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未婚ひとり親世帯支援の背景に子どもの貧困、時代が求める多様な家族とは

母子

「寡婦控除」の改正が付け加えられた。2020年から、男女の控除額の差がなくなり、未婚出産のシングルマザーも対象となる。

撮影:今村拓馬

2019年はのちに振り返ったとき、日本社会の家族観に変化の訪れたターニングポイントとして記憶されるかもしれない。

2019年12月12日に自由民主党・公明党が決定した「令和2年度税制改正大綱」(大綱)には、「寡婦控除」の改正が盛り込まれた。

「寡婦控除」とは、夫と離別・死別した女性に対して所得税・住民税を軽減する制度である。現在の制度では、結婚後に離別・死別したシングルマザーは対象になるが、未婚で出産したシングルマザーは対象にならない

また、妻と離別・死別した男性に対しては類似の「寡夫控除」という制度があったが、女性の「寡婦控除」とは所得制限や控除額とは異なり、シングルファザーへの支援は手薄だった。

大綱には、2020年から、シングルファザーおよびシングルマザーに対して、婚姻歴の有無にかかわらず、同額の軽減を設ける方針が示された。一方、これまでシングルファザーのみに設けられていた所得制限(年収678万円以下)をシングルマザーにも適用することとなり、男女の条件もそろえられる

合意の背中を押した「子どもの貧困」への対処

少し寂しそうな子ども

大人が1人しかいない世帯の子どもの貧困率はなんと50.8%にも及ぶ(2015年時点)

撮影:今村拓馬

制度改正の背景にあるのは「子どもの貧困」への対処だ

政府は2013年に、子どもの貧困対策の推進に関する法律を制定し、25の指標を定めて改善を図っている。その中の指標のひとつが、17歳以下の子どもが属する世帯のうち、相対的貧困状態にある割合を示す「子どもの貧困率」であり、2012年時点の16.3%から2015年時点で13.9%まで低下した(厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」による)。

安倍首相は子どもの貧困率の低下をアベノミクスの成果と強調する一方、それでもなおOECD平均の13.1%(2016年時点)を上回り、国際的にみて高水準に留まる。なかでも、重い課題となっているのが、大人が1人しかいない世帯の子どもの貧困率が50.8%にも及ぶ(2015年時点)こと。ひとり親世帯への支援が急務となっていた。

公明党は以前から寡婦控除の見直しを主張しており、自民党の甘利明・税制調査会長も見直しに前向きな意見を表明していた。だが、自民党内での議論では「(男女の婚姻を基本とした)あるべき家族の姿を守るべき」「未婚の出産を助長すべきではない」との声が大半を占めた(2019年12月6日付朝日新聞朝刊4面より)。

一時は婚姻歴の有無により所得制限の基準を分ける案も俎上(そじょう)に載せられたが、稲田朋美自民党幹事長代行が「未婚のひとり親に対しても皆等しく、平等にすべきだ」(2019年12月13日付朝日新聞朝刊3面)と訴えるなど女性議員らの反発もあり、最終的に所得制限の金額もそろえられた。

日本の税制では、所得税の配偶者控除や配偶者特別控除、贈与税や相続税の各種の軽減措置などの適用要件に法律上の結婚を求めている。これまで法律上の結婚を重視してきた税制において、「寡婦控除」の改正は、多様な家族のかたちを認めた点で大きな転換と言える

社会保障制度は事実婚も認めてきた

夫婦

社会保障制度では事実婚の配偶者も扶養に入れられたり、遺族年金を受給することができるなどの規定が多数存在する。

撮影:今村拓馬

一方、社会保障制度では事実婚の配偶者も扶養に入れられたり、遺族年金を受給できたりするなど、「多様な家族のかたち」に配慮した規定が多数ある。しかも、そのルーツは最近のことではなく、平成、昭和のさらに前、大正12(1923)年の工場法改正にさかのぼる。

戦前の民法の下では、戸主(家長)の同意がなければ結婚できなかったり、家の跡取り同士は結婚できなかったりするなどの縛りがあり、夫婦になる合意がありながらも届出を行えず「事実婚」に留めることも少なくなかった。

工場法の改正では、労働者が労働災害で死亡した場合に工場主に遺族および「本人ノ死亡當(当)時其ノ収入ニ依リ生計ヲ維持シタル者」を扶養することを求め、事実婚の夫婦の生活も守ろうとしたのである

現在の厚生年金保険法の前身である労働者年金保険法が昭和16(1941)年に制定された際も、遺族年金の対象に事実婚の配偶者が明記されていた。

事実婚の配偶者にも遺族年金を支給する理由は、「互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者にこれを支給することが、遺族厚生年金の社会保障的な性格」や「労働者の死亡について保険給付を行い、その遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的」(※)に合っているためである。

(※)平成19年3月8日最高裁判所第一小法廷判決文より

自助が求められる時代に必要な家族の多様性

家族

少子高齢化が進む中で、多種多様な家族の「自助」を認める社会を作っていくことが、日本の社会保障制度を守ることにもつながる。

Shutterstock

現在、日本では少子高齢化が急速に進んでいる。年金・医療・介護などの社会保障給付費は2018年度現在121.3兆円だが、2040年度には188.2~190兆円にまで膨らむ見通しだ(※)。

社会保障制度を維持するためには、給付の効率化や税や社会保険料などの国民負担を求めるとともに、「自助」を支えることにより公的制度への依存を減らすことも求められている。

(※)内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)-概要-」(平成30年5月21日)における計画ベース・経済ベースラインケースの見通し

たとえ典型的な結婚のかたちでなくとも、ともに暮らし生活を支え合うことを望む人たちが結びつくことは「自助」の強化につながる。

例えば、公的年金は夫婦二人分の年金で夫婦二人の生活を賄うよう設計されており、単身世帯では生活保護費に満たないことも少なくない同性愛者二人が社会的に認められないために独身で過ごし老後にそれぞれ生活保護に頼ることになるよりは、その二人がともに暮らすことを社会が認めて万一の際の遺族年金などを手当てするほうが、その二人にとって幸福であるだけでなく社会保障費の面でも安上がりになる

少子高齢化が進む中で、多様な家族の「自助」を認める社会を作っていくことが、日本の社会保障制度を守ることにもつながるだろう。「寡婦控除」の改正を機に、民法、税制、社会保障などさまざまな制度について、多様な家族のあり方を認めるよう見直す時期に来ているのではないか。

(文・是枝俊悟)

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