前ウクライナ大使をツイートで脅迫したトランプ大統領。元米高官が日本で語った「民主主義の現在」

ウクライナ 疑惑

米下院情報委員会が提出した「ウクライナ疑惑」に関する調査資料。

REUTERS/Jim Bourg

以前、筆者とともに米セントルイス大学で行われたパネルディスカッションに登壇し、それから交友を深めてきた米通商代表部(USTR)元大使のアイラ・シャピロ氏が、筆者が代表を務める国際コンサル企業クレアブで講演してくれた。

民主党、共和党の両政権に仕えた中立派であるシャピロ氏の、民主主義をめぐる重い言葉に深い感銘を受けた。

「世界はいま、アメリカの民主主義とは何かをしっかり見ておく必要がある」

詳細をお伝えする前に、同氏がそうした発言をするに至った経緯を説明しておこう。

アメリカ下院は12月18日、トランプ大統領の弾劾訴追の決議案を可決した。

トランプ大統領がその強大な職権を用いて、政敵であるバイデン元副大統領を追い落とそうとした「権力乱用」と、議会による疑惑調査を妨害するよう政権幹部らに指示した「議会妨害」が、弾劾の理由だ。

アメリカの憲法では「反逆、収賄、その他重大な犯罪または非行」を犯した大統領は、(下院・上院の弾劾裁判で有罪となれば)罷免できる。

公聴会では「トランプ大統領の指示」が明確に

トランプ ゼレンスキー 大統領

2019年9月、ニューヨークでの第74期国連総会開催中に会談したウクライナのゼレンスキー大統領(左)とトランプ大統領。

REUTERS/Jonathan Ernst

発端は、米情報部門の職員が2019年8月に監察官に宛てて送った内部告発だった。

告発状には、トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談した際、バイデン氏とその息子に関する汚職疑惑の調査を依頼したことが記されていた。バイデン氏の息子ハンター氏は、ウクライナのガス会社の役員だった。

下院情報委員会の公聴会で国務省高官が行った証言によって、ソンドランド駐EU大使(2016年選挙でトランプ氏をサポート)が、トランプ大統領から直接指示を受けて動いたことが明らかとなっている。

ウクライナ ソンドランド EU 大使

公聴会で「トランプ大統領の指示で、(大統領顧問弁護士の)ジュリアーニ氏らと動いた」と証言したソンドランド駐EU大使。

REUTERS/Jonathan Ernst

同国務省高官は、ソンドランド氏がトランプ大統領への電話で「(ウクライナの)ゼレンスキー大統領は、トランプ氏のためなら何でもやる」と語ったのを聞いたと証言。

ソンドランド氏自身も11月20日に公聴会で証言し、トランプ大統領の顧問弁護士であるジュリアーニ氏(元ニューヨーク市長)とともに、ゼレンスキー大統領に対し、バイデン氏の息子の関係する汚職調査への働きかけを行ったことを明らかにしている。

また、これまでの証言からは、国務省が(調査圧力による)ウクライナとの関係悪化を懸念していたこと、また、ボルトン大統領補佐官(当時)がジュリアーニ氏の存在を危険視していたことなどが、浮かび上がっている。なお、ボルトン氏はウクライナ疑惑発覚後に解任されている。

前ウクライナ大使をツイッターで「公開脅迫」

ヨバノビッチ ウクライナ ツイート

ヨバノビッチ氏の証言中に、トランプ大統領のツイートが公開された。そこには「大統領には大使の任命権がある」とも書かれていた。

REUTERS/Jonathan Ernst

公聴会で証言したうちの一人で、任期終了前にウクライナ大使を解任されたヨバノビッチ氏は、「ジュリアーニ氏の進言により、トランプ大統領に罷免されたと思う」とした上で、自分の外交官としてのキャリアがこういう形で終わるのはきわめて遺憾だと述べている。

