飛行機の窓から見る紀伊半島。
撮影:伊藤有
2019年11月中旬〜12月初旬、Business Insider JapanとカヤックLivingは、紀伊半島の3拠点で読者参加型のリモートワーク実験を開催した。 「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」 と題して、一般参加者の皆さんと編集部の複数名が参加する大規模なものだ。
僕が参加したのは11月末〜12月初旬。南紀白浜空港からクルマで25分という、都市圏アクセスが極めて良い地域「田辺」(紀伊田辺駅周辺)でのワーケーションだ。
ワーケーションとは、リゾート先などの非日常環境で、休暇を取りながら働くことを指す。
個人的にワーケーションが気になっていたのは、取材でアムステルダムに行った際、取材先企業の文化として「ブリージャー」(ビジネス+レジャーの造語。出張先で休暇を織りまぜること)を推奨しているという話を聞いたから。
休暇をとっても、あまり「フルで仕事をオフしたいとは思わない」僕としては、半分仕事+半分アソビでリラックスするのは性に合ってるかもしれないと思ったからだ。
羽田から2時間以内で到着するワーケーションリゾート?
南紀白浜空港のゲートを出た目の前にあった、電動バイクベンチャーglafitの車両展示。和歌山の地場ベンチャーだ。
撮影:伊藤有
リモートワークにせよ、ワーケーションにせよ、実行するには現地で環境が用意されている必要がある。
具体的には、「非日常感のあるイイ感じの地域」と「仕事後のリラックス」と、なにより「集中して仕事ができる環境」だ。
田辺の「出張編集部」として訪れたのは2カ所。地元企業の高垣工務店が運営する「シリコンバー」と、「SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE」(ホテルシーモア)の2つだ。
アレンジは、カヤックLivingのメンバーと、プロジェクトの現地コーディネーターをしてくれたクリエイターを中心とする地域支援集団「TETAU(テタウ)」の皆さんが担当してくださった(感謝!)。
滞在期間後半に和歌山市内の取材があったため、紀伊田辺駅周辺での滞在は都合2日間。それでも、昼は移動しながらリラックスできる環境で集中して働き、夜はイベント「ポットラックパーティー」。リラックス×集中×出会いが一気に得られる、密度の濃い時間を過ごすことができた。
地元企業の高垣工務店が運営するコワーキングスペース「シリコンバー」。外観は大きな工務店の建物そのもの。出入り口には、利用者を歓迎する看板がある。
撮影:伊藤有
シリコンバーの内部。Wi-Fi、電源完備。こんなふうに、編集部、リモートワーク実験参加者、カヤックリビングの担当者も一緒に室内でリモートワーク。昼時になったら、クルマに相乗りして一緒に食事へ、という流れ。
撮影:伊藤有
テック業界にいると「シリコン」と聞けばシリコンバレーを思い浮かべる程度のシリバレー脳になっている僕ですが、ここでいうシリコンは「知理混」。
撮影:伊藤有
金曜の夜には、参加者、地元の人々、コーディーネーターの関係者などが集まったイベントも。この日は、宿にしたホステル「THE CUE」併設のレストランで、地場のみかんを種類別に食べ比べするという贅沢な企画で大いに盛り上がった。
撮影:伊藤有
ホテルシーモアの「無限足湯ワーク」が最高だった話
ホテルシーモアの玄関。
撮影:伊藤有
冒頭書いたように、ワーケーションをするには、働くに適した環境がないと難しい。
もちろん、ぶらりと入ったカフェでPCやノートを開いてもいいわけだけど、よっぽど理解のある場所でもなければ、長居をするのは気がひける。Wi-Fi環境や電源環境が整っていない場合も、まだまだ日本国内では多い。
そんなことを思いながら行った中で、「ここにはまた別の機会に必ず戻ってこよう」と強く思ったのが、「SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE(ホテルシーモア)」だった。
現地の足になったビジネスインサイダー号(レンタカー)。クルマがあると活動範囲が大きく広がるので、ワーケーションには欠かせない。
撮影:伊藤有
