1日食費300円、週5バイト、大学除籍も…大学生ら6000人中3割が仕送り・小遣いゼロの現実【令和ヒット記事】

令和の幕開けとなった2019年、Business Insider Japanから多くのヒット記事が生まれました。そんな注目の1本を紹介。

※本記事は2019年7月1日に公開した記事の再掲です 。


大学進学などの進路を決める際、約6割の学生が「学費」を判断基準にしていることが、学生団体の調査で分かった。 大学進学をあきらめて働いている、学費が払えず除籍になった、バイトと勉強で毎日2時間睡眠、学費値上げの撤回を大学に要求している……。

全国の大学・専門学校から集めた声は実に7449人。

学費が無償になったらしたいことは「1日の食費を300円から増やす」「病院に行きたい」という学生たちの、リアルな日常は——。

大学も就活も「学費」が影響

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⾼等教育無償化プロジェクト・FREEのイベントにて(東京都新宿区)。

撮影:竹下郁子

調査を行ったのは、学費値下げと奨学金制度の改善を目指して活動する学⽣アドボカシー・グループ「⾼等教育無償化プロジェクト」、通称「FREE」だ。

インターネットや知人のつてを通じて行ったというアンケート調査には7449人が回答(6月23日時点)。うち、6226人分を集計した速報値を紹介する(小数点以下切り捨て)。

大学(専門学校)や学部を選択するにあたって学費を判断基準にしたかという質問には、「非常にした」25%、「少しした」33%と、約6割の学生が進路を選ぶ際に学費が影響していることが分かった。

また、アルバイトをしている学生は84%で、33%が仕送りや小遣いがゼロだと回答した。

2.7人に1人の学生が利用している(2017年度・日本学生支援機構調べ)奨学金の影響も大きく、FREEの調査では3割以上が将来の進路を考える上で学費や奨学金の返済による影響があったとしている。

アルバイトで勉強できない

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学費を稼ぐためのアルバイトで体調を崩す学生も(写真はイメージです)。

GettyImages/Rika Hayashi

全国の学生たちから寄せられた声を、いくつかの課題に分けて紹介する。

1.大学進学を左右するのは「学費」

「私の妹は絵(イラスト)を学びたいという希望があったけれど、専門学校の学費が高く、母子家庭の収入では支払いが困難だったため、進学を諦めて働くことを決めました。姉である私がまだ大学院で学ばせてもらっているのに、妹に夢を諦めさせてしまったことが本当に苦しくて悲しい」(中央大学大学院・経済学研究科)

二部に入ったのは学費の問題。学費が安ければ、もっと可能性があった」(東洋大学・社会学部)

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学費無償化や給付型奨学金は多くの国で議論されている。

出典:⾼等教育無償化プロジェクト『FREEについての5W1H』より

2.学費・生活のための「アルバイト」で悪影響も

「学費を払うために深夜の夜勤バイトをせざるを得ず、体調を悪化させながらも働いている。体調が悪化し大学の授業を休まざるを得ないときもあり、学生生活に支障をきたしている」(立教大学大学院・経済学研究科)


バイトを週5で行っており、体力・睡眠時間ともに削られてしまうため、学習時間がほとんど取れない。授業中も眠い、集中できない。栄養ドリンクの量が増えている」(上智大学・ドイツ語学科)

食費や医療費が捻出できない

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節約のために友人付き合いを控えているという学生も多い。自炊はマストだ(写真はイメージです)。

GettyImages/recep-bg

3.「奨学金の返還」を理由に職業を選択

院に行きたいが、研究者として生計を立てられるようになる前に(奨学金の)返済は始まるだろうし、家族にも反対されることは分かっているから言い出しにくい。やはり『安定でそれなりの給料』ということしか進路の決め手にならない」(東京大学・文学部)


「自分が借りている奨学金は、県で10年働けば返済不要になるものだから、それまでちゃんと生きなければ、親に経済的負担を与えてしまうかもしれないので、命を大切にしたい。 正直、将来がもう奨学金返済のために決められていることは、自分の自由が狭まった気がしてとてもプレッシャーであるが、自分の家庭や学力ではこうするしかなかったというコンプレックスに悩まされる」(山形大学・医学部)