トランプ大統領はこのヨバノビッチ氏の証言中に、信じがたい行動に出た。

ヨバノビッチ氏が赴任する先はどこも失敗ばかりだ。初任地のソマリアはその後どうなった?」などと前大使を誹謗中傷するメッセージをツイートしたのだ。

公聴会の会場でツイートを知ったヨバノビッチ氏は表情を歪め、「とても脅迫的だ」と発言。その瞬間の映像は全米に流れた。

ヨバノビッチ ウクライナ 大使

トランプ大統領の「とても脅迫的な」ツイートに顔を歪めた、ヨバノビッチ前・駐ウクライナ大使。

REUTERS/Jonathan Ernst

野党・民主党は、このツイートによる証言者への攻撃を、大統領弾劾の根拠とした「議会妨害」の一つとしている。民主主義国家の大統領による行為とは到底思えない。

トランプ支持はいまだに国民の5割近く

下院 公聴会 ウクライナ 疑惑

米下院情報委員会の公聴会では、数多くの政府高官が証言し、メディアの注目が集まった。写真中央の背中姿の人物は、ホームズ在ウクライナ米大使館政務参事官。

Andrew Harrer/Pool via REUTERS

下院による弾劾決議はこのあと上院に送られ、年明け1月6日には弾劾裁判が始まる。

大統領の罷免に至るには上院の3分の2の賛成が必要となるが、与党・共和党が過半数を占めているため、弾劾が成立する可能性は低い。造反を示唆している共和党の上院議員はいまのところいない。

下院公聴会後に行われたCNNの世論調査では、共和党支持者の87%が弾劾に反対している。民主党支持者で弾劾に賛成しているのは77%。アメリカ全体でみると、大統領弾劾に反対する声は43%で、世論はほぼ二分されていると言える。

このウクライナ疑惑に限らず、アメリカでは政党間の対立がこれまでになく激しくなっており、民主主義や法の精神といった従来重要視されてきた概念より、政党の支持という概念のほうが強くなってきているようにすら感じる。

下院が弾劾訴追を決議した日、トランプ大統領は50回ものツイートを投稿している。共和党の支持者たちは、テレビを見る間もなく、トランプ大統領から送られてくるメッセージに相づちを打っていたのだろうか。

米通商代表部元大使が日本で語ったこと

トランプ大統領

記者会見の席でウクライナ疑惑について答えるトランプ大統領。

REUTERS/Kevin Lamarque

アメリカの二大政党による政治システムは、健全な民主主義を支えるけん制機能を備え、現実的な政策論争を生む素晴らしい制度である。4年に1度行われる選挙は、予備選に始まり、約1年かけてオープンな議論が行われ、国民の直接選挙をベースに大統領を選ぶもので、質の高い民主主義を支えている ── 筆者はこれまでそう考えてきた。

ところが、12月12日付けの米ニューヨーク・タイムズによると、トランプ大統領が次期大統領選に向けた民主党候補との討論会に出たくないと側近に漏らしているようだ。

筆者が敬意を抱いてきたアメリカの民主主義は、いまも本当に生きているのだろうか。最近は疑念を抱きたくなることばかりだ。

冒頭で少しだけ触れた、USTR元大使のシャピロ氏が講演で語った言葉を、最後に紹介したい。

「トランプ大統領の政策には反対したくなるものが多い。しかし、彼は国民に選ばれて大統領になったので、そこには民主主義が存在している」

「しかし、今回のウクライナ疑惑は異なる。もし、大統領としての職権を個人の利益のために使ったとするなら、それは合衆国憲法の創設者たちが最も恐れていたことだ。上院での弾劾審理において、共和党の議員たちはアメリカの民主主義とは何かを考えなければならない。そして、世界はそれをしっかりみておく必要がある」

シャピロ氏の言葉からは、世界を魅了したアメリカの民主主義がいまなお健在であると感じられる。

とはいえ、第二次世界大戦後、世界に民主主義を広げることを大義として経済的・軍事的覇権を握ってきたアメリカが、いま大きく変化しようとしていることは紛れもない事実だと筆者は考えている。

いずれにしても、アメリカによる戦後レジームの中でこそ平和と繁栄を謳歌してきた日本にとって、アメリカの現在を「しっかりみておく」ことは、世界に対する一種の責務と言えるのではないだろうか。


土井正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社クレアブ代表取締役社長。山形大学特任教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年よりクレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学特任教授を兼務。

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