楽天の顔認証技術も実験中。「現金お断り」の新型レストランが2020年に狙うこと

GATHERING TABLE PANTRY 二子玉川

完全キャッシュレスの2店目となるGATHERING TABLE PANTRY 二子玉川が24日にオープンした。

撮影:小山安博

ファミリーレストラン・ロイヤルホストなどを運営するロイヤルホールディングスは、完全キャッシュレスの実験店舗「GATHERING TABLE PANTRY 二子玉川」を24日15時からオープンする。

キャッシュレス手法

現金が使用できない完全キャッシュレスの店舗。

撮影:小山安博

東京・馬喰町店に続く2店舗目で、楽天が提供する顔認証決済を試験導入するなど、積極的にテクノロジーを活用する店舗となっている。

ロイヤルホールディングスの常務取締役でイノベーション創造担当・食品事業担当の野々村彰人氏は「来年はチェックレス(※)も段階的に入ってくるのではないか。それに向けて準備を進めたい」と話している。

※チェックレス……あらかじめ決済手段を登録してもらった来店者を何らかの手段(QRコードや顔など)で認証して、店内では支払い作業をせずに、登録されている決済手段で自動的に決済を行うこと。

軽減税率対象の「内食」商品も取り扱う

報道関係者向けに公開された新店舗は、東京世田谷区の二子玉川駅に近い二子玉川ライズ バーズモールにある。店舗面積30坪、カウンター6席を含む座席数は40とコンパクトな店構え。

セントラルキッチン

セントラルキッチンで火を使わない構造。生ハムのスライサーもある。

撮影:小山安博

成長分野である「内食(家庭で調理し、食べること)」を見据えて、同社ではレストラン品質の味を簡単に家庭でも楽しめる冷凍食品「ロイヤルデリ」を本格展開している。

その販売も行う二子玉川店は、提供されるフードメニューはこのロイヤルデリをベースに、「Rakuten Ragri」と契約して100%オーガニック野菜などを使用。イタリア・パルマから取り寄せた「世界最高峰」(野々村氏)の生ハムを注文後にスライスして提供する。

食品業界のセグメント

内食市場が拡大するとともに、さまざまな産業がボーダレスに各市場に参入している。ロイヤルホールディングスも内食市場向けに新ブランドのロイヤルデリを投入する。店舗でも使うセントラルキッチン商品を家庭向けにも提供し、レストランの味をそのまま届けられるのが売り。

撮影:小山安博

ロイヤルデリ

2017年から一部で販売を開始していたが、2019年9月にブランドとロゴを決定。アジアでの販売も見据えて「あえてカタカナ表記にした」(野々村氏)という。

撮影:小山安博

ラインナップ

ロイヤルデリのラインナップ。今後ECサイトでの販売も行う。

撮影:小山安博

冷凍食品

GATHERING TABLE PANTRY 二子玉川店でも25品を販売。ECサイトの構築を行ったあとは、テーブルに置くタブレットでも購入できるようにしたい考え。

撮影:小山安博

支払いは“現金不可”。QRコード決済はテーブルで完了

注文用のタブレット

注文用のタブレットにも、まずはキャッシュレス店舗であることが表示される。

撮影:小山安博

1号店の馬喰町店と同様に、完全キャッシュレスの店舗となっており、現金での支払いはできない。店内でEdyカードを配布するほか、Edyチャージ機も店内に備えているので、必要であればチャージして支払いも可能。

店舗に入るとタブレットが手渡され、そこから注文できる。食事が終わり、支払いをする場合も、タブレットから実行。支払い方法の選択画面でコード決済を選択すると、そのままタブレットでカメラが立ち上がるので、指定したコード決済のQRコードを示せば支払いが行われる。

対応サービスは、楽天ペイ、LINE Pay、PayPay、d払い、Amazon Pay、Origami Pay、Alipay、WeChat Payだ。

注文用タブレット

タブレットで注文から支払いまで可能。

撮影:小山安博

店側のタブレット

注文が来ると店側のタブレットに表示される。

撮影:小山安博

会計表示

最終的に会計を選んで支払いを行う。

撮影:小山安博

支払い画面

支払い方法の選択画面。コード決済を選択すればその場で決済が行える。顔認証決済は一部の登録者だけ。

撮影:小山安博

コード決済を選択すると、店員が装着したApple Watchに通知が飛び、決済完了の通知も表示される。それを見て店員は決済完了を確認しているので、支払いを完了したらそのまま退店すればいい。

