口コミからバズ記事生むAIライター。取材も人件費も不要で約300倍成長

カフェ

電源のあるカフェで、パソコンを開いて時間を潰したい。まずはスマホで検索だ。

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東京・渋谷で次の用事まで1時間程度ある。この間にパソコンを開きたいから、電源のあるカフェを探そう。あなたのすることは、スマホを取り出してグーグル検索に「カフェ」「渋谷」「電源」を打ち込み画面をタップ。表示されるカフェ情報をチェックする——。

グーグル独自の検索アルゴリズムで、高評価を受けたウェブサイトは上位に表示される。自ずと上位にある記事ほど参考にするだろう。では、あなたが「渋谷の電源ありカフェ」を探すために開いた、その記事を書いているのは誰だろうか?

すでにそれは、人間とは限らない。

「渋谷」「カフェ」ヒット記事の書き手はAI

SHIBUYA

出典:Retty

2019年最新!渋谷のカフェ 電源で今年人気のおすすめ15店、最近話題の 渋谷 カフェ 電源 のテーマに合ったおすすめのお店を見つけましょう——。

そんな文面で始まる、複数のおすすめカフェが写真と口コミ、店舗情報などで紹介されたまとめ記事。「渋谷」「カフェ」「電源」をキーワードにしたグーグル検索で、コンテンツでは1番目に上がってくるこの記事は、グルメサービスRetty社のものだが、作成ライターは……

「AIです」

そう話すのは、Rettyイノベーションラボ、ラボ長の樽石将人さんだ。

Rettyは実名による口コミグルメサービスなので、もともとグルメに関する、しかも実名の口コミデータが大量にある。

「多くのユーザーの支持を得て拡散された口コミを学習させることで、食の領域で支持されるキーワードや口コミに精通したAIになります。『タピオカ』『低糖質』など人間が設定したキーワードに基づき、学習結果から支持されそうな口コミを組み合わせ、検索上位に上がりそうなまとめ記事を、AIが作っています」

樽石さんは口コミまとめ記事を作るAI、「まとめ記事自動生成ソリューション」の開発者。米RedHat、グーグル、楽天などでサービス開発を手がけてきた実績あるエンジニアだ。

2年間で285倍の驚異的な成長っぷり

Retty

Rettyイノベーションラボ、ラボ長の樽石将人さん(右)と、広告コンテンツ部門担当役員の梅田亮さん。

撮影:滝川麻衣子

樽石さんが手がけた“AIライター”である「まとめ記事自動生成ソリューション」の作成記事数は、1年間で2万ページ以上。シェア数が多いなど支持されている口コミの学習結果から、検索結果で上位表示されやすいと見込まれる記事を、AIが作成している。

その結果、記事の実績は目覚ましい。2018年1月時点で2万MAU(月間アクティブユーザー)だったのが、2019年12月では285倍の570万MAUに成長した。

自社のグルメ関連記事にとどまらない。アパレルや旅行、化粧品、人材系などさまざまな業界の企業が、Rettyの「まとめ記事自動生成ソリューション」を導入。

各企業のサイトやサービスに寄せられる口コミから、AIはテーマ別に支持を集めやすいと見られるまとめ記事を作成している。

とあるアパレルEC通販サイトに、Rettyの「まとめ記事自動生成ソリューション」を導入したケースでは、グーグルでの特定キーワードによる検索で、1〜3位表示ページは約2000ページ。ウエブ集客は導入後に大幅な成長実績を出しているという。

DeNAのウェルク問題で露呈したまとめ記事の限界

ウェブライター

人気を集めたまとめサイトだが、DeNAによる無断転用やいい加減な情報の作成は批判を集めた。背景には、低賃金で大量生産させられるウェブライターの労働力問題があった。

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樽石さんがこうした“AIライター”を開発した背景には、キーワードに従って大量に記事を作成するまとめ記事には、「読者ニーズはあるが事業としての継続に限界がある」(樽石さん)と考えたことがある。

それが露呈したのが、2016年に炎上したディー・エヌ・エー(DeNA)による医療健康情報サイト「WELQ(ウェルク)」問題だ。DeNAはインターネット上で書き手を募集。安価な報酬で1日数十本という大量の記事を、検索されやすいキーワードに従って作成させた。このビジネスモデルは、結果的に書き手を疲弊させ、コピペや盗用、劣悪な記事を量産する悪循環を生み出していった。

