総務省からfreeeに転職、2019年加速する霞が関の人材流出

霞が関の官僚たちに異変が起きている。日本の国政を担う霞が関だが、国家公務員の志望者数は減少。長時間労働が常態化する職場環境に内部の官僚からも改善を求める声が上がるなど、働き方も疑問視されている。

そんな中、「民間の方が社会に役立てる」という思いから、ベンチャーに転職する人も増えている。霞が関の人材流出の現状とは?

「民間でダイレクトに力を生かしたい」

DSC_0289

小泉美果さんは総務省時代、2年間のアメリカ留学を経験。「『こうあるべき』ではなく、自由にやりたいことを追求していいんだと思えた」と話す。

撮影:横山耕太郎

「両親が経営する小さな建設会社が、資金繰りに苦労していたのを見ていたので、中小企業が活躍できる社会にしたいとの思いがあり、国家公務員を目指しました。

けれど総務省に入ってみると、年功序列のヒエラルキーがはっきりしており、変えようと思ってもなかなか話が進まなかった。今、脂が乗っている時に、民間企業でダイレクトに力を生かしたいと思い転職を決めた」

総務省から2019年7月に、会計・人事労務クラウドサービスを展開するfreeeに転職した小泉美果さん(35)はそう語る。

山梨県出身の小泉さんは、慶應大学法学部を卒業後、2007年に総務省に入省。国会答弁準備などで忙殺される日々を過ごしていたが、2009年、24歳で長女を出産した。

2011年の復職後に離婚。シングルマザーとして、子育てしながらの勤務だったため、午後7時にはオフィスを出なければならず、残業は難しかった。 国家公務員の収入は残業手当の占める割合が多いため、収入は減少したという。

「以前は時間を気にせずに働いていました。出産後、残業ができなくなったことで、仕事の密度は上がったものの、生活は厳しくなった。一人親世帯の補助の対象になる程度の収入で、国家公務員としてのプライドが揺らいだ」(小泉さん)

影響力に疑問

_IMA3455

撮影:今村拓馬

復職後には部下もでき、上司との調整役を担うようになった。地位が上がっていけば、組織を変えることができるかもしれないと考えていたが、現実は終電帰りの日も多く、メンタルを崩す若手もいた。働き方改革の政策提言にも取り組んだが、2年続けてみて、なかなか変えられない壁を感じた。

「霞が関では『去年はこうやっているから、今年はちょっとだけ変えよう』といった微調整に終始することもあり、これは本当に影響力のある仕事なのかと。年功序列で終身雇用が前提の組織で、言われたからやるという人が多くなってしまう。将来的には出世できたかもしれないが、ここに能力を使いたいと思えなくなった」

「総務省に戻ることも選択肢」

shutterstock_1047339082

shutterstock

霞が関から五反田のベンチャーへ。転職の決め手になったのは、国家公務員と同じく、社会の役に立てると感じたからだった。

「『社会の進化を担う責任感』というfreeeのカルチャーに共感した。霞が関よりも広域的に社会の役に立てるのではないか」(小泉さん)

freeeには小泉さんのほかにも、霞が関から転職してきた人材が複数人在籍している。同社の広報は「国家公務員の人材をあえて採用しているわけではない。ただ、霞が関から来てくれる人たちには社会貢献したいという強い意志があり、生き生き働いている印象がある」と話す。

小泉さんは現在、銀行との交渉業務などを担当する傍ら、会社と霞が関との情報交換を担うなど、橋渡しとなる仕事もしている。

「将来的には霞が関に戻ることも選択肢の一つ。まずはもっと経験を積みたい。総務省では自分なりに貢献してきたと思っているのですが、freeeの中でも、埋もれずに成果を出していきたい」(小泉さん)

内部で募る危機感

MG_6863

撮影:今村拓馬

「最近はよく退職のお知らせが来るようになった。またかという感じ。やる気、能力がある人がやめてしまう。これがやりたいとベンチャーにいく人も、収入のいい大企業にいく人もいる。霞が関の人は揺らせば落ちると思われているようだ」

