アマゾンの新オフィスビルに入居するホームレスシェルター。バスタブも完備。
Mitch Pittman/Amazon
- アマゾンはシアトル本社にホームレスのためのシェルターを建設している。
- アマゾンと長く関係を築いてきた非営利団体「マリーズプレイス(Mary’s Place)が運営する。
- 同団体のマーティ・ハートマン代表は、シアトルのホームレス問題を解決するのは「企業だけではない」と話す。
マーティー・ハートマンが代表を務める非営利団体マリーズプレイスは、シアトルのホームレスを対象にシェルターを提供する事業を行ってきたが、2016年5月からはアマゾンが自社オフィスを建設するために購入したモーテル「トラベロッジホテル」を借り受け、シェルターを運営してきた。
アマゾンは同モーテルの撤去後に新本社ビルの建設を計画しており、貸し出しは2017年10月までの一時的な措置とされていた。
ところが、アマゾンは2017年5月、シェルター向けのスペース提供を恒久的な措置とすること、つまり新たに建設する本社ビル内にホームレスシェルターを常設することを明らかにした。
ハートマン代表はBusiness Insiderの取材にこう語ってくれた。
「施設を一時使用させてもらえただけでありがたい話なんです。迷惑をかけないようにしようと思っていましたし、期限が来たら出ていこうと考えていました。私たちがずっといられるような場所をつくろうと(アマゾンが)考えていたなんて、本当に知りませんでした」
マリーズプレイスの公式ウェブサイト。
Mary's place website
マリーズプレイスは、2020年の第1四半期中にアマゾン新本社ビル内に完成するシェルターへの移転を予定している。移転後は一晩で少なくとも275人のホームレスを受け入れられるようになる。
しかし、それは地域にいるホームレスのごく一部に過ぎない。シアトルが位置するワシントン州キング郡にはおよそ1万2500人のホームレスがいる。
とはいえ、新しいシェルターは同州で最大規模になる。家族ごとに個別の部屋が提供され、ペットを連れてくることもできる。「衛生エリア」はバスタブでの入浴が可能(既存シェルターの多くはシャワーのみ)で、年間60万食分の食事が提供される。
シェルターの入るビルは、3つのガラスドームから成るオフィス棟「アマゾン・スフィア(Amazon Spheres)の向かい。シェルターベッドの数は現在のトラベロッジホテルよりも46%多くなるという。
ホームレス問題を解決するには
マリーズプレイスの新しい家族用シェルターの外観。
Mitch Pittman/Amazon
マリーズプレイスは、ホームレスの独身女性のためのデイセンター(通所型の生活支援施設)として20年前に開設された。ハートマン代表はこう説明する。
「当初から子どもが来たら受け入れる準備はしていたのですが、そうしたケースはほとんどありませんでした。ところが、2009年になると家族連れでやって来るホームレスの方々が急激に増え、胸を痛めていたんです」
翌2010年、マリーズプレイスは女性と子どもが利用できる夜間シェルターを開設した。
シアトルでは、アマゾンが2010年に本社を置いてから、賃料や住宅価格が高騰した。2007〜17年の10年間で、平均賃料は約42%も上がった(アメリカ全体では18%)。それに合わせて、ホームレスの数は2014年以降、毎年9%ずつ上昇している。
住民のなかには、ホームレスの急激な増加はアマゾン本社がシアトルにあるせいだと考える人もいるが、ハートマン代表はそうではなく、手ごろな住宅が不足していることに原因があると考えている。
「何か1つの存在が問題を解決してくれるわけではないのです。企業だけでも、教会だけでも、政府だけでも、財団だけでもダメで、みなが一緒に取り組まなかったら前には進めません」
新たなシェルターの賃料はアマゾンが負担
新しいシェルターは現在内装工事中。
Mitch Pittman/Amazon
マリーズプレイスは現在、(アマゾン新本社以外に)10カ所でシェルターを運営しているが、その特徴として、銀行や派出所、レストランなど老朽化した施設をシェルターに転用する手法が知られている。
例えば、病院だった建物を転用したシェルターは、重病の子どもを抱えるホームレスの家族が使用している。
アマゾンの新オフィスビル内に完成するシェルターはマリーズプレイスが運営する中で最大規模となる予定で、毎年およそ400家族を受け入れるだけのベッドや毛布が用意される。災害など緊急時には75名を追加収容できる部屋もある。
また、シェルターのうち2フロア分(計30室)は、生命を脅かす病気を抱えた子どもを抱える家族向けに使われる。
「マリーズプレイスの一番良いところを1つの場所に集約させたシェルターと言えるでしょう」
アマゾンは今後10年間、もしくはマリーズプレイスが必要とするだけの間、施設にかかる光熱費、維持費、警備費、さらには賃料も負担するとしている。
一方、マリーズプレイスはシェルターの運営やプログラム実施にかかる費用、人件費、合わせて年間200万ドル(約2億2000万円)の費用を負担する。
ハートマン代表によると、新しいシェルターの最大の利点は、シアトルの中心部にあること。危機的なホームレス問題の中心地にあるというだけでなく、ボランティアに志願する人たちが通うのにも便利だ。
「誰が宿泊者で、誰がボランティアなのかわからない、そんな(垣根を感じない)コミュニティになれば」
アマゾンの従業員もボランティアできる
ホームレスシェルターは、このガラスドーム状の「アマゾン・スフィア」前に完成する新たなオフィスビル内に入居する予定。
REUTERS/Lindsey Wasson
マリーズプレイスは新しいシェルターで、健康管理と法務に関する相談を受けつけるクリニックも開設する。アマゾンはそこで無料のカウンセリングを提供するという。
シェルターの入居するビルの7階には、アマゾンの従業員がプログラミングを教えたり、子どもたちに読み聞かせをしたり、履歴書を書くのを手伝ったり、就職面接の練習をしたりできるスペースも設けられる。
ハートマン代表は、アマゾンの従業員が来て野菜を切ったり、赤ちゃんをあやしたり、誕生会を企画したり、ダンスパーティを催したりしてくれるのは、いつでも大歓迎だと話す。
「みんながここに来て、自分のスキルを生かしてもらえたら。でも、一番期待したいのは、ホームレスの方々との関係を築いてくれることなんです」
マリーズプレイスにとって当面のミッションは、(シアトルのある)キング郡の子どもを誰一人として屋外で寝せないようにすること。
「今夜外で過ごすその子どもは、栄養チューブにつながれているかもしれないし、腎臓移植を待っているかもしれません。あるいは、高校を卒業したいだけの子だったり、初めて立ち上がって歩くのを母親が心待ちにしている赤子なのかもしれません。
私たちはその子たちを救えるはずです。シェルターに招き入れて、いつか自分たちの家へと巣立っていく。そんなに長い時間ではありません。その子たちにとっては長い人生のワンシーズンに過ぎないのですから」
(翻訳:Miwako Ozawa、編集:川村力)