しかし“AIライター”なら、人件費はじめ運用コストをかけずに、追加開発ゼロで大量の記事を作成できる。口コミが更新されればAIも情報を更新するし、現時点ではステマなど悪質な口コミは淘汰されているという。「圧倒的な労働生産性」が確保されるわけだ。

現時点では人間とAIの仕事はセット

Rettyが、自社の口コミサービスを元にまとめ記事を作成する部署には、人間のライターと、樽石さんが開発した“AIライター“が共に働いている。樽石さんはそれぞれの得意分野についてこう説明する。

「人間のライターが書いた記事はニュースアプリなどでバズりやすい。ただし記事の寿命は短いです。一方、AIの作った記事はランチスポットまとめなどがグーグルに評価され、徐々に選ばれ支持される、息の長いバズになる傾向があります

さらに、人間ライター記事でもAIライター記事でも、社内では全記事を人間の担当者が内容を確認。人間のライターが書いた記事を、AIが学ぶ対象の「教師データ」とすることもある。そもそも、AIが学習する口コミデータ自体は、人が発したもの。人間とAIがそれぞれ役割をもち、現時点では共存している。

あなたの求める情報を探すのもAI、作るのもAI

スマホ

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ただ、こうした「キーワード検索」の世界では、上位表示される情報を選ぶのもAIならば、記事のかたちで検索上位に表示されやすい情報を作る側もAIだ。人間の意思決定そのものがAIの「想定内」に終始しているような、奇妙な感触も否めない。さらにRettyは今後、口コミ個人データを元にパーソナライズされた情報提供も視野に入れているという。

AIと個人データ利用をめぐる倫理的な基準や線引きを、どう考えればいいのだろう。

個人情報保護法改正も控え、さらに厳しくなるだろうコンプライアンスについては「当然の前提」とした上で、Rettyの樽石さんは「基準」についてこう話す。

「全てはユーザーのために、です。個人データ活用は、ユーザーつまり個人の体験を良くするために行われているかどうかが、全てのフィルターだと考えています」

データを活用する企業や組織の成長ベクトルと、データの持ち主である個人の幸せの間に「ズレ」が生じる時、AIと倫理をめぐる問題は起きると見るからだ。

法律的にオッケーでもユーザー的にノーはある

おすすめのお店情報や商品といった日々の購買行動から、採用や就職、人事評価といった人生を左右しかねないようなセンシティブな情報まで、ネット上に蓄積されている個人の行動データのAI活用が、今後ますます活発化していくことは止めようがない。

無意識のうちにも私たちは、AIネットワークの張りめぐらされた日常をすでに生きている。企業や政府など大きな組織による個人データ乱用と、健全なAI活用との関係の線引きは、どこにあるのだろうか。

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「AIと倫理の問題でいえば、最重要なキーワードは社会的受容性です。リクルートの内定辞退率問題にしても、法律で語られる問題も当然ありましたが、8割方はルールというよりは社会的受容性の問題。法的に適切かということはもちろん必要ですが、それ以上にユーザーがどう思うかが問題です」

そう指摘するのは、超高齢社会や介護分野の、AIによる社会問題解決に取り組む、エクサウィザーズ代表の石山洸氏だ。リクルートHDのデジタル化を推進し、リクルートAI研究所の初代所長も務めた人物だ。

社会問題解決×AIという事業を大企業、スタートアップで手がけきた石山氏は「デジタルトランスフォーメーション(デジタル利用した変革)があらゆる企業にも浸透する時代に、社員のITリテラシーを上げる教育をやらないと、事故率が上がるだけになる」と指摘する。

AIはいい方に使おうと思えばいくらでも使えるし、その逆も同様で、運用と設計次第です

その上で、日本社会の現状を石山氏はこう見る。

「(AI活用と倫理をめぐる)リテラシー教育は、大企業でもほとんどなされていない。これまでのコンプラ教育と全く違うことを、やらなくてはならない時期に来ているのです」

快適なAIライフと個人データが乱用される世界は、背中合わせだ。全ての企業や組織が、AIや個人データの利活用をめぐり、法令遵守にとどまらない倫理的な「基準」や「線引き」を、とらえ直す時がきている。

(文・滝川麻衣子)

編集部より:初出時、記事中タイトルで、1年間で285倍としておりましたが、正しくは2年間で285倍です。 2020年1月8日 15:25
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