霞が関で採用や人事に関する職務に就く、とある30代の男性官僚は言う。

「入省して2~3年はひたすら資料をコピーすることも省庁によってはあるし、出世しても国会で激しい罵声を浴びせられる姿を見て、こうなりたくないと思ってしまう人もいるだろう。

ただ、子どもを育てながらテレワークを使って仕事と家庭をうまく両立させている人もいるし、環境は改善していきている。私自身はやりたい仕事ができているし、社会を変えられる仕事だと思っている」

激務を問題視

kourousyou

出典:厚生労働省改革若手チーム緊急提言

国家公務員の志望者は減少傾向にある。

人事院によると総合職試験(大卒程度試験)の申込者数は2015年度は1万8676人だったが、2019年度は1万5435人に減少。一般職試験(大卒程度試験)の申込者数も2015年度は3万5640人だったが、2019年度には2万9893人となり、3万人を割った。

国家公務員の激務も問題視されている。

2019年8月には、厚生労働省の働き方をめぐり、省内の若手チームも緊急提言を発表。そこには「入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」「毎日いつ辞めようかと考えている。毎日終電を超えていた日は、毎日死にたいと思った」などと悲痛な声が並び、国家公務員の過酷な働き方に注目が集まった。

「できることは山ほどある」

reiwahair

出典:パンテーンのHPより編集部キャプチャ

一方で、若手官僚の中には一度民間に出たことで、国家公務員の魅力に気がついた人もいる。

経産省で採用担当の八木春香さん(32)は、2021年に入省する人材を確保するため、学生に直接声をかける逆求人サービスの利用や、説明会の様子をネット配信するなど、新たな取り組みを始めた。

また、プロクター・アンド・ギャンブル (P&G)のヘアケアブランド「パンテーン」が、就活口コミサイトのワンキャリアの協力を得て行ったキャンペーン「#令和の就活ヘアをもっと自由に」に、 経産省として賛同表明を出すことを、八木さんは上司に提案した。

「このキャンペーンに乗れれば面白いと思って、上司にメールすると、数時間後には参加を認めてくれた。経産省は改革の象徴のような場所。ここでできることは山ほどある」(八木さん)

メルカリで「変わった」

DSC_0345

八木さんは「革新的なことを考えている人を採用したい。これまでのやり方では出会えなかった人材も採りにいきたい」

撮影:横山耕太郎

2011年に入省した八木さんだが、5年目を迎えた頃から、大きな組織ではなくベンチャーで力を試してみたいと思うようになり、転職を考えるようになった。そんな中、2018年にできた新制度「経営現場研修制度」に手を挙げ、メルカリで8カ月働く機会を得た。

「最初の数カ月は何も分からない日々で、『こんなに分からないものなのか』とショックでした。これは提案した方がいいかと思っても、『的外れでは?』とか『部外者だし』と、言えないことがあった。

ただそこで、ベンチャーでも経産省でも、何か言わないと何も変わらないと気が付いた。役所だからできないではなく、やるかやらないかは自分次第と分かり、気持ちが変わった」(八木さん)

「人の幸せ願える仕事」

DSC_0326

撮影:横山耕太郎

メルカリでの経験で、国家公務員のやりがいを逆に知ることができたという。

「法律のここが使いにくいとわかったら、法律を変えることに関われる立場。それができるのは国家公務員だけ。

自分のためよりも、誰かに喜んでもらえることでハートの火が着く人にとって、人の幸せを願い、それを目的にできる場所だと思っています」(八木さん)

霞が関が直面する人材をめぐる実態は厳しいが、それは霞が関に限った話ではない。

転職が当たり前になった現在、活躍の場を求める若手が、終身雇用と年功序列が根強く残る企業から流出する傾向は、これからも続くだろう。従来の日本組織の価値観と、変化や柔軟なキャリアを求める若手の価値観とが、どう共生していくのか。どの組織にも突き付けられている課題だ。

(文・横山耕太郎)

編集部より:初出時、小泉さんのfreeeへ転職時期を「2019年3月」としておりましたが、正しくは「2019年7月」です。 2019年12月24 日 12:00


ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み