12月21日に上海で、「niko and ...(ニコアンド)」のグローバル旗艦店がオープンした。同ブランドの中国1号店となる。
アダストリアより提供
日本のアパレルが立て続けに上海で1号店をオープンし、中国市場に挑戦している。
11月7日に「鎌倉シャツ」の愛称で知られるメーカーズシャツ鎌倉が、上海の中心部に1号店をオープンした。さらに12月21日には、アパレル大手アダストリアのライフスタイル・ブランド「niko and ...(ニコアンド)」が、1〜3階まで面積約2600平方メートルのグローバル旗艦店(かつ1号店)をオープンさせたところだ。
また、実店舗ではないが、ファッション通販サイト 「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOが中国で、12月10日にサービスを開始した。ZOZOは厳密に言うと、2011年に一度進出して2013年に撤退しており、再進出となる。
オープンさせたばかりのニコアンドの旗艦店は、アパレル、生活雑貨の売り場に加え、カフェやレストランも備え、東京の原宿店などのような店舗となる。
ニコアンドに絞って再挑戦の理由
「niko and ...(ニコアンド)」上海旗艦店の店舗の様子。
提供:アダストリア
アダストリアはニコアンド以外にも多くのブランドを抱え、韓国、香港、台湾でも店舗を構えている。実は中国でも2010年に、自社ブランドをセレクトした「コレクトポイント」の店舗展開を始め、一時は中国各地に約40店舗まで広げたが、2019年中にすべて閉じた。今回あらためて、ニコアンドに絞って再進出した形だ。
アダストリアの北村嘉輝取締役営業統括本部長は、ニコアンドに絞った理由を明かした。
「今回ニコアンドで出たのは、競争が厳しい中国アパレル市場の中でも、僕たちがまだビジネスとして差し込めるのは、“ライフスタイル”。アパレルはすでに多く進出しているが、生活雑貨やリビングニーズだったりと、洋服だけではない提案をするブランドはまだ少なく、チャンスがあると思っている」(アダストリア北村取締役)
アパレルだけでなく生活雑貨の商品も多く並べて、ライフブランドとしての「niko and ...(ニコアンド)」を中国の消費者に意識させる。
提供:アダストリア
ニコアンド1号店は上海の淮海中路(ファイハイヂョンルー)沿いに面するが、この通りは世界的なブランドの路面店が並び、上海で一番賃料が高いと言われる。出店しても利益は出ないが、宣伝・広告のために出す場所とも言われている。ニコアンド旗艦店の道路向かいには、「無印良品」の旗艦店があり、ニコアンドの旗艦店とは3階の渡り通路でつながっている。また、ユニクロの旗艦店も近くに並ぶ。
一方で、前述したように非常に難しいエリアでもあり、2010年12月に同エリアに進出したファッションモール「OPA」は約4年で撤退した。
上海のニコアンド旗艦店について説明するアダストリアの北村嘉輝取締役営業統括本部長。
撮影:大塚淳史
上海一厳しいエリアで、ニコアンドの中国1号店であり大型旗艦店を出したことについて、北村取締役は、こう覚悟を語ってくれた。
「中途半端なところで中途半端なことをやってもダメだと思い、一番厳しいところで一番の勝負をかけました。上海は一級都市(国が定めた大都市)の中でも難しい、競合が多いところですけど、そこでうまくいけば他の地域でのハードルは下がります。ある意味本気の表れです」(同)
一方で、ただ出店したわけではなく、戦略もある。
「モールの中に40坪、100坪といった店を出していく。しかし、その規模でやっても、皆、EC(インターネット通販)で買うから、店舗では買わない。旗艦店でしか買えないもの、味わえないもの、感じられないもの、発見するものでしか、お客さんは入ってきません。
上海にある有名ブランドでも通常店舗はなかなか客が入っていない一方で、旗艦店には多くの客が集まっています。今回僕らは、店舗をたくさん出すという戦略ではなく、お店の価値をどう高めていくか、ブランディングしていくかを意識しています」(同)
苦労したコレクトポイントの経験が生きているという。
しかし、売り上げが伸びなければ、多くの日本アパレルブランドが経験してきたように、中国からの退場も迫られる。旗艦店の売り上げにこだわるわけでなく、ECと合わせた形での販売を狙う。旗艦店で、ニコアンドの持つ価値観を体験してもらい、ファンを増やしていき、たとえ店舗で商品を買わなくても、ECを含めて商品が売れれば良いという考えだ。
ECでの販売は、中国の人気メッセージツール「WeChat(ウィーチャット)」の中のミニプログラムを使ったものを準備している。2020年の年明けすぐの公開を予定する。
鎌倉シャツは11月に中国1号店
11月に上海に中国1号店をオープンした「メーカーズシャツ鎌倉」。
提供:メーカーズシャツ鎌倉
一方、11月に上海1号店をオープンした鎌倉シャツ。アメリカ・ニューヨークに進出しており、現地メディアからも高い評価を受けた自信を胸に、中国市場へ乗り込んできた。
「(一昔前のような)日本企業のブランドだからといって成功する、とはいかない。難しいのはわかっている。上海は欧米ブランドの草刈場になっていた。私たちはニューヨークに2012年に進出して、実績をつけてきたことで、世界で認めてもらえる商品であるというお墨付きをいただき、中国に出る方針を堅持したわけです」(メーカーズシャツ鎌倉・貞末良雄会長)
中国市場に挑戦するメーカーズシャツ鎌倉・貞末良雄会長。
撮影:大塚淳史
すでに日本国内の鎌倉シャツの店舗には、中国人リピーターが付いているという。確かに、上海進出のニュースの際には、記者の知り合いの中国人たちからも喜ぶ声が出ていた。
主力商品は200番手シャツで価格は約8000円。上海店舗でも日本と同じく、男性向け9割、女性向け1割という商品構成にするが、中国では日本より共働き家族が多いということで、状況に応じて女性向けを増やす可能性もあるという。
さらに1号店では、補修などを行うサービスをしており、店舗内にある一角をガラス張りにして、日本から来た職人が作業しているところを見せられるようにしている。貞末良雄会長は「SNS映えにいいかなと思います」と笑った。
「メーカーズシャツ鎌倉」1号店の様子。
提供:メーカーズシャツ鎌倉
中国人男性の「普段着」習慣が立ちはだかる?
