「五輪その後をイマイチにするな」、スポーツビジネス“立て直し請負人”千葉ジェッツ島田会長を直撃

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千葉ジェッツの前社長で現会長の島田慎二さんは、全日本テコンドー協会の副会長に就任した。

撮影:今村拓馬

バスケ男子・Bリーグの強豪チーム「千葉ジェッツふなばし」で敏腕経営者として知られた島田慎二さんが、2019年8月に千葉ジェッツの社長退任・会長就任した後、次々と新たな挑戦をし始めている。

9月に日本トップリーグ連携機構のクラブ経営アドバイザー就任、10月にBリーグのクラブ経営アドバイザー就任、11月にはBリーグ2部(B2)に所属する「ライジングゼファー福岡」のクラブ経営アドバイザー就任、そして12月末には全日本テコンドー協会 の副会長就任が決まった。

これまで築いたスポーツビジネスの哲学、東京五輪に向けて盛り上がる日本のスポーツ界に対する期待と課題を直撃した。

豪腕で千葉ジェッツを破産寸前から1億円の利益を出すまでに

新社長の米盛勇哉氏(写真左)と前社長の島田慎二氏。

千葉ジェッツの社長に就任した米盛勇哉氏(写真左)と前社長の島田慎二氏。2019年8月撮影

撮影:大塚淳史

旅行会社やコンサルティング会社を起業・経営してきた島田さんは、2012年2月、当時破産寸前だったチームの社長に就任。黒字経営に転換させ、事業規模も拡大させていった。

破産寸前だったチームは、約7年間で年間売上高が約17億6000万円、最終利益を約1億円を出すまでに成長させた。千葉ジェッツは、Bリーグトップの1試合平均観客動員数は5000人超の人気チームになり、天皇杯でも3連覇と実力を高めていった。

また、チームの攻撃の要で日本代表の富樫勇樹を、Bリーグ日本人選手初の1億円プレーヤーにし、独自のアリーナ建設を発表するなど、話題も振りまいていった。島田さんの経営手腕は、Bリーグだけでなく、日本のスポーツビジネスの観点でも注目された。

7年半にわたり、チームの経営を引っ張ってきたが、2019年8月に米盛勇哉社長にバトンタッチをした。

「完全に離れることも考えましたが、さすがに影響が大きすぎるので、会長としてとどまりました。米盛社長という若い経営者が自走できるようにサポートしています。ただ、出過ぎないように、(裏から仕切る)ドン感をださないように気をつけています。だから、ジェッツのオフィスにもほとんど行っていません」(島田さん)

誰もがやりたがらないからこそ楽しい

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千葉ジェッツ、日本代表で活躍する富樫勇樹。日本人初の1億円プレーヤーとなった。

撮影:今村拓馬

社長退任となった後、島田さんの力を借りたいという引き合いがいくつもあったという。さまざまな依頼があり引き受けたのが、財政問題を抱えてB1(1部)からB2(2部)に降格したBリーグ・ライジングゼファー福岡のクラブ経営アドバイザーと、トラブル続きの全日本テコンドー協会の副会長だった。

「世間的にはジェッツの会長ですが、ライフワークとしてスポーツ界全般にやれることやるべきことがあれば活動していこうとは思っていました。今は会長となって、少し動けるようになったので、福岡チーム再建の経営アドバイザーや今回のテコンドーの件も引き受けました」(島田さん)

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2016年リオオリンピックのテコンドー競技で、国旗を掲げて応援する金原昇・全日本テコンドー協会会長(当時)。

REUTERS/Issei Kato

特に全日本テコンドー協会は、「誰もやりたがらないらしい」とすらささやかれていた案件だ。選手と協会の対立、理事会での紛糾、金原昇会長(当時)のインパクトもあって、一時は連日ニュースで報道されていた。なぜ火中の栗ともいえるテコンドー協会の職を受けたのか。

「火中の栗系、あまりよろしくない感じのところは好きですし、意外と得意です。(破産寸前だった)ジェッツも当時まさにそうでした。改善、改革、ゼロをイチにする、上げるしかないものをやる方が楽しいですよね。上がっているものを微増するより、苦しいものをワッと上げた方がダイナミズムもやりがいもあります」(島田さん)

テコンドー協会に限らず、日本のマイナー競技団体は、選手強化費を捻出できない、協会のトップが長年変わらないといった課題を抱えているところが少なくない。島田さんが参画したのには、ここで手腕を発揮できれば、他でも応用できるのではないかという考えもあったからだ。

日本の競技団体、マイナースポーツは、補助金で存続している団体、マイナーながらも少ない競技者登録料で維持継続している団体がほぼじゃないでしょうか。オリンピックの時だけ盛り上がり、その後はシーンとするの繰り返しとなっているようなマイナーな競技団体は、2020年の東京オリンピック以降、どこも苦しくなると思います」(島田さん)


「テコンドーも、ガバナンスの改善、成長、マーケティング視点の取り入れと、マイナースポーツでも改善していけたら、横展開できるんではないかと思いました。スポーツ界の大半はマイナーですから。そこに応用できることも想定して関われば、自分にとっても意味があることだと思いました」(島田さん)

大事なのは「所帯に合った分だけ稼ぐ」こと

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千葉ジェッツの前社長であり現会長の島田さん。マイナー競技はマイナーなりのやり方があると説く。

