令和の幕開けとなった2019年、Business Insider Japanから多くのヒット記事が生まれました。そんな注目の1本を紹介。
※本記事は2019年5月5日に公開した記事の再掲です
「ふつうの暮らし」で十分だけど、そのためにはリスク覚悟の投資でお金を増やさなきゃ——。そんな切実な思いを持つ若者が目立ち始めた。
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年金は本当にもらえるの?ウチの会社はいつまであるの……?
「まじめに働き、ちゃんと貯金していれば一生安泰」と多くの人が信じられた昭和も今は昔。「失われた30年」とさえ言われた平成を経て、全く先が見えない新しい時代を迎えた。
ふつうの暮らしができれば十分。でも、そのためにはリスク覚悟の投資でお金を増やさなきゃ——。そんな切実な思いを持つ若者が目立ち始めた。
月3万貯金しても30年で1000万。万一の時「自己防衛できない」
若い世代の投資ニーズを取り込もうと、アプリで手軽に株が売買できる「スマホ証券」の新規参入が相次いでいる。
撮影:庄司将晃
アマゾン、楽天……。さまざまな荷札が貼られた段ボール箱や小包がカゴ付きの台車で運ばれてくる。
首都圏の郵便局で契約社員として働く30代前半のショウさん(仮名)は、そうした荷物を手作業で仕分け、配送地域ごとの台車に載せていく。
ふだんは朝6時半から午後4時まで、この力仕事を続ける。年収は300万円ほど。休みの日は、両親と同居する自宅でゲームをして過ごすことが多い。
「早く実家を出て一人暮らしをしたいのですが、そうすると投資にお金を回せない。資産として不動産も持ちたいので、投資がうまくいってお金ができたら1LDKくらいの部屋を買いたい」
ショウさんが投資を始めようと一念発起したのは、30歳を目前にしたころ。貯金はほぼゼロだった。
「体調に不安があり、このまま40歳や50歳になったら大変な思いをするんじゃないか、と。万一働けなくなったら自己防衛の手段がないので。
月3万円ずつ貯金を続けたとしても、30年でやっと1000万円。利子はほとんどつかない。投資をやるしかないな、と」
当時はまっていたパチンコの回数を減らして「本気で貯金」(ショウさん)し、1年半で100万円貯めた。初心者向けのハウツー本を参考に、比較的リスクが低い投資信託の積み立て投資を始め、すぐに個別株の売買も手がけるようになった。
仮想通貨やFXのような「冒険」はしたくないけど…
積極的に株への投資に取り組むショウさんだが、「仮想通貨やFXはリスクが高すぎる。そこまでの冒険はしたくない」と冷静な一面も見せる。
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投資先は、口座を持つスマホ証券・スマートプラスのアプリで読める他のユーザーたちの口コミや、経済誌の記事を参考にして選ぶ。
最近は月々の手取り17万円ほどのうち、4万円くらいを株購入に回す。投信の積み立てに2万円、貯金に3万円ほどをあて、数万円を実家に入れる。個別株への投資残高は100万円ほどだが、ほぼ損益トントンだという。
「仮想通貨やFX(外国為替証拠金取引)はリスクが高すぎる。そこまでの冒険はしたくない。もちろん株や投信にもリスクはありますが、長い目で見て年2、3%くらいの利回りは確保したいので。
お金がかかる趣味もないし、自分の家があって、心配することなくふつうの暮らしができれば、それで十分なんです」
投資に積極的なのは40・50代より30代
30代の方が、さらに上の世代より投資に積極的——。そんな調査結果もある。
撮影:今村拓馬
「人生100年時代」と言われる一方で、年金制度の先行き不安がたびたび報じられる。非正規やフリーランスの働き手が増え、正社員の終身雇用も崩れつつある。超名門企業でさえ数十年先の姿は想像もつかない時代になり、右肩上がりの昇給はもう望めない。預貯金の金利はほぼゼロという状態も長く続いている。
スパークス・アセット・マネジメントによる2018年の調査で、「お金の不安」を感じる項目として20・30代が多く挙げたのは、「賃金・収入」「将来の生活設計」「老後の生活資金」だった。40・50代の回答も傾向はある程度似ているが、若い世代の方が、こうした不安を抱えながらより長期にわたるサバイバルを強いられるのは確かだ。
同じ調査によると、「投資の経験がある」「経験はないが、今後始めたい」と答えた人の割合の合計は30代が最も高く、若いころよりお金に余裕が出てくることも多い40・50代を上回った【図表】。
【図表】
スパークス・アセット・マネジメント「ビジネスパーソンの『マネ活』に関する調査 2018」より
実際、若い世代の投資ニーズを取り込もうと、アプリで手軽に株が売買できる「スマホ証券」の新規参入も相次ぐ。
ふつうに暮らしながら将来の「お金の不安」に自力で備えようとするだけでも、リスクを伴う投資が必要な時代になりつつあるのだろうか。
「45歳で資産1億、アーリーリタイア」が夢。でも…
「45歳くらいでアーリーリタイアしてバリ島に移住する」。これがダイスケさんの目標だが、ぜいたくな暮らしを望んでいるわけではない。
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東京都内の金融機関に勤める30代前半のダイスケさん(仮名)は5年ほど前から、手取り収入のうち生活費と海外旅行費以外のほぼすべてを個別株への投資に回している。
年収は700万円ほど。月35万円ほどの手取りから、株購入に15万円前後をあてる。
仕事柄、経済ニュースには敏感だ。「5G基地局」「空気電池」といった旬のテーマに関連する銘柄のなかから、PBR(株価純資産倍率)や配当利回りといったデータも参考に投資先を選ぶ。直近の投資残高は1千数百万円規模で、100万円単位の利益が出ているという。
「今の会社がつぶれるんじゃないか、という心配はしていません。国の年金制度に不安はありますが、このまま定年まで勤めれば退職金も企業年金も出るはずなので、ふつうに暮らす分にはそれで十分でしょう」
では、なぜそこまでリスクを取って投資に取り組むのだろうか?「45歳くらいでアーリーリタイアしてバリ島に移住する」という目標があるからだ。
お金が目的になると「おかしな方向」へ
「お金はあるに越したことはないですが、自分が楽しいと思う暮らしを実現するための手段にすぎません」。ダイスケさんの価値観は明快だ。
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自炊が基本。お酒はほとんど飲まないので友人と外食してもそんなにお金はかからない。私服も大して買わない。独り暮らしの1Kの部屋には会社の家賃補助も出ている。
唯一、ダイスケさんが情熱を傾けている趣味がサーフィンだ。「波がすごくいい」とほれ込んだバリへの年3回のサーフィン旅行が、プライベートの出費の大きな部分を占めている。
アーリーリタイアに向けた資産形成の目標額は1億円。大金とはいえ残りの人生の長さを考えれば、とてもぜいたくな暮らしはできない。
「サーフィンさえ思い切り楽しめればいい。後はふつうにご飯が食べられて、毎日お風呂に入れれば満足です」
万一、投資で大失敗したら?資産は大きく減っても借金を抱えるわけではない。定年まで今の会社で働き、後は退職金や年金で質素に暮らせばいい。そう割り切っている。
「お金持ちの世界というのがあるのかもしれませんが、魅力は全然感じません。僕の友達は高いお店には誘いにくいですし。
お金はあるに越したことはないですが、自分が楽しいと思う暮らしを実現するための手段にすぎません。単なる手段が目的になってしまうと、おかしな方向へ行ってしまいますからね」
(文・庄司将晃、写真はすべてイメージです)