結婚式の“謎ルール破り”をしてみた。新郎ファーストも○○家もやめて起きたことは?

実家への正月帰省中、親族からの結婚や結婚式へのプレッシャーで疲弊した人もいるだろう。実は日本の結婚式の多くが「新郎ファースト」がデフォなこと、知ってましたか?

「招待状の名前は新婦が先だと失礼」「故人でも父親を上座にするのがマナー」「えっ、バージンロードを1人で歩くの?」

これは数多くの慣習を“こっそり”破り、男女平等な結婚式を目指して奮闘した、あるカップルの記録だ。

男女平等な結婚式を目指して

結婚

「新郎ファースト」な結婚式をやめた夫婦に、ある変化が起きていた(写真はイメージです)。

GettyImages/Luke Chan / EyeEm

「えっ、『お嫁入り』されたんじゃないんですか」

結婚式の招待状は、新婦の名前を先にしたものも作りたい——。Aさんが自身の式を担当するウエディングプランナーに告げると、そんな言葉が返ってきた。

Aさん(女性、30代、会社員)は交際していた男性と2019年に結婚。同年、結婚式を挙げた。Aさんはもともと結婚式にあまり乗り気ではなかったそう。人から注目を浴びるのが苦手、かつ、これまで参加した経験から「結婚式=新婦は添え物」 「男尊女卑的」 というイメージがあったからだ。

一方で、結婚式賛成派の夫や実家の願いを叶えたいという思いも。

「どうせやるのなら、男女平等な結婚式にしたいと思いました」(Aさん)

しかし、いざ準備を始めると、冒頭のように困難の連続だった。プランナーから案内された招待状のフォーマットは全て新郎の名前が先になっており、「入籍」したことを記したものや、新郎新婦それぞれの「父親」が連名になったものもあった。

「家制度」の名残マナーがあちこちに

渋谷

GettyImages/Matteo Colombo

Aさんカップルは婚姻届を提出し、互いにそれまで属していた戸籍を外れ、夫婦のための新しい戸籍を作った。法律婚では一般的なパターンだが、これは「入籍」ではない。

明治時代の「家制度」は、結婚相手の男性の家の戸籍に女性が入ることを「嫁入り」と呼んでいたが、戦後、民法が改正され廃止されている。

にもかかわらず、全て新郎の名前が先に記されたり、入籍という言葉が用いられているのは、家制度の名残、そして男尊女卑の社会の空気を強く感じた、とAさんは言う。親、しかも父親のみが連名になっているのも、一家の主である「戸主(たいていが父親)」の許可がなければ結婚できなかった家制度を思わせる。

そもそも結婚式と戸籍は何の関係もない。Aさんはプランナーにこうしたことを説明し「 家父長的な結婚式にはしたくない」 と伝えた。

新婦の名前を先に書くのは失礼ですか

女性

結婚式のマナーサイトの招待状に関する項目には、名前の記述は当然のことなのか、触れていないものも多い(写真はイメージです)。

GettyImages/Aneta Pucia / EyeEm

コンセプトには共感してもらえたものの、招待状は新婦の招待客には新婦の名前が先に、新郎の招待客には新郎の名前が先に書かれた2パターンを作りたいという要望には、

「間違いだと思われますよ」

「親御さんやご親戚、ご友人、会社の方に失礼になる可能性があります」

「もし本当にやりたいなら、必ず事前に説明して許可を得てください」

と畳みかけられたそうだ。さらに、2パターン作った「前例がない」ため、料金も2倍かかるかもしれない、と。

「ある程度の反対は想定していましたが、やっぱりショックでしたね。私の名前が先にくることは『失礼』なんだと。しかも前例すらないのかと。今は笑い話として語ることができますが、当時は手が震えました」(Aさん)

結局、料金はある部数以上を発注すれば追加料金はかからないとのことだったが、こうした対応に嫌気がさし、招待状は別の業者に発注した。

しかし、そこでもトラブルが発生する。ウェブフォームに新郎新婦の名前を入力すると、自動的に新郎の名前が先に記載される仕組みだったのだ。例外は「婿入り」を選択したときのみ。交渉して2パターン作成してもらうことになったものの、上がってきた見本は、全て新郎の名前が先になったものだった。

「新郎ファースト」やめました

結婚

ほとんどが「男性優先」のルールになっていることに、筆者も取材をして気づいた(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

紆余曲折ありながらも、Aさんカップルは結婚式で以下のことなどを実行した。ちなみに挙式は人前式で、披露宴も同日に行っている。

招待状:「入籍」という表現や「父親の連名」は無し。結婚式を挙げることのみを記し、新婦のゲストには新婦が先に記されたものを送る。

呼び名:新郎新婦共に旧姓フルネームを使用。「○○家」という表記は使わない。

司会が名前を呼ぶとき、またプロフィール紹介などは新婦→新郎の順番。

席次:挙式と披露宴で、新婦・新郎の上座・下座を入れ替える。

入場・歩く際:挙式でのいわゆる「バージンロード」は新婦1人で。披露宴の入場や2人で歩くときは腕を組まずに手をつなぎ、新婦が下がらず並んで歩く。

誓いの言葉:新婦→新郎の順番で。

ファーストバイト:腕をクロスさせ、同時に、かつ自身で食べる。

挨拶:始めの挨拶と締めの謝辞は新婦→新郎の順番で2人共話す。新婦の手紙は無し。

どれも1つ1つプランナーに交渉して実現したことだ。結婚式の設定は基本的に「新郎ファースト」。順番は新郎→新婦、上座=新郎、下座=新婦がデフォルトになっている。挨拶や謝辞に至っては新郎のみだ。