ホテルシーモアは海辺に位置するリゾートホテルで、南紀白浜空港からはクルマで10分弱。広くてモダンなロビーには「TETTI BAKERY&CAFE」という焼きたてのパンやコーヒーが買えるカフェがあり、同じエリアには壁で区切られた集中部屋「ビジネスラウンジ」(ビジネスルーム)もある。
カフェでたっぷりパンとコーヒーを買い込んで、ビジネスラウンジに入ると、目の前に巨大な足湯コーナーが見えた。
ホテルシーモアのビジネスラウンジ。ロビーと隔てる格子から外を見ると、プールのように広大な足湯が見えた。
撮影:伊藤有
「これだ!」と思って、すぐに直行。時間は午前11時。当日の気温は13度。海風もあるので、ちょっと寒い。
けれど、ダウンジャケットを着込んで足湯、というこの環境は、とにかくサイコーだった。どれくらいサイコーなのかは、この写真を見てもらえれば。
ブールのように見えるが、足湯。足元ぽかぽか、頭はきりっと冷えて思考が冴え渡る。
撮影:伊藤有
この体勢で1時間以上、足湯に浸かりながら資料をまとめたり、原稿を編集したり。集中作業でめちゃくちゃ捗った。手が冷たくなったら、足湯に1分くらいつけて温める。
撮影:伊藤有
この借景を独り占めできるってだけで素晴らしいとしか言いようがない。
撮影:伊藤有
靴下を脱いで、くるぶしまで足湯につかりながら、上着はダウンジャケット。膝にはノートPC。目の前には紀伊半島の海が広がり、雑音は何もなし。めちゃくちゃ集中できる。なんというか「整う」っていう感覚だ。
ビジネスの物事を整理するために深く考える時間が必要だったり、視点を変えて見つめ直したい、なんていうときにはぴったり。あと。長〜い原稿に気を配りながらまとめたいときも。
これだけリラックスできる環境で、しかもお腹が減ったらパンを買いに行けばいいし、しっかり食べたければ屋内にレストランもある。
こういう環境をスポットで体験してしまうと、自動的に「次は宿泊に来ないと」という気分になる。
ワーケーションに必要なのは、適度な非日常と、「静かな空間」のバランス
朝、リビングにみんなで集まって近所のパン屋で買ってきた朝食を頬張りながら黙々と仕事中の風景。
撮影:伊藤有
ホテルシーモアや、冒頭に書いたコワーキング施設「シリコンバー」で仕事をこなし、夜はリモートワーク実験参加者の皆さんと地元の店で食事。
そこで出た話題でちょっと考えさせられたのは「ワーケーションには実は不向きな地域もあるよね」という話。
「リゾート地として充実しすぎている地域は、観光にはよくても、実はワーケーションに向いてないのでは」と、ある人が言った。
これは自分でも納得するところがある。あらゆる観光アクティビティーがあって、個性派ぞろいのレストランも徒歩圏内で充実していて、遊ぶ場所もたくさん……いわゆる生粋のリゾート地だと、正直言って魅力的な遊びが多すぎて、目移りして仕事にならないのだ。
かといって、本当に何もない山奥に行くというのも、それはそれで別の目的意識がいる。特に日中を半分仕事で過ごしてると、ナイトスポットがないと、なんとも寂しい。
紀伊田辺駅周辺は、居酒屋やスナックがとても多くて、ナイトスポットは非常に充実している。人口7万人の町とは思えない。
撮影:伊藤有
紀伊田辺駅前のバー「Oct」。右のカウンターにいるマスターとは、現地の宿にしたThe CUEで出会った。こういう夜の出会いも、遠隔地でワーケーションする楽しみの1つかもしれない。
撮影:伊藤有
地元の人たちのきちんとした生活があって、そこで暮らすように溶け込めて、外部から「半分休暇・半分仕事」に来るような人を受け入れる土壌がある場所、というのは、実はなかなか難しいのかもしれない。
都市圏にはコワーキング施設がたくさん増えているけれど、日本全国津々浦々というわけではない。
そういう意味で、田辺は適度に人口があり(約7万人)、観光地としても見どころがあり、空港から近く(東京からなら2時間以内でホテルにつく)、そしてクルマで少し走れば静かな場所がいくらでもある。風景も綺麗だ。
限りなく非日常なサバイバル的ワーケーションも楽しいけれど、都市生活の延長線上で体験できるワーケーションという点では、田辺というのはなかなか良いバランスの地域なんじゃないか。
参加者の皆さんと話していて改めて感じたところだ。
(文・伊藤有)