スマホ国内トップメーカーが見た、日本のモバイル業界 ── 10万円超のスマホが売れ続けるのはありえない

家電量販店での売り場の様子

家電量販店での売り場の様子。スマートフォンの売り方やメーカーの種類などは、ここ1、2年で大きく変わった。

撮影:小林優多郎

2020年のモバイル業界はどう変わっていくのか。2019年に起きた動きを見ると、多少なりとも先行きが見えてくる。

2019年、日本のモバイル業界は大きく動いた。まず、「今より4割程度下げる余地がある」(菅官房長官、2018年に発言)という言及がきっかけとなり、分離プランや端末割引の上限が定められた。

10月には、楽天が自社設備による携帯電話サービスを(限定的ではあるが)開始。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの既存キャリア3社は、新プラン導入など対応に追われている。

IDC Japan調査結果

従来型携帯電話を除いた2019年第3四半期 国内市場スマートフォン出荷台数シェア。

出典: IDC Japan

そんな中、「国内ブランド」として頭角を現してきたのが、シャープだ。IDC Japanの調査によると、2019年第3四半期(7〜9月)の同社シェアは13.3%(国内スマートフォン出荷台数ベース)と、アップルに次ぐ2位の座を獲得している。

一時は、ソニーモバイルの「Xperia」にAndroid首位を独占されていたシャープだったが、なぜここまで市況が変わったのか。

シャープの通信事業本部パーソナル通信事業部長・小林繁氏に話を聞いた。

“ブランドの定着”が今につながった

シャープ 2019年新製品

シャープの2019年の代表的なスマートフォンラインナップ。

2016年8月、中国の製造業大手の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを買収。以後、部材調達の面で効果は出たが、端末企画などは引き続きシャープ側の人員に任されていた。同時期に小林氏がモバイル部門の責任者となり、まず手を付けたのはブランド戦略だった。

2017年以前では、NTTドコモ向けには「AQUOS ZETA」、KDDI向けには「AQUOS SERIE」、ソフトバンク向けには「AQUOS Xx」と名前がバラバラだった。その経緯を小林氏はこう語る。

「(キャリアごとに)名前がバラバラであることは、決して悪いことではありませんでした。シャープは、各社のさまざまなニーズに応えるメーカーです。お客さん(キャリア)ごとに約束していることは違うわけですから、シリーズ名を分けることは自然な決定でした」

シャープ小林氏

シャープ通信事業本部パーソナル通信事業部長の小林繁氏。

しかし、スマートフォンビジネスはそれまでの携帯電話ビジネスとは異なり、端末単体を売るだけはなく、メーカーとサードパーティーなどエコシステムのビジネスに変化した。

「(名前の統一によって)すべてのお客さまのタッチポイントで宣伝効果を最大化させる必要がありました。お客さまの頭の中に我々のブランドを入れてもらえるように。

また、売れるようになるには、売れているという印象も大事でした。名前がバラバラではそれもできません」

そこで小林氏は社内だけでなく、シャープにとって直接の“お客さま”にあたる通信キャリアの担当者とも交渉し、現在のブランド構成に絞り込んだ。

それが、いわゆるハイエンドでビジュアル機能重視の「R」、手頃な価格で堅牢性など安心感を重視した「sense」、有機ELや超軽量ボディーを実現した新しいもの好き(アーリーアダプター)向けの「zero」の3つだった。

日本での「中国メーカーの情勢変化」の影響は軽微

Huawei Mate 30シリーズ

ファーウェイが9月に発表したフラグシップ機「Huawei Mate 30シリーズ」は、まだ日本では発売されていない。

シャープの思惑と同時に、2つのトピックが国内市場では進行していた。

1つは、中国スマホメーカーの動向の変化だ。OPPOが格安スマホとして日本に特化したモデルをリリース、12月にはシャオミが日本上陸を発表し、製品を発売した。

同時に、SIMフリースマホ市場で大きな存在感を誇っていた中国メーカー・ファーウェイが、米中貿易摩擦によって販売に一部影響を受けるなど、シャープにとって“追い風”にも見える状況も発生した。

しかし、小林氏は「ファーウェイの影響はほとんど受けていない」と語る。

「(2019年発売の)AQUOS sense 3シリーズが売れているのは事実ですが、senseを好まれるお客さまとファーウェイの端末を好まれるお客さんは違います。

senseを購入される方は、日本ブランドに慣れ親しんでいる方や、純粋に安心さを求めている方であると認識しています」

中低価格帯のスマホがヒット

AQUOS sense3

4000mAhの大容量バッテリーや2眼レンズカメラを搭載した「AQUOS sense3」。

シャープの戦略において、中国メーカー勢の進退は予想外のものだったが、もう1つのトピックの“中低価格スマホへのニーズ”は、ある程度予想していたという。

「タイミングは偶然でしたが、ティッシュペーパーの価格が下がっているけど中身も減っているといった流れの中で、10万円以上するスマホが10年も20年も売れ続けるというのはあり得ないと考えていました。

それは、コンピューターも同じですよね。そういうターニングポイントは絶対に来るという予見はしていて、計画を建てていました」

実際、小林氏は「数量で言えば(ミドルレンジである)senseは圧倒的に売れている」とし、シャープは2019年に最新機種「AQUOS sense3」のほかに、CPUの処理性能やメモリー容量を増やした「AQUOS sense3 plus」や、格安SIMとのセット販売で2万円台の本体価格を実現する「AQUOS sense3 lite」を展開している。

画面折り畳み端末は「検討中」

Galaxy Fold

日本でも発売されたフォルダブルスマートフォン「Galaxy Fold」。

シャープは国内1位の座の次は、国内Androidスマートフォンのシェアで40%を目標に動いている。そのために必要なものは何か。

例えば、2019年にはサムスン「Galaxy Fold」といったフォルダブル(折りたたみ)型スマートフォンが国内でも登場したが、シャープもこのような波に乗るのだろうか。

「フォルダブルという形状の検討は常にしています。弊社が持つ技術的にも可能であるものという認識です。

ただ、マーケット的視点で実現性があるかは別です。例えば、防水に対応できるかとか、価格を下げられないかとか、考えるべき点はいろいろあります。

市場で受け入れられるかどうか、興味を持って検討をしている状態です」

シャープロゴと小林氏

2020年の“動き”は確実に2019年以上

2020年、まずやってくるのは5Gの個人向けサービスだ。すでに法人向けサービスは通信キャリア3社が手を着けているが、2020年の年頭初頭では3社とも「5Gの本格普及」に触れている。

5Gで生活が一気に変わる……という実感はすぐにはわかないだろうが、料金プランや使用できるデータ容量、そして端末には確実に表れてくる。

また、通信サービスという側面では楽天の本サービス運用も忘れてはいけない。現在、楽天は「無料サポータープログラム」という形で、限られたユーザーに対し、無償でサービスを展開しているが、公共の電波を扱うことと維持費の問題から長くは続かない。楽天が本格的な有償サービスを展開したとき、他の通信キャリアにどのようなインパクトをもたらすのか注目だ。

最後に、デバイスについて。2020年には5Gが始まるだけではない。多くの中国メーカーが国内に参入してきているし、10万円以上のスマホが誰でも購入できる時代は終わったものの、今後もさまざまな形状や機能をもった端末が登場するだろう。

そんな中で数少ない国内ブランドとなったシャープのAQUOSやソニーのXperia、富士通のarrowsなどがどのように奮闘するか。2020年は2019年以上にモバイル業界が変わる年になるのは間違いない。

(文、撮影・小林優多郎)

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