を示した。

2. ラグビーW杯での訪日観光客がインフルの流行を助長は本当

ラグビーの観客

2019年のラグビーW杯は9月中旬から11月初旬にかけて開催されていた。全国12会場で試合が行われていたものの、W杯開催期間に試合会場となる地域でだけインフルエンザの患者数が極端に増加しているということはなさそうだ。

Faiz Azizan/Shuttterstock

流行の入りは平年と大きく変わらないとのことだが、ラグビーW杯の開催に伴う外国人観光客の増加によって南半球からインフルエンザウイルスが持ち込まれ、感染が広がったのではないかという報道をよく耳にする。

『海外からやってきたウイルス』と聞くと、確かに少し不安を覚えてしまうかもしれない。しかし実態は日本でも流行しているウイルスと同じタイプのものであり、それほど怯える必要はなさそうだ。

渡邉博士はこの点についても、

「確かにインフルエンザウイルスに感染している人が来日して、周囲の人にうつせば局所的に感染が広がることはありえます。しかし、世界的に流行している季節性のインフルエンザウイルスは非常に似ていて、病原性や伝播性が極端に変わったということもありません。一部で感染が広がったとしても、それがきっかけになって全国的に流行するというのは考えにくいでしょう

と、流行の原因であることを否定した。

実は、ラグビーW杯が開催されている期間中にインフルエンザの患者数が極端に増えたという事実もない。影響が完全に無かったかどうかは判断できないが、あったとしても限定的と言えそうだ。

3. ゾフルーザ耐性ウイルスの出現。これって新型ウイルスじゃないの?

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インフルエンザウイルスのイメージ図。ウイルスの表面に存在する突起状のタンパク質の形によって、感染能力が変わってくる。

Axel_Kock/Shutterstock.com

2018年末から2019年にかけて、インフルエンザの流行とともに注目された新薬「ゾフルーザ」。実は、ゾフルーザを使用した影響で、ゾフルーザが効きにくいゾフルーザ耐性ウイルスが多く報告されるようになった。

薬の影響で出現した耐性ウイルス。新型インフルエンザウイルスが登場したのではないかと心配している人も多いかもしれないが、ゾフルーザ耐性ウイルスはいわゆる季節性インフルエンザウイルスそのものであり、『新型インフルエンザウイルス』ではない。

「ゾフルーザ耐性ウイルスの表面にあるタンパク質の形が変わると、感染が拡がる可能性はあります。それは、ウイルスの表面にあるタンパク質が、人の免疫の主な標的だからです。今のところ表面にあるタンパク質はあまり変わっていないので、感染が拡がる可能性は低いと思います」(渡邉博士)

ゾフルーザが効きにくい症例が増える可能性はあるものの、 今のところ、 それが大流行することはなさそうだ

ただし、インフルエンザに感染した人の中には、通常のインフルエンザウイルスとごく少量のゾフルーザ耐性ウイルスが混在している場合がある。こういったケースでは少し注意が必要だ。

例えば、ゾフルーザが処方されると通常のインフルエンザウイルスが減少して一時的に症状は軽くなるが、後になって体内に残っている少量のゾフルーザ耐性ウイルスが増殖して、症状が再び現れるケースがあるという。特に子どもの場合、大人ほど免疫が発達していないため症状をぶり返しやすいという。

現在流行しているインフルエンザウイルスの多くは通常のウイルスだと考えられているが、局所的にはゾフルーザ耐性ウイルスも存在していることは否めない。もし病院でゾフルーザが処方された際には、症状が軽くなっても少し注意しておいた方が良いだろう。

4. 今年のワクチンは当たり?はずれ?

ワクチン接種

Tero Vesalainen/Shutterstock.com

毎年、冬になると接種の必要性が叫ばれるインフルエンザワクチン。

インフルエンザウイルスにはさまざまな型があり、季節性インフルエンザとして流行しやすいのはA型2種類(H1N1pdm09亜型、H3N2亜型)とB型2種類(山形系統、ヴィクトリア系統)の合計4種類。1度のワクチン接種で、この4種類のウイルスすべてに対応する免疫を得ることができる。

インフルエンザウイルスの亜型や系統の違いは、大雑把にいうとウイルスの表面にある「タンパク質の形」のちがい。私たちの体の免疫システムは、このタンパク質の形を目印にウイルスを攻撃している

ワクチンは、その年に流行しそうなウイルスの表面にあるタンパク質の形を予想してつくられる。予測と実際に流行するウイルスの表面にあるタンパク質の形が近ければ近いほど、ワクチンによって高められた免疫システムによってウイルスがしっかり撃退されると考えられている。

2019年12月の段階で流行しているのは、A型のH1N1pdm09

インフルエンザウイルス

インフルエンザウイルスA型H1N1pdmの電子顕微鏡写真。

提供:国立感染症研究所

渡邉博士は「A型のH1N1pdm09とB型の山形系統に対しては、今流行しているものによく対応したワクチンになっていると思います」と、2019年のワクチンについて話す。

なお、流行の中心となるウイルスの亜型や系統は、シーズンの中でも入れ替わることがある。基本的にシーズン中に同じ亜型や系統に二度感染することはないが、運が悪いと、A型のH1N1pdm09にかかった後でB型の山形系統にかかるなど、1シーズンの間に異なるタイプのインフルエンザウイルスに感染してしまうこともあるので注意が必要だ。

結局のところ、インフルエンザはどう予防すれば良い?

インフルエンザの流行は、学校が冬休みに入ると一旦落ち着くことが多い。本格的な流行が年明けであることは、例年の傾向から見て間違いないだろう。ワクチンは接種してから効果が出るまでに2〜3週間程度時間がかかるといわれている。未接種の人は遅くとも年内には接種を済ませておいた方が良いだろう。インフルエンザは重症化すると、死に至る場合もあるが、ワクチンの接種によって免疫が活性化されていれば、仮にインフルエンザにかかったとしても症状が軽く済むなどの効果も期待できる。

また、ワクチンも完璧ではない以上、人混みを避けたり、マスクや手洗いを徹底したり、さらには体を健康な状態に保ち、自身の免疫がしっかり活躍できるような環境を整えたりしておくことも当然ながら、重要だ。

(文、三ツ村崇志)

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