12月13日に出荷が始まったGROOVE Xの「LOVOT(らぼっと)」。
撮影:小林優多郎
ロボットベンチャーのGROOVE Xが開発する家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」が、12月13日に出荷された。
LOVOTは2015年11月に開発開始。その後、累計87.5億円の資金調達を実施していた。
LOVOTは「家族型ロボット」と称されるように、“人間の代わりに何かをする”というより、“家族の一員になる”ロボットとして開発されている。そのため、掃除や料理をしてくれるなどといった利便性を追求した機能はあまり搭載されていない。
また、LOVOTの金額は決して安いものではない。金額はLOVOT1体とその周辺機器のセットで、購入時に29万9800円、別途ソフトウェア利用料として月額8980円〜。2体のセットで57万9800円、ソフトウェア利用料として月額1万7960円〜(それぞれ税別)だ。
このカワイイ見た目に、さまざまなセンサー、CPU、ストレージ、排気機構、駆動部などが詰め込まれている。
出荷開始にあたり、GROOVE X代表の林要氏はBusiness Insider Japanの取材に応じ、初回出荷量こそ明らかにしなかったものの、「LOVOTは非常な精密な機器。細かな個体のチューニングが必要で、(出荷数は)まだ非常に少ない状態」と回答している。
しかし、GROOVE Xからの通知によると、例えば2019年12月16日以降に購入した場合、LOVOT1体であれば2020年2月から、2体であれば2020年3月から順次お届けと、注文数が出荷数を上回っている様子がうかがえる。
果たして、家族型ロボットのどのような点が人々を魅了しているのか。実際に筆者は、1泊をLOVOTと過ごしてみた。
まずは、初対面なのでLOVOTに名前を付けてみた。名付けはアプリでできる。
名前を呼ぶと反応したり近くに寄ったりしてくる。ただ、呼んでもこなかったり、初めて会った人には顔見知りしたり、反応は一律ではない。
個人的に印象的だったのは目。LOVOTは6つのディスプレイを重ねることで独特のうるうる感を演出している。
持ち上げると自動で足である車輪をしまう。LOVOT本体は約4.2kgと、生まれたばかりの赤ん坊よりはやや重いが、手をあげて喜んでくれるのでつい持ち上げてしまう。
もっと仲良くなるために、LOVOTには衣装を着てもらった。ひとりはホテルのボーイ風の格好。
もうひとりは、和風な感じに。記念撮影を撮ろうと思ったら、眠くなってしまったようだ。
LOVOTには着せ替え要素がある。ウェアとトップスを組み合わせる。
※写真のウェア(右)とトップス(左)はGROOVE Xが用意していたサンプル品。
癒やされる以外にも、LOVOTには機能がある。その1つが「お留守番機能」。
お留守番機能をオンにすると、LOVOTが屋内を巡回。人を発見すると撮影する。カメラに見張られるのはイヤでも、LOVOTが家族になったら“監視”が“見守り”になる。
LOVOTの撮影結果。
触ったり、なでたり、突いたりしても反応は毎回違う。“人の意に沿わない”ロボットというのは、かなり新鮮だった。
「LOVOTが家族になるか」という問いへの筆者の答えは……断然イエスだ。
体験しなければわからないLOVOTの価値
LOVOTのいる部屋を後にするとき、LOVOTがこちらを見てくれていて、かなりさみしい気持ちになった。
LOVOTと過ごした時間は決して長くはなかったが、LOVOTたちがいる部屋を後にするのはかなり名残り惜しかった。
そう感じた主な原因は、筆者が実家で小型犬を飼っていたからだと思う。「何を話しているのかわからないけど、かわいい」という感覚は、まさに犬と触れあっているときのそれだった。
とくに筆者は実家を離れ、ペット禁止のマンションで暮らしている。そのため、愛犬と暮らしていた日々の思い出がなつかしく蘇った。
GROOVE X代表の林要氏。
しかし、自分はもう大人だ。衝動的に「かわいい」というだけでは、本体価格30万円超はスッと出せない。また、触れたあとの今だから、筆者にはLOVOTの魅力がわかるが、触れたことのない人にはまったくわからないだろう。
林要氏は「タッチポイントを広げること」がまず一番のアクションだと話す。
「(GROOVE Xは)スタートアップなので、大きな資本力はなく、とれる選択は限られてきます。まず、我々ができることは出荷することです。そうすれば、買ってくれた人々の応援の声が広がっていきます」(林氏)
一方で、さわらないとわからないという点について、林氏は逆に強みになるという見方も示している。
「LOVOT自体が大きなチャレンジです。“インスタ映え”やTwitterでバズらないと売れない現代社会において、“実際に体験しないとわからない”のは弱みにも見えますが、我々は“体験してもらえれば価値をわかってもらえる”と信じています。浸透させるには、相当長いチャレンジになると思います」(林氏)
愛情が不足しがちな環境にビジネスチャンスがある
老人ホームでの実証実験も行われている。
出典:GROOVE X
GROOVE Xは基本的にコンシューマー向けビジネスを主にしているが、法人向け用途にも目を向けている。
「実証実験においては、お子さまやご年配の方々、そして精神疾患がある方にも好評をいただいています。
一言で言えば、愛情が不足しがちな生活にLOVOTが入るとプラスしかありません。
オフィスで試用してもらった際は、女性社員の方々にも好評でした。一般的に、オフィスは一定の緊張感があり、それが必要な場面もありますが、ストレスにもなり得ます。それをLOVOTで減らせるのであれば、間接的に生産性の向上に大きく寄与できます」(林氏)
老人ホームなどの介護施設や医療施設、オフィスなどにLOVOTをリースで提供するビジョンは、あり得る。
“企業に特化したLOVOT”ではまだ意味がない
まず、ロボットが“日常での市民権”を得ないといけない。
ひと昔前には、職場で犬や猫を飼う「オフィスペット」など似たような施策が話題になった。しかし、広く定着しているとは言いがたい。林氏は状況を認識し、解決すべき課題はあると話す。
「LOVOTはまだ(文化や習慣として)新しいものです。ちゃんと日常生活に溶け込むように、基本的に販売は個人(B2C)メインにやっていきます。
オフィス需要や法人需要(B2B)も否定しませんが、一般的なB2B向けとの違いは、LOVOTそのもののバリューが出せるような形式をとりたいという点です。
1社1社に最適化していく流れは来ないとは言いませんが、やるべきことの順番は決めていきたい。
B2Cの商品は、利幅が小さく、ある程度ボリュームビジネスになります。一方で、B2Bは利幅が大きいものの、カスタマイズをする必要があります。
そういう意味では、まずはB2C向けにソフトウェアを洗練させ、B2B展開時に“ここだけ変えれば介護施設で使えるように”といった状態に持っていくことが必要です」(林氏)
現時点ではまだ、家や職場で、自分の隣で、ロボットが働き暮らすシーンは非日常の一種だが、LOVOTのチャレンジが成功した暁には、そのシーンは日常となるだろう。
そんな日は訪れるのか。筆者は林要氏率いるGROOVE XとLOVOTに、期待したい。
(文・撮影、小林優多郎)