「男女格差、世界121位」になぜかイラつく男たちが続出。原因はメディアの呪いにあった?

男女格差(ジェンダーギャップ)が過去最低の121位に転落した日本。原因は“マッチョ”で“ホモソ”なメディアにあった? 『足をどかしてくれませんか。——メディアは女たちの声を届けているか』を刊行したばかりの小島慶子さんに話を聞いた。

「イヌみたいに子どもを産まれたら困るよ」

小島慶子

“マスゴミ”と呼ばれて久しい昨今。ジェンダーギャップ121位の国のメディアの責任を、小島慶子さんと考えてみた。

撮影:今村拓馬

世界経済フォーラム(WEF)の「男女格差(ジェンダーギャップ)報告書」で、日本は153カ国中121位と過去最低を記録。特に女性の政治参画が144位と足を引っ張った形だ。経済も女性管理職比率の低さなどが影響し115位だった。

BI:今回の順位の低下、率直にどう感じましたか。

小島:かなりガッカリしましたね。身近で良い変化を感じることもあったので、社会構造とのギャップをまざまざと見せつけられた感じ。政治権力や経済的な意思決定をしている人たちは、こうした変化に関して何の影響も受けない、微風すら吹かない場所にいるんだなと。

BI:良い変化とは?

小島:テレビの収録で明らかにスタジオの空気が変わってきてるんですよ。この2年くらい、バラエティ番組の収録などで「セクハラポリス」を続けてきたんです。まずい発言があれば都度「それセクハラですよ」と注意して。

初めはそんなこと言う奴は「イタイ」し、乗っかってもどうせOAには使われないから誰も味方してくれなかった。でも今はセクハラ発言に私と同じように指摘したり、「俺、今のセクハラだったかなぁ?」とタレントが自分で反省する場面も増えています。

正直、みんなが心を入れ替えたわけではないと思うんですよ。でも、こう発言した方がネットでも支持されるという、時代の“風”を読んでるんだと思います。本心ではなくとも「どんな態度が正解なのか」というトレンドを変えることが大事。それこそがメディアの役割だとも思うので、そこに少し希望を感じていたんですが……。

足をどかしてくれませんか

タイトルの『足をどかしてくれませんか』は女性差別解消のために闘う、アメリカ連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)判事のドキュメンタリーから。

撮影:今村拓馬

『足をどかしてくれませんか』は小島さんはじめ、NHK記者、東大教授、ジャーナリストなど複数の女性たちによる執筆だ。共通点はメディアで働く、またメディアやジェンダーを研究対象にしていること。Business Insider Japanもオンライン上での女性に対するハラスメントについて書いている。

中には、「記者なんだから、イヌみたいに2人も3人も(子どもを)産まれたら困るよな」「24時間働けない人は『B級労働者』」「子宮を取れ!」など、全国紙やキー局で働く子育て中の女性たちが現場で浴びせられたという衝撃的な言葉が並ぶ。ど直球のセクハラ、マタハラ、パワハラだ。

「女性活用」がテーマのイベントに登壇依頼をした男性から「被告席に座るということか」と聞かれた人も。保育園問題、セクハラや性暴力、家事分担……今取り上げるべきだと思うテーマをデスクに提案しても通らない、記事(企画)にならない、歪曲され、果ては炎上……。

さまざまな葛藤を抱えたメディアの女性たちのがここ数年、どのようにネットワークをつくり、連帯してきたかが克明に記されている。

時代遅れの「本音を言えちゃう面白さ」は呪いだ

小島慶子

撮影:今村拓馬

小島:特にテレビが人権意識をアップデートできないのって、1980年代以降受け継がれてきた「非常識でないと面白くない」という呪いにとらわれているからだと思うんです。

これはそもそもは高学歴サラリーマンである社員スタッフのコンプレックス、つまり叩き上げのクリエイティブな才能に対する強い憧れの裏返しではないかと思います。優等生だけどバカもできるぜ、と証明したくて限度を超えるというか。

この「差別も容姿いじりも何でもアリ」という感覚が、長い期間をかけて、バラエティだけではなく情報・報道番組などあらゆる方面に浸透してきたんじゃないかと。

BI:安全な会議室からマイノリティに矢を放っているようで、卑怯だなと思います。

小島:矢を放っているという認識すらないんじゃないかな。マイノリティに関する知識がなく、現状認識ができていない。単に、普通の人が遠慮して言えない本音を言えちゃう僕たち、面白くない? というテンション。だから「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」が約30年ぶりに世に出ちゃったわけです。

メディアとして空気を読めている、むしろ世論を作り出しているという驕りが作り手にはあるけれど、現実は完全に置いていかれている。

超マッチョでホモソーシャル(男性同士の連帯)で年功序列、そんな会社に対する忠誠心の方を、視聴者や社会に対する責任よりも優先している。給料も高く雇用も安定していて、社会の変化についていくよりも組織になじむ方が出世する仕組みなんですよね。

雑踏

撮影:今村拓馬

2018年から19年にかけて民放労連が調査したところ、在京テレビ局の報道、制作、情報制作部門の局長に女性は一人もいなかった。 新聞・通信社の女性記者は21.5%だ(2019年、新聞協会調べ)。

マジョリティがマジョリティであることに無自覚で、偏りや歪さに気づかないのがメディアの現状。打開するため、本の執筆者たちはこれまで何度もシンポジウムを開いてきた。

前出の「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」は、フジテレビ系で2017年に放送された「とんねるずのみなさんのおかげでした」30周年を記念した特別番組中、番組初期の人気キャラクターとして登場。男性同性愛者を差別する表現で大きな批判を集め、社長が謝罪した。

小島さんらは当時、抗議文を提出して同社幹部と意見交換会を行ったLGBTアクティビストを登壇者に招き、どのような対話が行われたのか聞いている。『週刊SPA!』の「ヤレる女子大生RANKING」に抗議して編集部と話し合いの場を設けた山本和奈さんも登壇した。

「吠える」「噛み付く」と言われて

小島慶子

撮影:今村拓馬

BI:普段からコラムやSNSでもメディアの問題提起をされています。本に書かれていた退社日にTBS男性幹部から言われたことや、最近の収録台本に書かれていたことなどは驚きました。批判によるハレーションはないですか?