故人でも「男が上座」

結婚式

GettyImages/Onfokus

特にプランナーの抵抗が強かったのは、席次だという。新郎新婦が座る「高砂」も、家族・友人・会社などそれぞれの招待席も、写真撮影のときの位置も、すべて新郎側は上座、新婦側は下座が「常識」だと説明された。結局、高砂は挙式と披露宴で上下を入れ替え、挙式では招待客は自由席にしたものの、披露宴は上座に新郎側、下座に新婦側にしてプランナーの意見に従うことに。

さらに1つのテーブルの中にも上下があり、家族テーブルでは「男性を上座」にするよう言われたという。Aさんの父親は亡くなっており、式に参加するのは母親だけ。父の席には生前の写真を立てる場合でも、だ。

「父を蔑ろにするわけではなく、今いる母を大切にしたいと説明しました。それでも『それは間違いです』『婚礼の儀式では父親が上座だと決まっています』と散々言われて……結局は押し切りましたけど、驚きました。

家族に関していうと、挙式で親と一緒に入場することや、親への感謝をつづる『花嫁の手紙』も断りました。どちらも新婦が親から新郎へ『もらわれていく』、だから感謝しないといけないという家父長的な価値観があると思います。そんな演出に乗りたくなかったんです」(Aさん)

「まつエクは当日までNG」、妻に指示する夫たち

同性婚

今後増えることが予想される同性同士の結婚式。だからこそ、「個人を尊重する式のあり方」が求められる。

GettyImages/Tj Samuels / EyeEm

驚いたのは式のマナーだけではない。

式に合わせて施術した「まつげエクステ」で、スタッフから「外して帰りますか?」と尋ねられたのだ。聞けば、彼氏や夫から「派手なものはダメ」と言われるため、結婚式前に試しにまつげエクステをしても外して帰る女性が多いのだという。

「そんなことまで指示する男性、先が思いやられますよね。『妻は夫の所有物』という感覚は若い世代でもまだあるんだと衝撃でした」(Aさん)

新郎ファーストな結婚式がいまだ主流な背景には、こうした当事者の価値観もあるのかもしれない。

式を振り返ると、工夫をしてもなお「新郎ファースト」な部分が多かったとAさんは言う。それでも「『旦那が尻に敷かれている』と思われるんじゃない?」と心配する親族もいたそうだ。

「大々的に『男女平等』を謳ったわけではなく、こっそり順番を変えたりしただけでしたが、それでも式場から何度も反対されたり、傷つくことも多かった。

あらゆることが男性優位で、それが当たり前になっている現状はやっぱり怖い。新婦も新郎も平等に扱って欲しい、ただそれだけです。同性パートナーと結婚式を挙げる人も増えてくるでしょうし、個人を尊重する式のあり方は、今後もっと必要になっていくはずです」(Aさん)

こうした結婚式への違和感は、過去数十年に渡り、少なからぬ女性たちが抱えてきたものだ。Aさんと同様の試みをしたカップルは筆者が知るだけでも複数いるが、直接Aさんの背中を押したのは、立命館大学専門研究員の横田祐美子さんだという。(私が『男尊女卑・家父長制』を退けた『結婚式』を挙げた理由

夫の方がショックを受けた理由は

男性

結婚式を通じて、価値観を改めて確認し合えたという(写真はイメージです)。

GettyImages/Westend61

男女平等な結婚式は、夫婦の関係も変化させた。

Aさんが特にこだわったのは、披露宴の司会などで旧姓で呼んでもらうことだ。Aさんは結婚して夫の姓になったが、制度が導入されれば選択的夫婦別姓を希望している。「『○○家の人間になったのだから』『妻は夫に従うべき』という社会の抑圧を、幼い頃から感じていたからだ。 「そんな状況になりたくないという思いがありました。『夫の名札』をつけられるような、対等な個人ではなく付属物になるような感覚も」(Aさん)

海外赴任中の夫もプランナーとの打ち合わせにはスカイプで参加し、招待状の準備などを積極的に買って出た。Aさんの結婚式の提案には賛成する一方で、なぜそこまで男女平等や選択的夫婦別姓にこだわるのか、準備が始まるまではあまり理解していなかったという。

プランナーからの強固な反対や、ごく普通に用意された男性ファーストな式のフォーマットを目の当たりにし、Aさんよりむしろ夫の方がショックを受けていたそうだ。

「結婚式をしなければ、こんなにガッツリ家父長制や男尊女卑について彼とじっくり話す機会は取れなかったと思います。女性は日々こうしたことを感じながら生きているけど、優先されることが当たり前の日常を過ごしてきた男性に理解してもらうのは難しい。こうして『ね? そうでしょ?』とたくさんの例を示したことで彼も痛感したようです。

今は選択的夫婦別姓にも大賛成で、『早く導入されると良いのに』『制度ができたら絶対にそうしよう』と言ってくれています」(Aさん)

(文・竹下郁子)

※編集部より:本文中、取材対象者の方が参考にされた事例について、加筆しました。2020:1月10日20:30

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