中国アパレル市場は、特にメンズアパレル、ビジネス向け用途はハードルが高い。過去にも乗り込んだビジネス向けのアパレル日本企業はあるが、軒並み苦戦している。
その背景として言われるのが、中国人男性はもともとスーツやシャツを着る習慣がないということだった。普段着そのままで出社して仕事を行う。きっちりとしたスーツやシャツで身を固めるのは、主に金融業、不動産業、外資系企業で働く人々、そして国や地方の政府の要職に就く人々が多く、まだ浸透はしていない。
ただ、その状況もこの数年で変わってきているようだ。中国1号店のオープンに奔走した貞末奈名子常務は、出店に際してある程度の手応えを得ている。
「2018年12月から2019年1月、上海・静安寺のショッピングモール地下でポップアップストアを2カ月やったところ、毎日多くの方が来てくれた。週末も上海中から人が集まりました」(メーカーズシャツ鎌倉・貞末奈名子常務)
「メーカーズシャツ鎌倉」の中国1号店が入る上海・静安寺エリアにある商業施設「ケリーセンター」。
撮影:大塚淳史
もう1カ所、人民広場エリアでもポップアップストアを開いたが、よりオフィスの集まる静安寺エリアのほうが親和性が高いと、出店を決めた。
「購買層は、どちらかというとちょっと若い層です。今中国で活躍しているグローバル企業で働く方は、おそらく30代前後が多い。また、英語教育を受けている層や、海外留学を経験している方が比較的若い層に多く、中国社会の中でも彼らを中心に(スーツやシャツを)着始めているのかなと感じます」(貞末奈名子常務)
鎌倉シャツもニコアンドと同じく、ECとのセットで展開する。実は実店舗よりも先んじて、2019年1月に中国ECモール最大手のTモールで販売を開始した。
「(すでに行っているから)Tモールのある程度の知見はあります。ベーシックデザインのみですが、2億円を売り上げました」(貞末良雄会長)
「日本でもお客様が上手に(実店舗とECの)両方を使う人が多い。多少目的は違うかもしれないが、ECしか使わないという人はいない。中国は日本以上にECが発達していますが、私たちがWeChatの公式チャンネルで告知した瞬間の反応がすごく、アクセス数もすごかった。そしてさらにそこからECに流れていった。リアル店舗ができると、相乗効果でも売れていくと見ています」(貞末奈名子常務)
現地で鎌倉シャツ中国1号店のオープンに奔走した貞末奈名子常務。
撮影:大塚淳史
横ばいの日本市場、見過ごせない中国市場
国内アパレル小売り市場規模の推移(品目別) 。
出典:矢野経済研究所
中国市場を狙う日本のアパレルブランドは過去にも数多くあった。特に2010年代前半は、中小のファッションブランドが進出したが、軒並み撤退していった。そこでいったん中国進出ブームは落ち着いた。
しかし、これからまた進出ラッシュが起きるのかもしれない。背景には苦しい日本市場の状況がある。
日本のアパレル市場は、矢野経済研究所の最新発表データ(上)によると、ここ10年ほど9兆円超の横ばいで推移している。ピークだった1990年前後の15兆円からは大きく縮小している。
アダストリアの北村取締役は、次のように指摘する。
「日本市場と中国市場を比べると、より厳しいのは日本ではないかと思っています。この10、15年くらいで鈍化しているのでは。中国市場も最近鈍化しているよね、とは言われるのですが、それでもGDP(国内総生産)は6%と確実に成長しています」(アダストリア北村取締役)
取材に応じたアダストリアの北村嘉輝取締役営業統括本部長。
撮影:大塚淳史
中国のアパレル小売り市場も鈍化していると言われているが、それでも約40兆円に達する。日本の4倍以上ある市場は見過ごせない。
アダストリアの海外売り上げは全体の5%に満たないが、縮小する日本市場に依存し続けるのは危ないとみている。
「逆に中国のブランドが日本市場に乗り込んでくるのではないかという危機感もあります。海外で経験を積んだ、ファッション感度の高いデザイナーたちが独立してブランドを立ち上げています。日本で守りに入っている場合ではない」(同)
日本のアパレルブランドによる中国進出が再び活発していくかもしれない。各ブランドたちによる、世界一厳しく大きい市場への挑戦はこれからも続く。
(文、撮影・大塚淳史)