コード決済画面

コード決済を選択すると読み込み画面になるので、自分のスマートフォンに表示されたQRコードをかざす。

撮影:小山安博

Apple Watchに通知

店員のApple Watchにコード決済の開始、完了が通知されるので、わざわざ店員を呼ぶ必要もなく、決済が完了する。

撮影:小山安博

コード決済以外を選択した場合はレジでの支払いになるので、出向いてクレジットカードや電子マネーでの支払いを行う。

当初、馬喰町店ではハンディ端末を持った店員がテーブルまで来て会計を行っていたが、混雑時に待たせることがあったり、端末の反応などの問題があり、こうした方法に切り替えたという。

クレジットカードなどの場合

クレジットカードや電子マネーはレジで支払いをする。楽天ペイのmPOSが導入されている。PINパッドは客側にあるので、IC搭載クレジットカードは自分でカードを差し込んでPINを入力する。

撮影:小山安博

馬喰町店では当初クレジットカードの利用が多かったが、現在ではコード決済比率が3割に達したと野々村氏。二子玉川店では、さらに増えることを期待する。

コード決済の決済手数料が他の決済手段より低率ということもあるが、テーブルで決済が完了できるため、野々村氏はコード決済での利用を推奨する。

顔認証決済は楽天社員限定で実験

野々村彰人氏

ロイヤルホールディングスの野々村彰人常務。

撮影:小山安博

顔認証決済は、楽天社員などの一部関係者向けに試験が行われている決済システムだ。

2019年8月に行われた楽天のイベント「Rakuten Optimism」の会場で公開されていたもので、今回、このシステムをGATHERING TABLE PANTRYに試験導入。一般店舗では初めての試験となる。期間は2020年3月19日まで。

決済入力画面

顔認証決済の場合は、レジに行って店員に支払い額を入力してもらう必要がある。

撮影:小山安博

顔認証決済用タブレット

顔認証決済用にタブレットが用意されている。Edyチャージ機の上に設置される予定という。

撮影:小山安博

顔認証

顔認証自体は一瞬で行われる。

支払い時にタブレットで顔認証決済を選択して、読み込み用のタブレットの前に移動して顔認証を行えば、決済が行われる。楽天では、実店舗での支払いの検証を行うことで、顔認証決済の有効性などを検証したい考えだ。

これに対して、導入を決めたロイヤル側の思惑は「チェックレス」だと野々村氏は語る。店舗に入って出ていくだけで、途中で決済を行わないシステムで、アメリカの「Amazon Go」が代表格だ。

そうしたチェックレスが飲食店でも来年には導入が始まる、と野々村氏は見ている。なお、二子玉川に店舗を構えたのは、楽天本社が近いことと、顧客層を考慮した結果だという。

2020年には“チェックレス”が普及か

チェックレス

完全キャッシュレスが最終形態ではなく、さらに進んでチェックレスを見込んで取り組みを続ける。

撮影:小山安博

GATHERING TABLE PANTRYは2017年に東京・馬喰町に「研究開発店舗」としてオープン。完全キャッシュレスを導入したが、これは「店長の負荷軽減のため」(同)というのが主な目的だったという。

2018年にはコード決済を導入して顧客の体験価値向上を図ったが、2020年にはチェックレスが始まるとの予測から、それに向けた準備として顔認証決済を試験導入することとなった。

新たな決済手段に積極的に対応することで、来たるべくチェックレス時代に対応できるように知見を集めていくのが同社の戦略で、顔認証決済以外にも今後必要に応じて決済手段を検討していく考えだ。

同店では、予約・顧客台帳サービスの「TORETA」も導入。事前予約客から得た情報から、次回来店時にその客に合わせたサービスを提供するなどの体験価値向上も狙うほか、店内と本部を双方向につなぐオンライン会議システム「Zoom」も導入。店舗とのコミニュケーションが密になった、という。

導入するテクノロジー

各種のテクノロジーを導入し、効率的で魅力ある店舗を目指す。

撮影:小山安博

馬喰町店では、店長の管理業務が労働時間の20%から5%に削減され、調理や顧客に向き合う時間が増えた、と野々村氏。

レジ締め作業が不要なため、店長が不在でも閉店作業ができるなど、社員の業務効率が向上するなどのメリットが生まれているという。

外食産業は、少子高齢化や中食、内食の拡大もあって、苦戦を強いられている。そうした中、同店ではさまざまなテクノロジーを導入していくことで、効率的で魅力ある新たな店舗運営の形を模索していく。

(文、撮影・小山安博)


小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。

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