小島:もともとネットで“エゴサ”をしないし、Twitterのリプライもフィルタをかけているので平和です(笑)。現場で嫌なことを言われたり、仕事に影響が出ることもないですね。自分が出演した番組のOAを全部見られるわけではないけど、 見た人から「よく喧嘩してましたね」と言われることも多くて、どんな編集になってるのかな?どんなテロップ入れたんだろ?と思うことがあります。

意見をハッキリ言う女性、組織や体制を批判する女性は「吠える」「噛み付く」「イタイ」「毒舌」などと“キャラ付け”されて、そういう“箱”に入れられがち。そちらの方が根深い問題ですよね。

BI:異質なものとして扱うことで、マジョリティはそうじゃないと印象づけたいんですかね。

#MeToo

撮影:今村拓馬

小島:スポーツ新聞とかが女性の発言を取り上げるときに「吠える」「噛み付く」と書いて、普段から撮り溜めてる中で一番感じ悪そうな写真を使うじゃないですか。女性がただ意見を言うだけで、あってはならないものだとラベリングしてる。これは女性にものすごい負荷を与えてますよね。

ローラさんが沖縄の綺麗な海を守りたいと言っただけであんなに叩かれるんですよ。若い女性は何も言えなくなります。もうこんなことは本当にやめないと。

ローラさんが沖縄・辺野古への米軍基地移設計画に関するインターネット署名への協力を呼びかけ、バッシングされたことは記憶に新しい。最近ではブルゾンちえみさんの環境問題への発言が同じように中傷されている。

メディアの大きな役割は権力の監視だ。しかしその監視の目は「男性性」という権力によって生まれる、女性への偏見や差別に注がれてこなかった。その流れを変えたのは、世界で起きた#MeToo だ。本書では、韓国と日本の#MeToo 報道の違いを、放送尺、記事本数、関連法案の発議数などのデータを元に分析している。

男に女をいじめさせて得をするのは誰?

雑踏

撮影:今村拓馬

小島:1つ解決しないといけないと思っているのは、男性の被害感情です。ジェンダーギャップ121位を伝える報道に「女性にやる気がないだけ」「幸福度調査では女性の方が上なんだからいいだろう」という意見が寄せられていました。

生きづらさを抱えた男性が、その原因を作っている人間に抗議することを諦めて、より弱い立場の女性を攻撃している。この状況で誰が得をすると言ったら、男性に女性をいじめさせておいて、その男性を酷い形で働かせ続けることが可能になっている経営者や政治家ですよ。

女性は男社会の周縁にいるので、声を上げるのに時間はかかりましたが、「こんなのおかしい。変えていくべきだ」と言えるようになってきた。でも直接、男社会で自分の上位にいる人間から圧をかけられている男性は、女性以上に物が言えないのかな。

本当はこうした問題こそメディアが報じないといけないんですが、そのメディアが究極の男社会だから、構造的に捉えることができないという堂々めぐりです。

BI:表面的に報じて「フラリーマン、かわいそう」とかになってますよね。そして「逆差別」「女尊男卑」という世論を盛り上げる。

小島:それが心地いいと思ってしまうメディアの作り手の問題ですね。女性の生きづらさを知るために社会の構造を知ろうとしつこく言っていかないと、すぐ「うるさい女にとっちめられる男」という安易な文脈になっちゃうから。

そのためにもマッチョじゃない、マッチョな働き方ができない人を業界に増やすことが大事だと思います。男女共に。個人的な動機がないとどうしても難しい部分もありますから。

勝ち組女性としての自分に向き合う

小島慶子

撮影:今村拓馬

BI:男女共に、ですか。

小島:はい、女性を増やすだけでなくて、育児や介護や病気治療と仕事の両立を経験している男性を増やすことも大事だと思います。それに、マッチョな価値観は何も男性特有のものではないんですよね。

私は夫が無職になった時に、「誰のおかげで食べていけてると思ってるんだ」と言ってしまったんです。まさか自分がそんなこと言うとは思わなかったから、ショックでしたね。

私は東京で一部上場企業に勤める父と、専業主婦の母のもとに育ちました。この言葉はかつて父が私に言ったことです。「稼ぐ男こそが偉い」という醜悪な価値観を、強者としての振る舞いを、私もしっかり内面化していた。

これは私だけでなく、いろいろな立場の女性が潜在的に抱える問題ではないかと思います。女性自身も自分の価値観を見つめ直す作業が必要です。

男女共に生きづらさを抱えています。その原因を解明して、共通の立ち向かうべき課題があるんじゃないと問いかけていくことが、今のメディアには何よりも必要です。

メディアの女性も高学歴高収入の「勝ち組」として、取材対象の偏りなどを指摘されることも多い。誰かの足を踏んでいないか、1人1人が考える必要があるだろう。

小島慶子(こじま・けいこ):エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。学習院大学法学部卒。1995年TBS入社。アナウンサーとしてテレビやラジオに出演 。 1999年第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞 。2010年退社以後はメディアへの出演、執筆、講演活動を行う。ハラスメントをなくすためのプラットフォーム#WeTooJapanサポーター。『AERA』他連載、著書多数。近著に対談集『さよなら!ハラスメント』

(構成・竹下郁子)

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