令和の幕開けとなった2019年、Business Insider Japanから多くのヒット記事が生まれました。そんな注目の1本を紹介。
※本記事は2019年9月17日に公開した記事の再掲です
「お母さん」。小学生の頃、女性教師をそう呼び間違えて恥ずかしい思いをした経験は、誰にもあるだろう。しかし大学、社会人と年を重ねると、女性を「お母さん」と呼ぶ「確信犯」たちが出てくるようで……。
女性教員を「お母さん」と呼ぶ男子大学生たち
職場で「お母さん」と呼ばれたことありますか? 女性がそう呼ばれるのを見たことありますか?(写真はイメージです)
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「僕のこと、先生の息子だと思ってください」
東京都内の私立大学で教員を務めるAさん(女性、40代)が男子学生から言われたことだ。
「先生」ではなく「お母さん」と呼ばれることがたまにあるという。
「率直に言ってキモいですね」(Aさん)
Aさんが教える学生の男女比は7対3で、圧倒的に男子学生が多い。大学の教員も8割は男性だ。
女性教授を「お母さん」と呼ぶ男子大学生たちの心境は……(写真はイメージです)。
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共学であるこの大学では女子学生へのキャリア教育が行き届いているとは言い難い。Aさんは日頃から女子学生に対して、就活時は女性管理職の割合や女性社員の勤続年数もチェックすること、妊娠出産で仕事を辞めると次に正社員で働くことが難しいこと、さらに家事育児は女性がすべきものという社会的なプレッシャーの根強さなどを授業中に伝えている。
Aさん自身も子育てをしながら働く「ワーママ」だ。男子学生がAさんを「お母さん」と呼ぶことについて、
「授業で“家族”の問題や私自身の子育てのこともよく話すから、私には言ってもいいと思ってるのかもしれない」
と推測する。
実はこうした状況は珍しいことではないらしい。
お茶汲み、愛想笑い…無償のケアが「お母さん」呼びに
飲み会で料理の取り分けをしてもらう理由は「ママだから」(写真はイメージです)。
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卒業の際に男子学生が同僚の女性教員に「出会えて良かったです。先生は僕のお母さんでした」と涙を浮かべながら話すのを見たことがあるそうだ。
そしてこれは「学校」に限った話ではない。
卒業した男子学生から、「職場で年上の女性社員のことをみんなで『お母さん』と呼んでいる」「職場の飲み会での料理の取り分けは『ママにやってもらえばいい』と子育て中の女性社員にお願いしている」と聞いたこともあるという。
「ある新聞では『職場のお母さんに言えなかった一言』という読者の体験を美談として取り上げていました。親しみを込めて呼ばれてるんだからいいじゃないという人もいるかもしれませんが、私は『無償のケアワーク』をしろと言われているようで、嫌悪感しかないです。
だって男性教員が『お父さん』と呼びかけられているのなんて、聞いたことないですから。明らかに非対称なんですよ。女性にだけお茶汲みをさせたり、愛想よく振る舞うことを求めるステレオタイプは今もあります。
女性は仕事の場でも私的な領域でケアワークを強いられているので、その象徴である『お母さん』と呼ぶことに抵抗がない人が多いんでしょう。本当に腹が立ちます」(Aさん)
惣菜や家事代行も母親がサービス名に
撮影:今村拓馬
「お母さん」を背負うのはサービスも同じだ。
ファミリーマートの惣菜・冷凍食品シリーズ「お母さん食堂」、従業員が社食の代わりに購入できる惣菜「オフィスおかん」、2018年に終了したDMM.comの家事代行サービス「DMM Okan」など、家事に関するサービスには母親の呼び名がつけられる。なぜいつも「お母さん」なのか、という批判の声もある。
一方で、当の女性たちはさまざまだ。
Aさんはネット上でも職場で「お母さん」呼びされることを不快に思う女性たちの投稿を複数見ている。でも、不快に思う理由はAさんとは違う。多くが母親と見られることで「性的対象として見られていないから」というものだったそうだ。
また女性教員自身が、「私はみんな(学生)のお母さんだから」「生徒は子どもみたいなもの」と話すのを聞いたこともあるという。
「お母さん」自称する女性の本音、おばさんの自虐も
撮影:今村拓馬
筆者も職場の新年の挨拶で事務職の女性が「みんなのお母さんとして頑張ります」と宣言したり、女性管理職が「私は職場のお母さんだからさ」と話すのを聞いて、なんとも言えない気持ちになったことがある。
東京都内のテレビ局で「お母さん」を自称しながら働くBさん(女性、40代、アシスタントプロデューサー)は言う。
「あまり深く考えずに言ってましたね。年の離れたADさんやクセの強いディレクターなど、自分とはタイプの異なる人たちと円滑にコミュニケーションを取るための『キャラ設定』という感覚でした。『怒るのも愛情だからね』みたいな。でもよく考えたら、おばさん呼ばわりされる前に先回りして『自虐』してた部分が大きいかもしれません」(Bさん)
呼ばれて憤る女性、自称する女性。職場の「お母さん」呼び問題は複雑?(写真はイメージです)
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前出のAさんは男子学生から「お母さん」と呼ばれたり、「息子のように扱って欲しい」と言われても、「私の子どもはもっと可愛いけどなぁ」と、冗談めかして交わすしかないのが現状だという。
「将来は家事も子育ても頑張りたいというフラットな感覚の男子学生が増えてきた一方で、女子のキャリアの話をすると『先生は女子の話ばっかり』と腹を立て、男性が優位な社会になっていると構造的な問題を指摘すれば、あからさまに『シラケ』てみせるような学生もいる。
『お母さん』呼びの背景にあるステレオタイプを一から説明することに労力がかかるので、あきらめてしまうこともあります」(Aさん)
職場の「お母さん」呼び問題、あなたはどう思いますか。
(文・竹下郁子)