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識者は富裕層や企業に課税することで財源をまかなえると主張する。

出典:⾼等教育無償化プロジェクト『FREEについての5W1H』より

また、「服にお金をかけられないので大学の人に『ダサい』と陰で言われている」(津田塾大学) 「右膝の怪我で『場合によっては手術が必要』と医者に言われているが、生活費を捻出するのに精一杯で詳しい検査も受けられていない」(埼玉コンピュータ&医療事務専門学校)という声も。

「学費が無償になったら?」という質問には、「1日の食費を300円から増やす」(東京工科大学・工学部)「下のきょうだいたちの進学に心配がなくなるのでとても嬉しい。いま身体にも影響がでるほど働いている母の治療費に充てたい。自分も病院に行くかも」(勤医会東葛看護専門学校)という回答があり、食事や医療すら満足に受けられない学生もいるのが現状だ。

奨学金返す自信なく、大学を除籍に

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イベントでスピーチする男性。自身を「元学生」「フリーター」と紹介した。

撮影:竹下郁子

6月23日、同団体は東京・新宿で「伝えたい。私たちの言葉。」と題したイベントを開いた。当日は都内だけでなく地方からも学生が駆けつけ、代わる代わるマイクを握った。

私立大学に通っていたという男性は、3年生の後期分の授業料が払えず、除籍になったという。奨学金は利用していなかったそうだ。

「裕福な家庭でもないのに論外だと言われるかもしれませんが、奨学金を返す自信が無かったんです。高校のとき将来設計を立てる授業があったのですが、奨学金を返還するには高給料の職につくのが大前提。そんなこと将来の自分に保証することできますか? 私にはできません」(男性)


返せなかった場合に家族の負担になるのもこわかった。アルバイトをして学費を稼ぎ、来年、復学する予定だ。

私はたまたま裕福な家に生まれただけ

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東京藝術大学2年の北澤華蓮さん。自身は奨学金は利用していない。

撮影:竹下郁子

東京藝術大学2年の北澤華蓮さんは、同大学が授業料を約54万円から約64万円に20%値上げしたことに対して、撤回と説明会の開催を要求。署名活動などを行っている。文部科学省が省令で定める標準額は年間約54万円。国立大がそれを超えて引き上げるのは、東京工業大学に続いて2校目だ。対象は2019年度の学部入学生からで、北澤さんは対象外だという。

「一緒に署名活動する仲間は5〜6人くらいです。同じ学年には『うちら関係なくて良かったよね』という反応の子も多くて。でもそれは違う。私がここで学べているのは、たまたま裕福な家に生まれたから。お金がないからと諦めた知人も何人もいます。芸術は裕福な人だけのものじゃない。大学に考え直して欲しいから、私は声を上げます」(北澤さん)

参院選で注目すべきは「FREEマーク」

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アメリカ大統領選で民主党候補の1人であるバーニー・サンダース上院議員は、アメリカの学生ローンの債務総額を全額免除する政策を発表している。

GettyImages/Scott Olson

FREEには自らは奨学金を利用したりアルバイトをする必要のない、つまり学費がこれまでもこれからも進路に影響しない学生も活動している。声を上げるのは、未来の世代のためだ。

いま、7月の参議院選挙に向けて新たなプロジェクトを進めている。各政党の予定候補者に大学などの高等教育の学費値下げ、授業料免除枠の拡大、奨学金制度の改善についての考えをきくアンケート調査を実施。団体と同じ趣旨の政策を掲げる議員には「FREEマーク」認定をするという。

2018年、アメリカの中間選挙で高校生たちが銃規制を求め、全米各地をバスでまわって有権者に訴えたことなどに着想を得たそうだ。

「自己責任論」を打開し、学費値下げを自らの力で選挙の争点にしようとする若者に対し、日本の政治はどう応えるか。団体の調査に対する各候補者の回答は公表予定だ。

(文・竹下郁子)

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