「特務機関NERV」仕様の防災ハイブリッド車両が生まれた理由 ── ITベンチャーが三菱自動車、スカパーJSATとコラボ

防災自動車の前に立つ責任者

防災自動車の前に立つ三菱自動車工業、ゲヒルン、スカパーJSATの責任者。

撮影:小林優多郎

「特務機関NERV(ネルフ)防災アプリ」を提供するサイバーセキュリティーベンチャーのゲヒルンと、三菱自動車工業、スカパーJSATは、3社が共同制作した災害に備えるプラグインハイブリッド車「特務機関NERV制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」を2月1日に運用開始すると発表した。

5LA-GG3W(改)は、三菱自動車の「アウトランダー PHEV」をベースにしたもの。アウトランダー PHEVが持つ13.8kW/hの大容量バッテリー、2基の高出力モーターなどはそのまま備える。

 5LA-GG3W(改)

5LA-GG3W(改)は初号機と弐号機の2台体制。それぞれ、運用される拠点が違う。

5LA-GG3W(改)は、アウトランダー PHEVの標準的な機能に加え、人気アニメ作品「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズに登場する組織・特務機関NERVをモチーフとする、ゲヒルンの防災アプリをイメージした塗装と、スカパーJSATの衛星通信サービスに接続するためのアンテナやモデム(初号機のみ)、内閣府の衛星安否確認サービス「Q-ANPI」を搭載する。

今回制作されたのは初号機および弐号機の2台となり、初号機はゲヒルンオフィスのある東京エリアでの運用、弐号機は札幌エリアでの運用を予定している。まずは、その特徴的な車体を見てみよう。

こちらが初号機。公用車を思わせる真っ黒なボディーだ。

初号機

左右の側面には「特務機関NERV」のロゴと文字、協力各社のロゴが並ぶ。

初号機 側面

後方にはアウトランダー PHEVとNERVの文字。

車両後方

車載バッテリーへの充電の様子。家庭向けのAC200V・15Aの普通充電と、充電ステーションなどに配備されている急速充電の両方に対応する。

バッテリー充電

初号機の上部には平面型衛星アンテナ「KYMETA u7」を搭載。物理的な方角調整がなくとも衛星との安定した通信が可能。

KYMETA u7

ちなみに、弐号機には衛星アンテナは載っていない。主な理由は「予算の都合」とのことだが、壱号機とは別の運用の仕方を検討しているようだ。

弐号機の上部

初号機と弐号機の違いは、アンテナの有無に加え車体側面のロゴでも確認できる。

弐号機のロゴ


車載されるQ-ANPIのキット。日本の準天頂衛星システム「みちびき」に接続し、被災地の安否情報のやりとりができる。

Q-ANPIのキット


「社会的役割が増してきた」とゲヒルン

概要のスライド

プロジェクトの概要。

防災アプリや災害情報を扱うIT企業であるゲヒルンが、リアル世界の車両を導入する理由は、災害時の事業継続性を確保するためだ。

2018年に発生した北海道胆振東部地震では全道での大停電が発生。また、直近では2019年に台風15号により千葉県を中心とした停電が発生するなど、災害と停電は切り離せない関係にある。

石森大貴氏

ゲヒルン社長の石森大貴氏。

当然、ゲヒルンの拠点でも停電が発生した場合、PCなど各種機器や通信自体も不通になってしまい、防災サービスの停止に陥る。

ゲヒルン社長の石森大貴氏が個人プロジェクトとして運営する特務機関NERVのTwitterアカウントは、82.8万(2019年12月23日時点)のフォロワーがいる。アカウント運営に技術協力するゲヒルンは、5月には気象庁から予報業務許可の免許取得、大雨・洪水警報の危険度分布の通知サービス協力事業者としての選定も受けるなど、サービスとしての重要性が増してきている。

そのような背景もあり、ゲヒルンは「社会的役割が大きくなってきた」(石森氏)と判断。自社独自で災害時も電源・通信環境を確保するために、5LA-GG3W(改)の制作に着手した。

災害時は避難所での活用も視野に

Q-ANPI

Q-ANPIによる避難所の避難者や運営者向けのサービスも行う。

なお、災害発生時にゲヒルンの拠点に影響がなかった場合、5LA-GG3W(改)は避難所などの重要拠点に配備される計画だ。

近隣自治体とも協力し、避難所などでWi-FiサービスやIP電話サービス、携帯電話などの充電・給電サービスを提供。また、Q-ANPIを活用した安否確認業務も行い、各防災機関との連携も図る。

石森氏は「経済産業省とは直接関係ない」としつつも、経産省が11月29日に公表した「災害時における電動車の活用促進に向けたアクションプラン案」に関するリリースに触れ、「5LA-GG3W(改)が、電動車の整備を進める中での1つのモデルケースになれば」と公益性についても語った。

災害大国とも言われる日本で、政府や自治体、巨大なインフラ企業だけではなく、こうした民間企業の取り組みが行われていることも、ぜひ注目していきたい。

(文、撮影・小林優多郎)

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