撮影:今村拓馬

島田さんはテコンドー協会での自分のミッションは、シンプルに「お金を稼ぐこと」と掲げる。

「強化は(コーチなど)専門家がたくさんいますのでお任せして、私はどちらかというとマーケティングをやらないといけないという立場だと認識しています。いかにテコンドーでお金を集められるか。お金を集められたら、ある程度強化費用に回せます。マイナーでいかに稼ぐかがテーマ。お金がないと問題はたくさん起きます。ありすぎても問題は起きますけど(笑)。資金集めのところをまずやって、3つのバランス、経営、普及、強化をやっていこうと。まずは選手の人たちが困らず強化にできるようにしたいです」(島田さん)

テコンドーでも千葉ジェッツの時のようにうまく成長させることができるのか。ほんの数年前まで同じくマイナースポーツの域を出なかったバスケットボールがうまくいった理由を聞くと、島田さんは、コンパクトさにあるとした。

「バスケットボールが12人だったからです(ベンチ入り含めた試合登録選手数)。試合会場であるアリーナは小さいので、収益力はどんなに頑張ってもたかがしれています。ただ、事業採算性が努力によってなしえるのは、選手が12人しかいないから。選手やフロント、社員を含めた人件費が低いので、損益分岐点が野球サッカーに比べて極端に低い。野球、サッカーに比べて客は入らないし、スポンサーも少ないけど経営努力で採算があいます」(島田さん)

事業採算性という観点で、テコンドーも十分に改善できる余地があると見ている。

「プロ野球だと(1球団の)事業規模が何百億円といわれるますが、バスケは5、6億円で成り立つ。大事なのは、事業規模や人気ではなく、その所帯に合った分だけ稼げればいいだけです。では、テコンドーいくらなんですかと。年間経費なんてとても低いですよ。物の例えですが、(プロ野球の)巨人で数百億円を稼ぐより、テコンドーで数億円を稼ぐほうがたやすい。マイナーならマイナーなりの生き方がある」(島田さん)

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千葉ジェッツは天皇杯3連覇するほどの強豪となった。

撮影:今村拓馬

一方、バスケットボールもテコンドーも東京オリンピックの競技であり、それぞれ活躍が期待されるが、半年後に迫ったスポーツの祭典をどう見ているのだろうか。

オリンピックに向けて盛り上がると思うが、その後が心配。マイナー競技の補助金にしてもそうですが、そもそもこういう外的要因による押し上げは、ビジネスと一緒で“もろい”。

千載一遇のビッグイベントに向けてやるんではなくて、これを利用してその先どうするのかという視点を持たないといけない。(2019年にワールドカップが国内開催された)ラグビーはそこがあまり、“イマイチ”だったんじゃないかなと思っています。東京オリンピックも“イマイチ”コースをまっしぐらに進んでいる感じがしてならない」(島田さん)

(編集部注:ラグビーワールドカップで日本中が盛り上がり、ワールドカップ後もさまざまなカテゴリーで観客数が増えるなど恩恵を受けている。一方で、日本ラグビー協会の清宮克彦副会長の下で進めているプロリーグ構想は遅れている。現在は2021年秋のスタートなりそうだが、その時にはワールドカップ熱も冷めているかもしれない。また、当初の“完全プロ化”からトーンダウンしている現状もある)

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島田さん自身の会社「リカオン」。スポーツビジネスとは別に、一般事業、コンサルタント業や講演なども行っている。基本的には仕事量は7:3で、スポーツビジネス中心だそうだ。

撮影:今村拓馬

なかなか手厳しいが、それもスポーツの持つ力を知っているからこそ。島田さんがスポーツ界に関わる源泉には、中小企業の活躍を通して、地方創生に貢献したいという想いがある。日本の多くの地方が人口減など衰退の一途をたどっている。そこにスポーツチームが役立つのではないかと考える。

「日本には今、バスケ、サッカー、野球、バレー、卓球含めて、各地に400から500のなんらかのスポーツチームが点在しています。スポーツチームは、地域を活性化できるすごいコンテンツ。スポーツ界にいて発展に寄与することが、結果的に日本の中小企業を助けることであり、地方創生に関わることに寄与するではないかと思っています」(島田さん)

その体験を千葉ジェッツを通して味わった。試合で観客がくることで地元の店や交通機関は収益が上がり、また、移住してきたブースター(バスケではファンやサポーターのことをこう表現する)もいたそうだ。千葉ジェッツを軸として、地元千葉の経済が活性化していった。

「千葉はまだ関東圏で厳密に地方とは言い切れないかもしれませんが、スポーツクラブ経営の肝は、(千葉ジェッツの本拠地である)船橋だろうが秋田だろうが岩手だろうが変わらないと思います。再現可能だと思っている。そこを横展開していけて、そのクラブが盛り上がってきて、地元が元気になってきた、という状況になったらいいなとは思っています」(島田さん)

サッカーチームにも興味あり?

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島田さんはサッカー強豪・日大山形高校サッカー部出身。FWとして全国大会での活躍を夢見たが、全国大会に出る機会はなかった。「補欠、試合に出れない悔しさとか当時抱いた反骨心は今に活きています」(島田さん)

撮影:今村拓馬

バスケ、テコンドーとスポーツ界での活動の幅を広げつつあるが、今後、サッカー界に関わることはないのか。特に千葉ジェッツと同じ、千葉県を本拠地にしたジェフ千葉は、歴史が長い名門でありながら、長年J2(2部)で低迷している。

島田さんは冗談っぽく笑いながら、こう続けた。「ジェフは本来、経営力や財力がある。経営規模だけみたら、J1の中位にも入れるはず。もしそういうチャンスがあるなら、経営者にならなくても、なんかしら関わってみたいですね」

スポーツビジネスの“立て直し請負人”島田さんのとどまることを知らない意欲は、日本のスポーツ界でこれからも発揮されていくに違いない。

(文・大塚淳史)

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